「LINEマンガ インディーズ」が着実に成長している理由って?注目作のレビューも

LINEマンガの10周年を記念し、コミックナタリーでは連載形式で特集を展開中。今回は、LINEマンガが2015年2月にスタートさせたマンガ投稿サービス「LINEマンガ インディーズ」を取り上げる。LINEのユーザーであれば、誰でもLINEマンガ上でオリジナル作品を投稿できるこのサービス。TVアニメ化が発表された「先輩はおとこのこ」をはじめ、これまで数々のヒット作が輩出されてきた。

前半ではLINEマンガ編集部がピックアップした注目の5作品をライターが紹介。後半では「LINEマンガ インディーズ」の企画・運用に深く関わり、現在では「LINEマンガ インディーズ」やLINEマンガ編集部が所属するContent Production室の室長として、LINEマンガのオリジナル作品からインディーズ企画まで全体を担う小室稔樹氏へのインタビューを展開する。プラットフォームの立ち上げから徐々に掘り下げていく中で見えてきたのは、“作家に幸せになってほしい”という強い思い。クリエイターはもちろん、LINEマンガを普段何気なく利用している人にも一読してもらいたい。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ

「LINEマンガ インディーズ」発 注目作レビュー

ぽむ「先輩はおとこのこ」

二重の意味で見た目に騙される青春ストーリー

ぽむ「先輩はおとこのこ」

ぽむ「先輩はおとこのこ」

「先輩はおとこのこ」

女装をして高校生活を送る“男の娘”花岡まこと。後輩女子の蒼井咲から女性だと勘違いされたまま告白され、自身の性別は男性だと告げて断る。ところが咲は「男女両方の先輩が楽しめる」と喜び、まことを振り返らせると宣言して……。

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かわいいものが大好きな男の娘・花岡まこと、彼を女性だと勘違いしたまま告白した後輩女子・蒼井咲、まことに好意を寄せる幼なじみ・大我竜二の3人が繰り広げるラブコメディ──という説明文から受ける印象と、実際の内容がかけ離れているのが本作最大の魅力である。

一見すると「ねじれた百合とBLを絡めた三角関係もの」を想像しそうになるが、その実態は生き方に悩み続ける若者たちの青春群像劇。かわいい絵に惹かれて軽い気持ちで読み始めたが最後、読者は次々に「普通とは何か」「本当の自分とは何か」「幸せとは何か」といった深遠な問いを突きつけられる。「女の子かと思ったら男の子だった」のみならず、「ラブコメかと思ったら重厚なヒューマンドラマだった」という意味でも“見た目に騙される”作品である。

それでいて、読み味はいたってライトだ。ポップな絵柄や洗練されたセリフ回し、効果的に挟まれるギャグシーンなどに加え、タテ読みフルカラー(webtoon)形式といった要素のおかげもあり、ストレスなくスルスルと読み進めることができる。「騙されたと思って読んでみな」という常套句が古来より存在するが、まさにその定型文をもって人に勧めたくなる作品である(そして本当に騙される)。webtoon初心者には、最初の一作としてもおすすめしたい。

砂糖と塩「仁藤と田塚の日常」

BL入門に最適な微笑ましさの爆弾

砂糖と塩「仁藤と田塚の日常」

砂糖と塩「仁藤と田塚の日常」

「仁藤と田塚の日常」

男子中学生の仁藤と田塚は幼稚園から一緒の幼なじみ。ある日、仁藤は田塚から「ずっと好きだった」と告白される。仁藤は恋愛対象として見られないと断るが、2人は特に気まずくなることなく友達関係を続けていた。ところが別々の高校に進学し、田塚から仁藤に「彼女ができた。」とメールが届き……。

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男同士の幼なじみ・仁藤と田塚が、親友という関係性から恋人同士になっていくまでの過程とその後を丁寧に描いたBL作品。基本的には主役2人の「普段は友達然としたラフな関係性なのに、2人きりになると途端にデレ始める」という破壊力抜群の微笑ましさを堪能すべき作品だが、もう1つの重要な要素として「BL初心者に安心しておすすめできる」という特性が挙げられる。

もともと仁藤に恋愛感情を抱いていた田塚とは対照的に、仁藤は当初ノンケを自認しているところから物語が始まる。そこから紆余曲折を経て2人は恋愛関係になっていくわけだが、その過程における仁藤の心情変化が入念かつリアルに描写されていくため、そんな仁藤に感情移入することでBLに慣れていない読者でも段階を踏みながら徐々に入り込んでいくことができる安心設計となっているのだ。

だからといってコアなBLファンが楽しめないかというと、もちろんそんなことはない。前述の通り登場人物の心理描写がリアルで生々しいこともあり、シンプルに恋愛ドラマとしての完成度が高いからだ。しかも終盤では身体を重ねる耽美なシーンも描かれる(攻め/受け問題にも言及される)ため、ピュアな純愛だけでは物足りないタイプの読者でも十分な満足度を得られることだろう。

蓬餅「百合にはさまる男は死ねばいい!?」

タイトルに惑わされる読者は死ねばいい!?

