toufu原作によるTVアニメ「Lv1魔王とワンルーム勇者」が7月3日より放送されている。同作は、かつて栄光を手にした勇者マックスと、彼の宿敵・魔王が10年ぶりに再会したことから始まる物語だ。魔王討伐後にさまざまな事情から腐ってしまったマックス。過去の輝きを失いすっかり落ちぶれた彼を見かねて、本来敵であるはずの魔王は彼の世話を焼くことを決める。魔王の秘書官ゼニアや、マックスと冒険をともにした仲間たちも加わり、彼の生活は波乱の気配を帯びていく。
コミックナタリーでは放送を記念し、「Lv1魔王とワンルーム勇者」の特集を展開中。toufuがCOMIC FUZで連載している原作の魅力を深掘りするコラムをはじめ、マックス役・中村悠一や魔王役・大空直美らキャストのリレーインタビューを掲載する。自堕落勇者にちびっこ魔王、ドジっ子脳筋秘書官など、キャラ立ち100点満点の濃いメンバーを、キャストたちはどう演じたのか? 詳しくはインタビューでチェックしてみよう。
文 / 太田祥暉(TARKUS、P1)、取材・文 / 佐藤希(P2、3、5)、伊藤舞衣(P4、6)
キャストリレーインタビュー
「Lv1魔王とワンルーム勇者」あらすじ
物語の舞台は、勇者マックスと3人の仲間たちが、魔王を討伐してから10年後の世界。人間界は急速に発達し、魔界では打倒マックスを誓った魔王が復活の日を待ち望んでいた。いよいよ迎えた目覚めの日、魔王は無事復活を果たすも、焦るあまりに魔力の蓄積が足りず子供のような見た目となってしまう。マックスの家に殴り込むと、そこにはゴミ山の中に寝そべる1人の腑抜けた男が。かつての輝きを失い、小汚いワンルームでゴロゴロしているこの男こそ、宿敵マックスその人だった。
ポンコツだらけの異世界コメディ「Lv1魔王とワンルーム勇者」
文 / 太田祥暉(TARKUS)
勇者と魔王が織りなす新たなファンタジー
中世ヨーロッパ風の世界を舞台に、勇者が魔王を倒して平和を取り戻す……という物語は、ゲーム「ドラゴンクエスト」が社会現象を巻き起こした1980年代より日本人の物語観に大きな影響を与えてきた。それまで簡単には言い表せなかったファンタジーというジャンルの代名詞として、「勇者が魔王を倒し、世界平和を取り戻す」というテンプレートが生まれた瞬間である。そこからいろんな作品が生まれ、現在ではWeb小説や、そのコミカライズを含めた1ジャンルとして、異世界に転生した現代人が魔王を倒す物語ないしそれを逆手に取った派生形作品が数多く生まれている。
勇者と魔王の関係性を取ってみても、主人公(プレイヤー)と宿敵(ラスボス)として始まったものがいつまでもそのままでいるはずもなく、昨日の敵は今日の友という少年マンガ的メソッドから共闘する展開が描かれる作品も少なくない。例えば橙乃ままれ「まおゆう魔王勇者」では勇者が魔王とともに身分を隠し経済活動を始めていくし、和ヶ原聡司「はたらく魔王さま!」では異世界から現代日本に転移した魔王と勇者が必死に働きながら、ときには共闘する展開が描かれている。
2020年COMIC FUZ(芳文社)で連載が開始されたtoufu「Lv1魔王とワンルーム勇者」は、まさしく「ドラゴンクエスト」から連なる文脈にあるコメディマンガだ。勇者・マックスによって魔王が倒され、平和になった世界。しかし、魔の眷属は七生をまっとうできるため、10年後に魔王は復活する。ただ、魔王は眠りが浅かったためか幼い子供のような不完全な姿となってしまう。そんな魔王は自らを下した憎き勇者のことが気になる様子。彼の元へ急いで行くものの、戦いから10年が経過してマックスは堕落し、汚いワンルームで過ごすだけの男になっていた……。
堕落した勇者と幼い魔王の関係性が尊い!
