百合というジャンルはデリケートなので
みなみ 皆さんはコメント欄との距離感をどんなふうに取ってます?
蓬餅 それは私もすごく気になります。
ぽむ 私は、連載中は一切コメント欄を見ませんでした。「先輩はおとこのこ」の第1話を出したときに気になって一度見たんですけど、それまでは自分1人の世界の中だけで描いていたものだったから、「画面の向こう側に私の描いたマンガを読んでいる人が存在する」ということがちょっと怖くなってしまって……。
みなみ へえええ。
ぽむ 何か変なコメントがあったとかではないんですけど、「これは見てもいいことないな」と思って。なので最終話を描き終えるまでは一切見ずに、完結したあとで少し気持ちが落ち着いてからバーッとまとめて読みました。
蓬餅 私も最近は見ないようにしています。最初の頃は読んでたんですけど、あるとき吹奏楽をちゃんとやっている方から描写についての専門的な指摘があって、「ごめんなさいごめんなさい!」みたいな感じになっちゃって(笑)。
ぽむ 私も1回トランペットを吹くキャラクターを描いたとき、持つ手の位置が逆だったことがあります(笑)。
蓬餅 なので今は、課金して先読みしてくれている人のコメントだけ見ていますね(笑)。
みなみ なるほど! 無料で読めるエリアがあるシステムの怖さというか……もちろん恩恵も大きいんですけど、表裏一体ですもんね。
蓬餅 特に百合というジャンルは、それぞれの好みと主張があって相入れない部分もあるので。
ぽむ 私も最初は「先輩はおとこのこ」を百合のお話にしようと思っていたんですけど、読者が付きにくいと聞いて主人公の性別を変えたんです。
蓬餅 ナイス判断だと思います!
ぽむ (笑)。蓬餅さんはなぜ百合を描いているんですか?
蓬餅 好きだからです。特に、男が挟まる百合が本当に大好きなんですよ。
ぽむ なるほど(笑)。「百合にはさまる男は死ねばいい!?」は題材が吹奏楽部ということもありますし、もしかして「響け!ユーフォニアム」とかお好きですか?
蓬餅 たぶん絶対好きなんですけど、観たらものすごく引きずられちゃうので、それが怖くてまだ観ていないんです。自分の作品が完結したらめちゃめちゃ観ようと思っています。
ぽむ ぜひ観てください!
蓬餅 わかりました(笑)。
──ぱんぷきんさんはいかがですか? 花ちゃんはよくコメント欄で叩かれているイメージもありますが(笑)。
みなみ 作者に対する人格攻撃ならともかく、キャラクターに対してのコメントであれば全然ウェルカムですね。私たちは基本的にマンガに“自分”を入れていないから、叩かれたところで「別に自分たちのことじゃないし……」というふうに感じられているのかもしれないです。
蓬餅 以前、過去に登場したキャラクターを読者コメントも交えながら振り返るオマケ回を描かれていましたよね。「これ、私には絶対できないな」と思って読みました。すごいなって。
みなみ あのオマケ回も、私たち本人ではなくあくまで花たちがコメントを読んでリアクションするという体裁だからできたことではあるんですよ。
舞 マンガの中の世界を楽しんでもらいたいので、そこに作者を感じさせたくないんです。あそこに自画像とかで自分たちを登場させて、読者コメントに対して何か言う形にしちゃうと……。
みなみ 冷めちゃうなって。私たちはその形ではやらないと思います。そういえば、去年ぽむさんの「先輩はおとこのこ」がWebマンガ部門3位になった「次にくるマンガ大賞」で、今年は蓬餅さんの「百合にはさまる男は死ねばいい!?」がノミネートされていますよね。それによって厳しいコメントとか増えてないですか? 大丈夫ですか?(笑)
蓬餅 今のところは(笑)。百合って広がってはいるけどまだ狭い世界で、基本的には「百合が好きな人だけが読むもの」なんですね。それが今回ノミネートしていただいたことで、外の世界の人たちに触れてもらえる機会になっている感じはします。そこで拒絶反応を示すのではなく「あ、面白いじゃん」と言ってくれる人が今のところは目立つ印象ですね。
みなみ 私も百合には詳しくないですけど、面白いと思いますもん。でもコメントしてくださる方って、それが肯定か否定かにかかわらず、皆さん熱量がすごいですよね。「作品の感想を言え」と言われたときに「面白かった」くらいは私も言えますけど、「この部分がこういう理由でダメなんだ」が言えるというのは、それだけ作品を読み込んでいるということでもあって。
蓬餅 確かにそうですね。それをわざわざ言おうとは、私もあまり思わないです。
覚悟はあとからいくらでもできる
──皆さんは作家として、LINEマンガという媒体で描くことにどんな利点を感じていますか?