蓬餅「百合にはさまる男は死ねばいい!?」

蓬餅「百合にはさまる男は死ねばいい!?」

「百合にはさまる男は死ねばいい!?」

吹奏楽部に所属し、トランペットの1stを担当していた片桐千早。ところが全国レベルの強豪校でトランペットの1stを吹いていたという相川響が転校してきて、そのポジションを奪われてしまい……。女子吹奏楽部員たちの、名前の付けられない感情が描かれる。

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県立南陵高校の吹奏楽部で1stトランペットを担ってきた片桐千早のもとに、強豪校で1stを吹いていた相川響が転校してくる。2人はポジションを争うライバル関係ながら、音楽で通じ合える唯一の存在として次第に互いを特別視するようになっていき……という内容の百合作品。ではあるのだが、物語構造としての百合要素への依存度は、実はそこまで高くない。

というのも、まず吹奏楽部の練習風景や楽器演奏の描写が真に迫っていて迫力がある。コンクールなどに向き合う部員たちの姿勢が(熱量の不一致なども含めて)アツい。キャラ数が多い割にきっちり描き分けられていて、なおかつそこで構築される人間関係が妙にリアルである。「人は表面だけでは判断できない」ということが見事に描かれている……というように、仮に百合要素を差し引いたとしても十分に成立してしまうほど、マンガとして面白い要素が多すぎるのである。

もちろん片桐・相川ペア以外にも何組か百合カップルは登場するし、何よりタイトルに「百合」と明記されているので、これが百合マンガであることに疑いの余地はない。しかし、例えば百合ジャンルに偏見のある読者の場合は特に、本作を百合マンガだと思い込まないほうがいいだろう。ジャンルで毛嫌いするにはあまりにもったいない作品である。

大江しんいちろう「困ったじいさん」

ショートコント的ほがらか老年ギャグ

大江しんいちろう「困ったじいさん」

大江しんいちろう「困ったじいさん」

「困ったじいさん」

ボケたフリをしてばあさんに愛の言葉を伝えるじいさんと、そんなじいさんにドキドキさせられっぱなしのばあさんを描くラブコメディ。じいさんはどちらが右手かわからなくなったと言ってばあさんに手を握らせたり、わざとよろめいてばあさんに壁ドンし、近所の人とのゲートボールに行くのを止めようとしたりする。

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枯れた風貌の朴訥としたじいさんが何気ない日常の中で唐突に繰り出す甘いセリフやイケメン行動の数々と、それに翻弄されるばあさんの乙女なリアクションを楽しむギャグマンガである。物語構造としては基本それがすべてであり、1話あたりのページ数も少ないことから、読み味としては4コママンガに近い。明快さと読みやすさ、心地よいテンポ感、切れ味の鋭さを備え、とぼけたムードの絵柄も手伝って何も考えずに楽しめる、ショートコント集のような作品だ。

本作には主役たる老夫婦のほかにも、町内会の虎造やソネミ、孫娘のマコと娘夫婦、近所のヤンキーカップル、お隣の受験生ケンくんなどなど魅力的なサブキャラクターが多数登場する。いずれも人間味に溢れた強烈なキャラクターでありながら、「あくまで主役2人の尊さをより際立たせる調味料にすぎない」という役回りが徹底されている。その贅沢とも言えるキャラ配置によってじいさんのカリスマ性はさらに強調され、結果として読者は全キャラを好きになってしまう。

ちなみに本作は2020年4月にBS日テレにて1分枠でのTVアニメ化も果たしており、日野聡(じいさん役)と水瀬いのり(ばあさん役)という意外性のあるキャスティングでも話題を集めた。

原作:山下将誇 作画:宇上貴正「コミュ障、異世界へ行く」

ゴブリン1匹に22ページ費やす異色作

原作:山下将誇 作画:宇上貴正「コミュ障、異世界へ行く」

原作:山下将誇 作画:宇上貴正「コミュ障、異世界へ行く」

「コミュ障、異世界へ行く」

天性のコミュ障で、ゲームのしすぎにより死んでしまった山岸ジュンペイ。目覚めると、前世で没頭していたゲームの世界に召喚士として転生していた。召喚士は低スキルの不遇職であることも相まって、ジュンペイの第二の人生は前途多難で……。

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本作は「急死した主人公・ジュンペイが、生前プレイしていたゲームの舞台であるファンタジー世界へ転生する」という、いわゆる異世界転生もののテンプレとも言えるような導入で始まる。主人公の人物像が「コミュ障のオタク」という設定もいかにもそれっぽいが、安易にテンプレ設定を借用しただけの作品でないことは一読してすぐに理解できるはずだ。

基本設定のうち、テンプレから逸脱しているほぼ唯一とも言えるポイントが「主人公にチート能力が与えられていない」というもの。この1点によって、本作はあまたある異世界ファンタジーと明確に一線を画すことに成功している。それは最初の戦闘シーンにいきなり顕著で、ジュンペイが最弱モンスターであるゴブリンを1匹倒すまでに実に22ページもの尺が費やされ、生きるか死ぬかというギリギリの死闘がきめ細かく描写されるのである。

特別な敵キャラとのバトルならともかく、ゴブリンのような地味なモンスターとの戦闘シーンがここまで手厚く表現されるケースはなかなか珍しい。そうした「普通は省略されがちな地味な場面をきっちり、しかも魅力的に描き切る」という姿勢こそ、本作最大の特徴と言っていいだろう。今後もジュンペイの地味な戦いから目が離せない。