危険だなと思いました
──「カンスト突破」に関しては、具体的にどういうところが気に入ったんでしょう?
僕はもともと“俺TUEEE系”が大好きなんですけど、これはその王道作品だなと思っていて。「最初から主人公の実力がカンストしてます、なんなら突破しちゃってます」という設定がもう、たぎるというか(笑)。ここまで来ると、もうヒーローマンガだと思います。空も飛ぶし、いろんな技もあるし。そういうところが少年心をくすぐるんですよね。しかも、意味もなくなぜか強いんじゃなくて、ちゃんと「3000年も特訓しましたよ」って最初に答えを出してるのがよくないですか?
──3000年も修行されたら、どんなに強くても文句言えないですもんね。
そうなんですよ。あとね、僕みたいな斜め横から物語を見るような性格の曲がった人間からすると、「その3000年間の食糧はどうしてたん?」みたいなことをふと考えたりもするわけですよ。でも、読み進めているとそんなことどうでもよくなってくるんですよね。「そんなことより、続きはどうなるんだ!」しか考えられなくなっちゃう。その豪腕ストレート感が気持ちよくて……。問答無用でどんどん引き込まれちゃうから、危険だなと思いましたね。時間が溶ける溶ける。
──ああ、めっちゃわかります(笑)。
没入感と言うんですかね。これは「カンスト突破」に限らずLINEマンガ全般に言えることですけど、すんごいその世界に入り込めちゃうから、そこから逃げられなくなって気付けば2時間3時間経ってしまっていたり……東京から新幹線に乗ってても「あ、もう新大阪か」みたいな(笑)。もはや催眠ですよ、あれは。だから皆さんがLINEマンガを読まれる際にはスマホのアラームなんかを駆使して、「何時まで読む」とか決めたほうがいいかもしれないですね。本当に時間を忘れちゃうんで。
──普通に考えると「次の話を読む」ボタンがやめ時として機能するはずなんですけど……。
現実は逆ですよね。あれが出てくると「あ、チャージせな」って思うだけですから(笑)。1話1話の引きがいいから、ちゃんと読者の「続きを読みたい」気持ちを煽ってくれるというか。逆に、そこで23時間待てる人は待って無課金でも読めるわけですから、その選択肢があるのもいいですよね。課金勢も無課金勢も許容する感じがすごく今っぽいなと思いました。ビジネスモデルとして完成されているなあと思います。
マンガの見方がもう1種類増えた
──ここでちょっと無茶ぶり質問をさせていただきたいんですけど、もしこの「カンスト突破」にテーマ曲を作るとしたら、オーイシさんならどんな曲にしますか?
無茶ですねえ(笑)。そうやなあ……まあ“俺TUEEE系”ですから、やっぱり力強いラウドロックサウンドをイメージしちゃいますね。僕が過去に担当したもので言うと、「オーバーロード」という異世界TUEEE系の代表的なアニメ作品があるんですけど、その主題歌「Clattanoia」とかのイメージで、デジタルラウドロック的なアプローチをするのがいいかなと。仮にオファーが来たとしたら、まず1回そういう提案をするかもしれないです。
──「OxTでやりたいです」とか?
そうそう(笑)。やっぱり「システム」とか「ダンジョン」というキーワードの出てくる作品なので、何かそういうコンピュータ的な、電子音とかをたくさんちりばめる感じが……って、めちゃくちゃ真剣に考えてるじゃないですか、僕(笑)。
──ありがたいです(笑)。調子に乗って聞きますけど、歌詞はどうしましょう?
