日本一有名な泥棒・ルパン三世一味と、華麗に夜を駆ける怪盗三姉妹キャッツ・アイの強力タッグによる新作アニメ映画が誕生。モンキー・パンチ「ルパン三世」のアニメ化50周年と北条司「キャッツ・アイ」の原作40周年を記念したコラボアニメ映画「ルパン三世VSキャッツ・アイ」が、1月27日よりPrime Videoで世界独占配信される。同作の舞台は、1980年代の日本。来生姉妹に関係が深い、ある画家の絵画を巡り、ルパンとキャッツアイが激しく、美しく火花を散らす。
コミックナタリーでは配信を記念し、「ルパン三世VSキャッツ・アイ」の見どころを解説する特集を展開。「ルパン三世」「キャッツ・アイ」両作品に精通するライター・小林聖が、「ルパン三世」のエキセントリックな世界観と「キャッツ・アイ」のエモーショナルなストーリーラインが見事に融合した同作の魅力を、たっぷりと綴っている。「ルパン三世VSキャッツ・アイ」が感じさせる、“ちょっと特別”な味わいとは?
物語の舞台は1981年の東京。昼は喫茶店を営み、夜は怪盗キャッツアイとして世間を騒がす美人三姉妹、瞳・泪・愛は、ある晩美術展から1枚の絵画を盗み出す。時を同じくして、神出鬼没の大泥棒・ルパン三世も東京に出没。彼もまた、とある武装組織を出し抜き、絵画を盗むことに成功した。
両者が盗んだ絵はどちらも、画家ミケール・ハインツの描いた作品、「花束と少女」3連作の1枚。キャッツ三姉妹にとっては、父であるハインツの消息を掴むための重要な手がかり。
伝説的な泥棒・ルパン三世の“獲物”が自分たちと同じであると知った彼女たちは、その眼差しに美しい闘志を宿し……。
「ルパン三世」らしいエキセントリックな世界観に、「キャッツ・アイ」らしい心を揺さぶるエモーショナルな物語が融合し、レトロ&スタイリッシュな、爽快クライム・アクションが繰り広げられる。
文 / 小林聖
国民的泥棒×怪盗の必然で不思議な出会い
ルパン三世とキャッツアイが競演する。必然のようで、どこか不思議な感触がするコラボレーションだ。
「ルパン三世」は特別な作品だ。40年以上絶え間なく作品が作られており、シリーズ・作品ごとに少しずつルパン像に変化があり、捉える側面が異なっているが、それでいてどれもルパンだと思わせることができる。アニメ評論家・藤津亮太の言葉を借りるなら「ルパンはジェームズ・ボンドなどと同類の、記号がゆえに永遠に変わることのないキャラクター」(「増補改訂版『アニメ評論家』宣言」収録「パラシュートの白い寂しさ『ルパン三世 カリオストロの城』」より)というわけだ。
その強固であり同時に柔軟なキャラクターと世界観があるからこそ、「ルパン三世VS名探偵コナン」や本作のような他作品とのクロスオーバーも容易になる。
特に今回のコラボは作品同士の符合も強い。ともに日本を代表する大泥棒の物語というのはもちろんだが、それだけではない。
「キャッツ・アイ」は泪・瞳・愛の来生三姉妹、特に次女の瞳を中心とした物語だ。彼女たちは普段は喫茶店「キャッツアイ」を営む普通の姉妹だが、怪盗「キャッツアイ」の顔も持っている。そして、そのライバルとも言えるのが、瞳の恋人であり、正体を知らないままキャッツを追う若き警察官・内海俊夫だ。
「キャッツ・アイ」は、この瞳と俊夫の奇妙な関係が大きな軸になっている。瞳は俊夫を利用しているという顔をしながら、本当は本心から愛している。俊夫はキャッツ逮捕に執念を燃やすが、追いかけるうちにキャッツに心惹かれるようにもなっていく。宿敵であり、どこかで惹かれているという関係は、ルパンと銭形の追いかけっこの構図を想起させる。
必然の交錯と感じさせるのはそんな部分だ。
無頼の物語と家族の物語の出会い
一方で、物語の本質や手触りは意外と遠いところにある。
「ルパン三世」は作品にもよるが、基本的には軽妙洒脱なシリーズだ。人情味はあるが、どこかドライで、仲間はいても家族を感じさせることはない。
「キャッツ・アイ」はと言うと、都会的な洗練や洒脱さはあるが、物語の根本は家族や絆といったウェットな部分にある。瞳と俊夫の「仕事とパートナー」の間で揺れ動く関係はもちろん、キャッツ自体も、父である画家のミケール・ハインツの作品を取り戻しながら、父を探すことを目的としている。この家族の因縁というのが、「キャッツ・アイ」のもう1つの軸になっている。
これは「キャッツ・アイ」だけに限った話ではない。北条司作品はいつも家族というテーマの存在が大きい。基本的にシリーズごとの読み切り的なテイストが強い「シティーハンター」でも、血縁の家族を持たない冴羽獠が、過去や育ての父との因縁に決着をつけ、香というパートナーを迎える覚悟を決めるというのが、物語の背骨になっている。「シティーハンター」のパラレルワールド作品として描かれた「エンジェル・ハート」や、性別逆転夫婦とその家に入った青年を描いた「F.COMPO」などは、より鮮明に家族というテーマが描かれている。
