LINEマンガの10周年を記念し、コミックナタリーでは連載形式で特集を展開中。第5回となる今回は、「外見至上主義」や「喧嘩独学」など話題の作品を手がけるT.Jun(テジュン)にインタビューを行った。縦スクロール&フルカラーのマンガ、通称webtoonが盛んな韓国生まれ・在住のT.Junは、2014年のデビュー以降精力的に作品を生み出している。韓国や日本のみならず、世界で幅広く読まれるヒット作品を生み出し続けるT.Junが明かす、創作の原点とwebtoonへの思いとは?
取材・文 / 太田祥暉(TARKUS)
タレント活動にアパレルショップ運営…お金を稼いでからマンガ家になるしかなかった
──T.Junさんが日本のメディアでインタビューを受けることは多くはないと伺っています。まずは自己紹介からお願いできますか?
初めまして、webtoon作家のT.Jun(テジュン)と申します。誕生日は1984年9月3日。2014年に「外見至上主義」でNAVER WEBTOONからデビューしました。
──幼い頃には日本のマンガも読まれていたそうですね。
恐らく僕と同年代の人であれば、学生時代に自然と日本のマンガに触れていたと思いますよ。少年マンガ誌に連載されている作品を読んで、好きな作品の単行本が発売される日には決まって書店の前に並ぶというのが日常でしたからね。
──その中でも、特にお気に入りの作品は何ですか?
「ろくでなしBLUES」(集英社)と「今日から俺は!!」(小学館)、「湘南純愛組!」(講談社)と、当時人気だったマンガをたくさん読み漁っていましたが、その中で一番を選ぶのであれば「DRAGON BALL」(集英社)でしょうか。ただ、それらの作品から直接的な影響は受けていないと思います。
──そもそも、T.Junさんが創作を始められたきっかけはなんでしたか?
特別なきっかけはなかったですね。幼い頃からマンガが大好きで、自然とマンガ家になりたいなと考えていたんですよ。そのために、マンガ学科のある大学に進学しました。でも、一時期は学校を休んで、テレビ番組にタレントとして出演したり、Web上で男性向けのアパレルショップを運営したりしていましたね。
──休学中にさまざまな活動をされていたのは、どういった理由だったのでしょうか。
それほど豊かな環境じゃなかったので、お金を稼いでからマンガ家になるしかなかったんです。その一心でデビューするまで一生懸命働いていました。デビュー作の「外見至上主義」が運よくたくさんの方々に愛されるようになったおかげで、今まで作家活動を続けることができました。デビュー当時は、まさか「外見至上主義」をこんなに長く連載することになるとは思っていませんでしたね。
「外見至上主義」のアニメ化では、光栄な気持ちとともに恥ずかしさも
──デビュー作の「外見至上主義」は、タイトル通りルッキズムがキーワードとなっている作品です。本作では主人公の長谷川蛍介は、2つの身体を使いこなしながらさまざまなアクシデントを乗り越えていきます。この作品の発想はどのようにして生まれたのでしょうか。
学校でいじめられている子に新しく完璧な身体ができたらどうなるか、というアイデアが発端です。そこから、睡眠を媒介として、一方の身体は寝ているけれどもう一方は起きているという設定にしたら面白くなるのではないかなと。そうすることで、キャラクターの身体と心が成長するところが見せられると考えました。
──先ほど「こんなに長く連載することになるとは思っていなかった」と伺いましたが、9年もの長期連載となると、デビュー時には考えていなかった問題も生じるのでは?
ストーリーが膨大なので、各エピソードでキャラクター像をきちんと構築しないといけないんですよね。ですから、キャラクター間の葛藤をうまく描いて、納得のいくストーリーが作れるように常に気を付けています。
──「外見至上主義」は長期連載となっただけではなく、スピンオフ作品も連載されていますよね。
「外見至上主義」で脇役として登場した木村部長が主人公の「김부장(キム部長)」ですね(注:日本では未配信)。この作品は「外見至上主義」だけではなく「喧嘩独学」など、ほかの作品とも世界観がつながっているんですよ。なので、ありがたいことに韓国ではたくさんの方に読んでいただいています。
──また、「外見至上主義」は2022年にスタジオミール制作、Netflix配信によってアニメ化も果たしました。アニメになったことで、T.Junさんご自身はどのように感じられましたか?
まずは、自分の作品が世界中に配信されること自体、とても光栄でしたし感無量でした。それと同時に、描いていた当時の感情や、実力が足りなかった部分が見えてきてしまうことで恥ずかしさもありましたね。それでも、アニメ化によって自分の作品を世界中の皆さんに紹介できるのであれば、この上ない光栄なお話です。またこのような機会がいただけたときのことを考えて、今は恥ずかしさを感じないよう常にベストを尽くして描くようにがんばるのみです。