歌詞は……せっかくなんで半分くらい英語にしたいですね。ワールドワイドにウケそうな作品ですし、実際にヨーロッパなんかでは“俺TUEEE系”の人気はすごいですから。そういう海外展開も視野に入れて、歌詞は英語にするかもしれないですね……って、ちょっとリアルに考えすぎですかね? ホンマにビジネスの話、します?(笑)
──(笑)。想定以上にちゃんと考えていただいて本当にありがとうございます。では最後に、改めて今後のwebtoonやLINEマンガに期待することなどが何かありましたらお聞かせください。
僕はこれ、本当にマンガの新しい形だなと思うので、名義を分けてもいいんじゃないかなと思うくらいで。例えば従来の日本のマンガを漢字の「漫画」と言うのであれば、このLINEマンガにおけるマンガのあり方って、もうローマ字で「MANGA」と呼んじゃうとか、それくらいモノが違うのかなと。先ほども音が付いたり絵が動いたりというお話を聞きましたけど、そういった技術もどんどん発展していくでしょうし。「マンガの見方がもう1種類増えたな」という感覚がありますね。
──なるほど。新しい言葉が必要なくらい……。
新しいジャンルかな、というふうに僕は思いました。素晴らしかったです。
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いやあ、これはハマっちゃいました。主人公がどんどん強くなっていく、僕の大好きな系統の作品で。最初は弱かった主人公の志村が、ある動画チャンネルに出会うことでどんどんケンカが強くなっていって、自分の配信チャンネルの登録者数も増えていき、お母さんの手術代も払えて……という物語なんですけど、まずサクセスストーリーとして気持ちがいいですし、敵の強さがどんどんインフレしていく感じもいいですよね。「こんなん、絶対に敵えへんやん」みたいなやつまで出てくる(笑)。いろんな格闘技が出てきて勉強にもなりますし……まさに僕の大好きな、王道格闘少年マンガだなと思いました。これもやっぱり、悪いやつがちゃんと悪いところがいい(笑)。
あと新しいなと思ったのが、「ケンカに勝つ」ことが目的じゃなくて「視聴者数を増やす」ことが最大の目的になっているところですね。それがすごく現代的な価値観だなと思うし、「ケンカが強くなりたい」よりも「お金が欲しい」のほうが今の読者は共感しやすいんじゃないかなと。言ってみれば、チャンネル登録者数を増やすために“仕方なく”ケンカに強くなっていくっていう構造ですから。新しい世界観だなと思いましたし、本当に面白かったです。「喧嘩独学」の話だけで、あと5時間くらいしゃべれますよ(笑)。
この作品は育成ものと言いますか、自分が味方することで仲間の能力が開花して強くなっていく物語ですよね。これって読者が自分を投影しやすい構図だなと思うんですよ。勢力が大きくなっていっても主人公自身は弱いままなので、ずっと同じ目線で見られるから没入感がすごい。自分が物語の主人公になっちゃうような感覚はずっとありましたね。「ドラゴンクエスト」や「ポケットモンスター」のようなゲームにも近い楽しみ方ができるというか、強い仲間をどんどん味方にしてパーティを組んでいく感じがすごく気持ちよかった。少年の心をくすぐられます。
音楽をやっていても、例えばサポートで演奏してくれるスタジオミュージシャンの皆さんのスキルが高ければ高いほど、選択の幅が広がっていい音楽を届けやすくなるというのはあるんですよ。しかも、仲間に高い能力があったとしても、そのポテンシャルを十分に発揮させられる現場じゃないといい仕事はできないですよね。そういう意味では、リーダーシップを取るべき立場の人がこの作品を読んだら勉強になることはあるかもしれないです。「結局、いいやつにしか人は付いて来ないんやな」みたいな(笑)。
あとやっぱり、育成スキルの発動キーワードが「愛してる」なのが素晴らしいですよね。この剛速球ストレート感。僕にはまず思い付けないアイデアだし、それが最高だなと。