勇者・マックスは、魔王との戦いから10年を経て自堕落な生活をしている存在である。聖剣ブレイズブリンガーも乱雑に置き、部屋はゴミが散乱。数年前には未成年淫行疑惑や一般人への暴力沙汰がニュースとなり、やる気をとことん失っている。そんな彼の姿を見かねた魔王は、変容した人間社会を学ぶという名目で半ば強引に居候をし始める。
本作で肝となるのは、マックスと魔王の関係性の変化である。10年前、全盛期のマックス率いる勇者パーティによって魔王は倒された。つまり自らを一度は殺した憎き敵であるのは間違いないのだが、なぜか復活した魔王は堕落したマックスの世話を焼いていくこととなる。それは魔王を慕う秘書官のゼニアも同じで、3人はいつの間にかよくつるんでは一波乱を起こす仲間になっていく。
しかし、マックスはかつての栄光はどこへやら、何事にも無気力である。一緒に戦った戦士・レオが国から邪魔者扱いされたとしても、自分が出る幕がないとばかりに不関与の方針を貫いている。その様子を見ていた魔王は、マックスの煮え切らない姿勢にはっぱをかけるのだ。やる気のないマックスを応援する様はまるで世話焼きのお母さん! かわいらしい頭身のビジュアルとのアンバランスさも相まって、独特の癒しを感じられる。
……と書いてしまうとマックスがいかにもダメ人間に思えてしまうのだが、もちろんそれだけには終わらない。いくら戦いの後にかつての仲間たちと別れてしまったとしても、思いは不変のもの。現在は魔導庁で長官を務める僧侶・フレッドや、独立国のリーダーとなった戦士・レオたちが相対するような場面があれば、仲間思いのマックスは勇者の頃と同じ信念を持って2人の仲を取り持とうと奮起する。そのカッコよさといったら……!
キャラクターのポンコツ加減がキュート!
いつもは「魔王(母ポジション)に世話を焼かれる無気力な一般男性(息子ポジション)」である2人が、いざ戦いとなれば「かつての宿敵同士が力を合わせる」という少年マンガメソッドとなるコントラスト。随所にコメディシーンも挿入され、その緩急によって2人の関係を眺めることに病みつきとなっていく。
コメディシーンといえば、各キャラクターのポンコツさも魅力の1つ。勇者と魔王、そしてその一行となればどうしてもカッコいいとか清廉とした印象が付きものである。とはいえ、ここまで触れてきたように勇者は自堕落な生活を送っているし、魔王も幼い身体になってしまっている。そのアンバランスさがポンコツ加減につながっているのが、本作ならではのポイントである。
例えば、魔王は人間社会に疎いので、およそ通常なら着ないような服を着て行動したりする。また、いかにも頭が冴えていそうなゼニアは、魔王の秘書業務はまだしも、それ以外の面では粗相ばかり。お酒を飲めば全裸で暴れてしまうし、任務内容を勘違いして大惨事に発展させてしまうし……。
そのアンバランスさは勇者パーティーも同じこと。常にマックスへ強く当たるフレッドは実は仲間思いの青年であるし、熱血漢のレオはいわゆる筋肉バカ。そんなパーソナリティを知りながら、魔王との戦いから現在までの間に経験したさまざまな葛藤について明かされると、物語がよりいっそう面白くなる。
「Lv1魔王とワンルーム勇者」はホームコメディに非ず!?
芳文社のCOMIC FUZ連載ということで、もしかしたらまんがタイムきらら的なゆるふわとしたホームコメディを想起した方も少なくないと思う(むしろこの文章を書いている僕がタイトルと表紙の印象からそう感じていた)。しかし冒頭から小汚いワンルームに寝そべる中年勇者と、魔力が足りずちびっこになってしまった魔王の再会という、衝撃的な第1話からの幕開けとなる。読者としては「この先どんな荒唐無稽な出来事が起きるのだろうか?」と思うだろう。その予想は当たらずといえども遠からず、荒唐無稽な事件の数々は起きるものの、物語は予想もできない方向へ進んでいく。
そんな先の読めない物語の推進力の源は、常に勇者と魔王の関係性にある。お互いに10年前とは異なる姿でありながら、変わらぬ強さを持っている。それ故に2人の距離は縮み、力を合わせるようになっていくのだ。
この夏から放送・配信が始まるアニメ版も楽しみだが(PVを観ると、キャストの芝居がキャラクターにバッチリハマっていて驚くこと間違いない)、まだ本作をご存じない方はぜひ原作から先に読んでいただきたい。キャラクターの魅力を知ったうえで映像を観ると、絶対に理解度が高まるはずである。勇者と魔王のなんとも言えない距離感と信頼感に、ハマること間違いない!
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マックス役・中村悠一インタビュー