「告白実行委員会~恋愛シリーズ~」などを筆頭に10代から絶大な支持を受けるGom、shito、ヤマコによるクリエイターユニット・HoneyWorks。その活動10周年を記念して、3人がプロデュースするアイドルユニット・LIP×LIP(リップリップ)を主役とした映画「HoneyWorks 10th Anniversary “LIP×LIP FILM×LIVE”」が、12月25日に公開される。同作は、勇次郎と愛蔵の2人からなるLIP×LIPの結成秘話を描いたアニメーションパート「この世界の楽しみ方~Secret Story Film~」と、彼らの最新バーチャルライブを掛け合わせた2本立て。勇次郎と愛蔵の抱える家庭の問題や、アイドルを“演じる”技術を身につけていく2人の成長過程など、華やかなばかりではないLIP×LIPの裏側を知ることができる。
映画にはHoneyWorks自身がオープニング・エンディング主題歌をそれぞれ書き下ろしているほか、彼らのこれまでの作品に登場しているキャラクターたちや、バーチャルジャニーズプロジェクト・海堂飛鳥と苺谷星空の2人もゲスト的に出演し、アニバーサリーイヤーを記念した作品を盛り上げている。HoneyWorksの3人に、この映画に込めた思いや、10年間の活動について聞いた。
取材・文 / 杉山仁
CHARACTER
個性豊かなアイドルたちに夢中!
LIP×LIP
- 勇次郎(CV:内山昂輝)
- 歌舞伎の舞台に立つことを夢見る中学3年生。稽古に励んできたが、歌舞伎役者である父親の後継者に選ばれず、夢を失う。何かが見つかるかもしれないと思い、アイドルオーディションを受けることに。フルネームは染谷勇次郎。
- 愛蔵(CV:島﨑信長)
- 1つ結びにした金髪がトレードマークの中学3年生。運動神経が抜群。離婚した母と兄の3人で生活しているが、自分勝手に過ごす母親や兄に怒りを感じている。何かを変えられるかもしれないと思い、アイドルオーディションを受けることに。フルネームは柴崎愛蔵。
海堂飛鳥・苺谷星空(あすかな)
- 普通の高校に通いながら、アイドルデビューを目指す2人組。勇次郎、愛蔵と同じオーディションを受ける。
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海堂飛鳥(CV:藤原丈一郎〈なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.〉)
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苺谷星空(CV:大橋和也〈なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.〉)
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マネージャー・前田睦
(CV:櫻井孝宏)
Full Throttle4
高校生4人組ダンスボーカルユニット。MEGUとDAIが勇次郎と愛蔵のダンス指導を担当するなど、LIP×LIPにとっては先輩。
HoneyWorksインタビュー
バーチャルアイドルだからこそ見せられる人間らしさ
──今回は、勇次郎と愛蔵からなるバーチャルアイドル・LIP×LIPのユニット結成秘話を描いた作品になっていますね。
Gom LIP×LIPは2016年からいるキャラクターで、漠然とした設定のようなものは以前から自分たちで作っていたんですけど、僕らの場合はキャラクターと一緒に成長して、自分たちも受け取るものがあって、そこから新しい曲ができたり新しい展開を考えたりしてきたので、「4年経った今、LIP×LIPの成長を描きたい」という気持ちがあったんです。そこに、ちょうどハニワの10周年で映画を作れるというタイミングが、うまく重なった感覚です。LIP×LIPが成長していなかったら、映画にできるタイミングも来ていなかったと思うので。10周年に際しては、その都度「これがやりたいです」「こんなこともやりたいです」といろんなことを話していたんですけど、その中に「映画を作りたい」というものもあったので、ちょうどこのタイミングでお話をいただけてうれしかったです。
──楽曲やMV、ライトノベルなどから、LIP×LIPの設定の一部はリスナーにも伝わってきていました。