いわゆる悪役令嬢ものの男性版という感じで、異世界ものとかによくある感じの世界観ではあるんですけど、最近読んだこの手のものでは一番好きになったマンガですね。ただただ強敵を倒していくお話じゃなくて、ビジネスの才覚で異世界を生き抜いていくという物語構造がすごく好きです。しかも、主人公のロイドは一見お金儲けのためだけに動いているようでいて、根幹には「人のためになることをしたい」という“いい人”がちゃんとある感じがいい。表向きはすごく性格の悪そうな主人公なんですけど(笑)、下心しかなさそうに見えて実は善人キャラに振り切っているという、物語自体にツンデレ感がありますよね。
これって結局エンタメにも同じことが言えると思うんです。僕の仕事にしても、人を喜ばせることに対して対価をいただけるわけじゃないですか。ギャラの話をするとすぐに「金の話かい!」「がめついやっちゃな」ということになったりもしますけど、基本的には「お客さんを喜ばせることができた証として、ありがたくいただきますよ」という構図なので。根底にその思いがないと、お客さんも気持ちよくお金を出す気になれないと思うんです。この作品にはそういう思想が見え隠れして、だから気持ちよく読めるのかなと思いました。
これはですね、ちょっと「LINEマンガさんには責任を取ってほしいな」と思ってるんですよ。というのも、この作品のおかげで僕の好みの女性のタイプが1種類増えてしまいました。ストライクゾーンが広がってしまった。今まで気付かなかったけど、“ぽっちゃり”って魅力なんですねえ……「それに気付かせてくれてありがとう」という気持ちです。いや、ありがたいのかどうかは議論の余地がありますけど(笑)。というくらい、万莉子ちゃんのヒロイン性が際立っていて、魅力にあふれていて。ホンマ、責任取ってほしいです(笑)。
昨今、ルッキズムうんぬんがいろいろ取り沙汰されてますけど、「結局、人間って中身なんだなあ」と改めて思わせてくれる作品ですよね。人間的な魅力が伴うことで、結果見た目としても美しく見えてくるっていう。たぶん読んだ人はみんな同じ気持ちだと思うんですけど、このぽっちゃりした万莉子ちゃんがかわいくてしょうがないですから。そういう意味で、新たな扉を開いてくれる素敵な作品だなと思いました。今もまだ連載中ですよね? これはちょっと、ちゃんとハッピーエンドにしてほしいです。万莉子ちゃんには幸せになってもらわないと困る(笑)。
気持ちいいくらいの“ざまぁ系”マンガで、まあスカッとしますね。これも悪者がちゃんと悪いですし(笑)、それがいい。読み終えたときは「悪者の皆さん、ありがとうございました」という気持ちでした。「あなたたちが徹底的に悪者でいてくれたからこそ、この物語はキレイに終わったんです」と感謝の念すら芽生えましたね。
基本的にはそういうストレートな気持ちよさのある作品なんですが、部分的に奇をてらっているというか、「お?」と思わせるようなひねりの効いた展開もあって。ネタバレになっちゃうんで具体的にはあまり言えないですけど、起承転結でいう“転”の部分が、物語をクライマックスへ向けて加速させるいいブースターになっているなと思いました。マンガとしての完成度がめちゃくちゃ高いですし、めちゃくちゃ時間が溶けましたね。責任取ってほしい(笑)。
それから、連載ものならではのよさも随所に出ているなと。例えば何か問題が1つ解決するたびに、その話数のラストで思わせぶりなカットが挟み込まれたりするじゃないですか。「また何か問題が勃発するのかよ?」となって「チャージ、チャージ」みたいな(笑)。その引きのよさがマンガの面白みをさらに深めている感じがしましたね。近年ではダントツで続きが気になって仕方ないマンガだったと思います。
プロフィール
オーイシマサヨシ
1980年1月5日生まれ、愛媛県宇和島市出身。2001年にスリーピースバンド・Sound Scheduleのボーカルとギターとしてメジャーデビューする。2008年には大石昌良名義でソロデビュー。2014年からアニメソングシンガー・オーイシマサヨシとして、「ダイヤのA」「月刊少女野崎くん」主題歌を担当。デジタルロックユニット・OxTとしても活動中で、「オーバーロード」や「SSSS.GRIDMAN」の主題歌も担う。作家としては2017年に作詞作編曲を担当したTVアニメ「けものフレンズ」のオープニング主題歌「ようこそジャパリパークへ」がヒット。MC業や俳優業にも挑戦するなどマルチな活動を展開している。
大石昌良【オーイシマサヨシ】 (@Masayoshi_Oishi) | Twitter