いわば帰るべき場所を巡る物語である「キャッツ・アイ」や北条作品と、帰るべき場所と無縁な無頼さこそが叙情を生む「ルパン三世」は、根っこの部分では正反対と言える。これが「不思議な感触」の正体だ。
若いキャッツと老成の域に達したルパン
似ているようで、コアの部分ではまったく別の性質を持っている両作品をどう融合させるのか。楽しみ半分、不安半分だったが、「ルパン三世VSキャッツ・アイ」は想像以上に見事に2つの世界をつなげて、その魅力を倍増させた。
いつも通りのルパンとして。そして、大人と若者の物語として。
本作では、ハインツの絵画を盗み出す中で、キャッツとルパンが邂逅し、絵を巡る謎と冒険が始まる。東京から始まり、フランスへと飛び回る世界観や物語世界は非常にルパンらしい。「キャッツ・アイ」をよく知らない人でも、いつものルパンの感覚で観ることができる。
と同時に、「キャッツ・アイ」とのクロスオーバーでいつもとは違う魅力も生まれている。
本作でキャッツが出会うルパン一味はミステリアスで真意が見えない。そして、その姿はキャッツよりはるかに老練だ。
ルパン三世はシリーズのなかでさまざまな顔を見せる。冒険心溢れる若き青年のようなシリーズもあれば、飄々として落ち着いた大人の男の側面が強いシリーズもある。
本作でのルパンはそうした中でも際だって円熟している。スタイリッシュに盗みを完遂するキャッツも、このルパンたちの前ではまだまだひよっこ。若いルパンならキャッツの美貌に飛び付きそうなものだが、本作ではそんな若さがなりを潜め、子供を見守り、導くような視線になっている。その姿は、老成という域に達しているようにすら見える。
ルパンとキャッツと同じように、銭形と俊夫のコンビも見どころだ。銭形らしい不器用ながむしゃらさはそのままに、若い俊夫にはない経験の厚さを見せつける。
キャッツは「スタイリッシュな美人怪盗」のイメージも強いが、前述のとおり、物語の根本には家族や恋人との関係や過去の因縁といったモチーフがある。全体を通して見ると、揺れ動く青年期の青春の物語だ。
本作はそんな若者たちを、大人のルパンたちが迎え、導いていく形になっている。内海俊夫が銭形に出会って「本物だ……!」と感激する場面があるが、見ている側も俊夫と同じように憧れのヒーローの背中を垣間見るような気持ちになる。
「ルパン」であり「キャッツ」である、特別な出会い
そして、だからこそ主役はルパンであるだけでなく、キャッツたちでもある。物語を動かしていくのは、すでに完成されたルパンたちではなく、若いキャッツの面々になる。
この構図の中で「キャッツ・アイ」と北条司のエッセンスも光っている。ハインツの絵を巡る物語になっていたり、「キャッツ」ファンには(あるいは「シティーハンター」ファンにも)おなじみの喫茶店「キャッツアイ」が出てきたりといった設定部分もだが、親子や過去の因縁といったテーマも顔を見せる。
鍵となる3枚のハインツの絵画や、それを巡る人々には、家族や過去の秘密が織り込まれている。ルパン自身には馴染まない家族というテーマが、キャッツという主人公によって活かされているのだ。
観終わってみれば、「ルパン三世VSキャッツ・アイ」は、「ルパン三世」であり、「キャッツ・アイ」でもあった。「ルパン三世」しか知らない人には、ゲストキャラのいるいつものルパンに見えるし、同時にちょっと違う魅力も見える。「キャッツ・アイ」ファンには、北条作品のエッセンスや、若者としてのキャッツたちを見つけることができる。
必然のようで不思議な出会いは、いつも通りだけどちょっと特別な作品を生んだのだ。
ミケール・ハインツ
来生三姉妹の父親であるドイツ人画家。あることをきっかけに美術シンジケートから狙われることになり、三女・愛が生まれる前に行方不明となった。キャッツアイはこのハインツの絵を集めながら彼の行方を追っている。
喫茶「キャッツアイ」
来生三姉妹が営む喫茶店。のちに「シティーハンター」やその派生作品「エンジェルハート」にも同じ姿・名前の喫茶店が登場し、そちらは海坊主(ファルコン)とミキが経営している。2019年に公開された「劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉」では、海坊主たちとキャッツの関係が新たに描かれた。
永石
ハインツ夫婦に仕え、その後はキャッツの怪盗仕事もサポートする執事のような役割を務めている。
- 小林聖(コバヤシアキラ)
- フリーライター。主な執筆分野はマンガ。その1年で読んだマンガから面白かった作品を自身の独断と偏見で選ぶTwitter上の企画「俺マン」こと「俺マンガ大賞」を毎年開催している。