Gom そうですね。LIP×LIPの場合、ユニットのメンバーでありつつもどこか2人がライバルのような関係であることや、友達じゃない部分も少しずつ見せていたので、みんな気になっていたんじゃないかと思うんです。もちろん未来を描くこともできたんですけど、映画のプロデューサーがいろんなアイデアを考えてくださって、その中で「結成秘話を描きたい」という話をいただいたときに、僕らとしてもすごくしっくりきたというか、キャラクターを深堀りできるんじゃないかと思ったのが最初のきっかけでした。
shito そこで、まずは基本的な家族設定のようなものをこちらで詰めて、それを脚本家の方に起こしていただいて。そこから、みんなで集まって本読みという形で意見を交換しました。「こうしたほうがもっと面白くなるんじゃないか?」といろんな意見を出し合ったんですよ。
Gom LIP×LIPの2人のちょっとひねたところが「なんでこうなったんだろう?」ということを掘り下げていくと、家族関係はそこに自然と出てくる要素なので、「こんなお母さんだから、きっとこうなるんだね」ということを、ワイワイ話しながら考えていきました。
ヤマコ たとえば勇次郎の家族なら、歌舞伎の家系であるお父さん、お母さん、弟をどういうキャラクターにしていこうか、と詰めていきましたし、愛蔵のお母さんのはっちゃけ具合も、どれくらいのテンションなのかをみんなで話し合っていきました。
──お互いが想像していたキャラクター像が違う部分もあったと思いますか?
ヤマコ その辺りは、みんなでじわじわとすり合わせていった感じでした(笑)。
shito やっぱり、最初の時点ではまだみんなキャラクター像についてもふわふわしていたので(笑)。監督にも相談しながら、それぞれの細かい部分を詰めていったんですよ。
──これまで楽曲やMVの中で描かれていたものを、映画になるように詳しく詰めていったんですね。作品全体として大事にしていたのはどんなことだったんでしょう?
shito 僕らとしては「キラキラしたものだけにはしたくない」と思っていて、勇次郎の性格の悪さや愛蔵の口の悪さのような(笑)、2人の人間らしい部分も表現してほしいと思っていました。もともとLIP×LIPは「アイドルをプロデュースしたい」という僕たちの思いから生まれたユニットで、その時点では現実のアイドルでもよかったんですけど、バーチャルのほうがより好き勝手にいろんなことができるな、と思ってバーチャルアイドルになったんです。それに「きれいな部分ばかり見せられても、応援できないな」とも思っていて。キャラクターとして存在するバーチャルアイドルならそういう裏側の部分も見せられるし、全部さらけ出したうえで、それでも2人を好きになってもらえたらいいな、と思っていて。最初にキャラクターを作っていく時点から、そういう部分を大切にしたいと思っていましたし、今回の映画でも、バーチャルアイドルというより「人間らしさ」を描いてほしいと思っていました。
近付きすぎない2人の距離感
──実際に映画を観ての感想はいかがでしたか?
全員 (口々に)すごく面白かったです! 最高でした!
──好きなシーンや特に気に入った部分と言いますと?
shito 僕は勇次郎がファンをブラックリストに入れようとするところです。性格悪いなあ……と(笑)。
ヤマコ ははははは。
shito でも、すごく人間っぽくてクスッとしてしまうし、そういう面もあるからこそ、魅力的だとも思うんですよ。
Gom 僕は、HoneyWorksのほかのキャラクターもたくさん出てくることがうれしかったですね。「告白実行委員会〜恋愛シリーズ〜」などに出てきたキャラクターたちが映画の中に割と自然に出てきたりするので、LIP×LIP以外のファンも楽しめるでしょうし、いろんな楽しみ方ができて面白いのかな、と。ほかのキャラクターもすごくキャラが立っていて、魅力的だと思うので。
ヤマコ あとはLIP×LIPの2人って、連絡先を交換したりせずにユニットをやっていて、お互いに仲良くしようと思っているわけではないと思うんですけど、勇次郎が落ち込んだときに愛蔵がさらっと言葉をかけたり、勇次郎もそれを受け止めて距離が近くなったりしていて。でも近付きすぎないというか、その絶妙な距離感がすごくいいな、と思います。それから、LIP×LIPのユニット名の由来が分かるシーンの、実は「表向きと裏向きで理由が違う」ところもすごく好きですね。2人だけの秘密ができるというか。
──あのシーンは今回の見どころのひとつですね。また4年間で、キャラクターが皆さんの予想を超えて成長している部分もあるんじゃないかと思うのですが、皆さんは今のLIP×LIPについては、どんなふうに感じていますか?