蓬餅 私の場合で言うと、やっぱり百合に男が挟まっている時点で絶対に百合レーベルからは出禁を喰らうんですよ(笑)。
みなみ なるほど……その世界ではそういうものなんですね。
蓬餅 だから、ニッチな世界を描きたい人には向いていると思います。「担当さんと二人三脚で話の構成を考えながらやっていきたい」という人よりは、自分の描きたいものを自由に描きたい人。そういう人にはすごくいいところです。
ぽむ 出したものに対して何も言われないのはいいですよね。
みなみ それは本当に大きいです。ほかの媒体と一番違うところでしょうね。
ぽむ まあ、私の場合は今描いている新作でめちゃめちゃ担当さんにボツを出されていますけど(笑)。「先輩はおとこのこ」のときは本当に描いたらそのまま載っていたんですが、今回はネームの段階で毎回見ていただいているので、いつもすごく緊張します。
みなみ でも、それはたぶんぽむさんが1個大ヒットを出したから、「2作目となると」ということなんじゃないですか? ある意味、プロフェッショナルな仕事の進め方ができると認めてもらえたみたいな。
ぽむ編集担当 そうです。最初の作品でそれをやっても、たぶんできないでしょうから。
みなみ それこそ最初に出す作品なんかは、多少完成度が低くてもいいから「とにかく作品を世に出そう」という気概が重要な気がします。もちろん完成度を追求するのも大事だけど、それだと時間がかかるから、まだ無名の人の場合はそこに時間をかけるよりなんでもいいから出してみるべきだと思いますね。
蓬餅 それで言うと、今回の「インディーズ大賞」は1ページから応募できるっていうのがいいですね。
みなみ そうですよね! ほかではあり得ない。もし1ページ作品で応募した人が大賞を獲ったらめっちゃ面白いですね。1ページで300万円(笑)。
蓬餅 それはカッコいいですね……。
みなみ 超カッコいい。例えばTwitterとかで毎日1ページ上げているような人もいると思うんですけど、そういう人もどんどん応募したらいいと思います。何が人々に引っかかるかなんて出してみないとわからないし、応募したことで何か損があるわけでもないので。エントリー料などのお金が一切かからないというのもすごくいいところだと思いますね。
──逆に、LINEマンガ連載でつらかったことはありますか? 応募を考えている人に対して「ここは覚悟しとけよ」みたいな。
みなみ・舞 つらかったこと……?
ぽむ ハモった(笑)。
みなみ あはは(笑)。私たちは本当に運がよくて、感謝しかないんですよね。最初はそれこそインディーズの作品ページのところに「大賞応募中」みたいに書けたら字面的にカッコいいかな、くらいの気持ちで応募しましたし……まあ、そのときは賞は獲れなかったんですけど。
──それくらいの気持ちで、特に覚悟ができていない人でもどんどん応募すればいいと。
みなみ そうです。覚悟なんて、あとからいくらでもできるので。今は自信がなくても、まずは投稿、応募してみるのがおすすめです。
3組の経歴をもっと詳しく!
マンガ家としてのミニ年表を一挙公開
ぽむ
- 幼少期
趣味でマンガやイラストを描く。
- 2015年6月
デザイン・イラスト制作会社の合同会社ジョイネットに所属。
- 2017年8月
ジャパンネット銀行(現PayPay銀行)の「PRマスコットキャラクターイラストコンテスト」で最優秀賞受賞。
- 2017年9月
まんがタイムきららMAX11月号(芳文社)に「しのびます!」が掲載される。
- 2017年10月
グッドスマイルカンパニーが主催する「初音ミク10周年記念フィギュア企画初音ミクイラストコンテスト」で大賞受賞。
- 2018年4月
ソーテック社から刊行された「彼女図鑑 ガールズアート イラストレーターファイル」にイラストが掲載される。
- 2019年9月
LINEマンガインディーズに「メンヘラ少女くるみちゃん。」を投稿。
- 2019年10月
LINEマンガでのトライアル連載についてオファーを受ける。
- 2019年12月
LINEマンガで「先輩はおとこのこ」のトライアル連載を開始。
- 2020年3月
16週のトライアル期間を経て、「先輩はおとこのこ」の本連載が開始。
- 2021年3月
「先輩はおとこのこ」が第4回「アニメ化してほしいマンガランキング」で第3位を受賞。
- 2021年8月
「先輩はおとこのこ」が「次にくるマンガ大賞 2021」Webマンガ部門で第3位を受賞。
- 2021年12月
「先輩はおとこのこ」が完結。
- 2022年3月
「先輩はおとこのこ」が第5回「アニメ化してほしいマンガランキング」第1位を受賞。
- 2022年4月
GReeeeNの楽曲「自分革命」をもとにした同名マンガをLINEマンガで公開。
蓬餅
- 高校生の頃
趣味でマンガを描き始める。
- 2020年4月
Twitterで「吹奏楽部トランペットパート1st2ndの感情がデカい漫画」が話題に。LINEマンガの編集者から連絡がくる。
- 2020年5月
LINEマンガインディーズに「【百合】百合同人作家と読者のコミティア百合」「吹奏楽部トランペットパート1st2ndの感情がデカい漫画」を投稿。
- 2020年6月
LINEマンガでのトライアル連載についてオファーを受ける。
- 2021年4月
LINEマンガで「百合にはさまる男は死ねばいい!?」のトライアル連載を開始。
- 2021年6月
仕事を辞め、マンガ家1本の生活に。
- 2021年12月
16週のトライアル期間を経て、「百合にはさまる男は死ねばいい!?」の本連載を開始。
- 2022年6月
「百合にはさまる男は死ねばいい!?」が「次にくるマンガ大賞2022」のWebマンガ部門にノミネートされる。
ぱんぷきん
- 2018年11月
2人でマンガを描き始める。
- 2019年1月
LINEマンガインディーズに「永妻花はマッチングしたい」を投稿。
- 2019年4月
LINEマンガでのトライアル連載についてオファーを受ける。
- 2019年10月
LINEマンガで「永妻花はマッチングしたい」のトライアル連載を開始。
- 2020年1月
16週のトライアル期間を経て、「永妻花はマッチングしたい」の本連載を開始。
- 2022年8月
LINEマンガインディーズで「ひとりのふたり」を連載開始。
プロフィール
ぽむ
兵庫県出身のマンガ家・イラストレーター。2019年12月にLINEマンガで「先輩はおとこのこ」の連載を始め、2021年12月に完結。現在は次回作に向けて準備中。また「ジャージ君」「ジャージちゃん」「くるみちゃん。」などのLINEスタンプでも知られている。
蓬餅(ヨモギモチ)
群馬県出身のマンガ家。2021年4月にLINEマンガで「百合にはさまる男は死ねばいい!?」の連載がスタートした。
ぱんぷきん
東京都出身の2人組マンガ家。2019年10月にLINEマンガで「永妻花はマッチングしたい」の連載がスタートした。