shito まずはキャラクターとして見たときに、2人の歌がものすごく成長しているな、と思います。勇次郎と愛蔵が自分たち自身をより理解しているというか、愛蔵だったら息をこぼすような歌い方だったり、勇次郎だったらもっと繊細な歌い方だったり……。そういうものを、声を担当してくださる内山(昂輝)さんや島﨑(信長)さん含めて、皆さんがとてもうまく表現してくださっていて。曲ごとに洗練されている気がします。歌のクオリティ自体もかなり上がっていますし、聴いてくれる人に響く歌になっているんじゃないかと。
──2人の歌も、活動の中でより勇次郎と愛蔵になっている、ということですね。
shito 最初は、新曲が出るたびに「どういう感じにしようか」と皆さん探っていた部分が大きかったと思うんですけど、今はもう、新しい曲でも自然に表現してくださって、僕らも「今のテイク、とてもいいのでもらいます!」という雰囲気で、レコーディング時間もだんだん短くなっているんですよ。改めていろいろな曲を聴き返してもらえれば、勇次郎と愛蔵がよりLIP×LIPになっていく変化が、伝わるかもしれないです。
“アイドルを演じる2人”をうまく演じてくれている
──今回の映画での、内山さん、島﨑さんの演技はいかがでしたか?
ヤマコ リモートでアフレコに立ち会わせていただいたんですけど、本当におふたりがなりきって演じてくださって、こちらから「こうしてほしいです」ということはほとんどありませんでした。勇次郎と愛蔵は、2人のアイドルの面と、リアルな学生としての面とでけっこうギャップがあると思うんですけど、最初に4thアルバム「何度だって、好き。〜告白実行委員会〜」の「ロメオ」ショートストーリー・デジタルコミックのアフレコのときに、内山さんに「どっちが本当の勇次郎なんですか?」と聞かれたことがあったんです。そのときに「性格が悪いほうが本当の勇次郎です」と伝えて(笑)。なので、内山さんの中でも、勇次郎はもともと性格が悪くて、そんな彼がアイドルを“演じている”というふうに解釈してくださっていますし、今回は、その部分がけっこう出ている映画でもあると思います(笑)。
──でも、そこが出ているからこその勇次郎だ、と。
ヤマコ そうなんです。一方で愛蔵の場合だと、アイドルという面では、カッコよくて運動神経抜群なイケメンというイメージですけど、普段の愛蔵は勇次郎に振り回されたりする、ちょっと情けない部分があって。本当にリアルな高校生だな、という感じで、そこにアイドルとの演じ分けのようなものがあってすごく面白いな、と思いますね。
──愛蔵は酔っぱらった母親の面倒を見てあげたりと、優しい性格ですよね。
ヤマコ そうですね。どっちかというと面倒見がいいタイプで。
Gom MCでキザなことを言うような、表に出ていることを意識しているからこそのキラキラとした愛蔵も本当にうまく表現してくださっていて、本当に「言うことなし!」という感じです(笑)。
shito やっぱり、アイドルだけを描いているわけではないので、アイドルを演じているときにも、どこかわざとらしいニュアンスを出してもらったりしていて、「実際にはここまでは言わねえだろ!」ということも、意図的に表現していただいていたりもするんですよ。
Gom 2人がファンのことを「ジュリエッタ!!」と呼ぶときのニュアンスもそうですけど、だからこそ、2人の人間味がより感じられるようにもなっていていいな、と思います。