「マリーミー!」とは夕希実久にとって“マンガ家としての立ち位置”を与えてくれた存在、完結から4年経った今振り返る (2/2)

売れなかった時代は大事な時期だった

──そんなマンガ業界を生き抜いてこられた夕希先生ですが、ご自身の作家としての強みはどこにあると考えていますか?

強み……打たれ強さですかね(笑)。うまくいかなかった時期のほうが長いので、どんな状況でも描けるのは強みだと思います。描けなくなることはないですね、基本的には。

──作品の特徴としてはどうでしょう。ご自分のマンガにしかないものはなんだと思います?

自分のマンガにしかないものは、ないです(笑)。本当に自分ではよくわからないんですけど……よく皆さんからは「癒される」と言っていただけますし、自分でも人の優しさや温かみは意識して描いているところではあるので、そのあたりを特徴だと思っていただけるのであればありがたいなと思っています。

──ちなみに僕が個人的に感じている夕希実久作品の最大の魅力は、絵です。ひと目で夕希先生の絵だとわかる。

ホントですか! とってもうれしいです! 自分ではそんなに個性的な絵だとは思わないんですけど……。

──絵を描くこと自体は、もちろん幼少期からずっとお好きだったんですよね?

好きでしたね。女の子って顔を描くのが好きな場合が多いかなと思うんですけど、私は顔を描くのがずっと苦手だったんですよ。それが、デビュー当時に編集さんから「顔を描くの苦手だろ」と言い当てられてしまって。「逃げないでちゃんとやりなさい」と言われたときに「あ、人様が見てわかるくらいに私は手を抜いていたんだ」と思い知らされて、そこからちゃんと向き合うようになったんです。それ以来、自分で好きだと思える絵柄を確立するために表情の描き方とかもごまかさずに追求するようになって、どんどん描くことが楽しくなっていったんですよね。今では顔を描くのはすごく好きです。

──レベル1から着実に段階を踏んで獲得していった絵柄なんですね。いきなりレベル100から始まるような天才タイプではなかった?

そうなんですよ。マンガ家として最初からできていたことなんて何ひとつなかったので……私はデビューが集英社だったんですけど、集英社で描いている作家さんは私なんかから見るとそれこそレベル100から始まっているような天才型が多くて。だからこそ、そこで自分の実力のなさを思い知って一から努力できたのはよかったなと思いますね。もし最初から何も悩まず先天的にできていたら、いざできなくなったときに「どうしてできていたのか」がわからなくなっちゃうと思うので。

──レベル100スタートの人はレベル20とかの時代を経験していないから、そこからどうやってレベルアップしたらいいのかわからないんですよね。

そうそう。私はデビューが割と早かったので、若いうちから努力ができたのもよかったです。売れなかった時代は大事な時期だったな、と今でも思いますね。

──そんな夕希先生の最新作「僕のソルシエール」が、昨年10月に完結しました。現時点で次回作の構想は何かありますか?

そうですね、あります。それこそ今の私だから描けるもの……「マリーミー!」のときはほぼ無職だったから陽茉莉をニートにしたみたいな感じで(笑)、今度は物書きを描きたいなと思っていて。創作活動をしている人。

──「マリーミー!」でも梅村広樹という小説家のキャラクターを描かれていましたが、それに近いイメージ?

あ、そうですね。ただ、あのときは作家を出すにしても“売れない作家”しか描けなかったので(笑)。

──なるほど(笑)。今なら売れた人の気持ちもわかるから……。

いやいやいや! もちろんすっごく売れたメガヒット作家の気持ちはわからないですけど(笑)、ある程度の反響をもらえるような経験はさせていただいたので、それも生かしつつバランスよく描けたらいいなとは思っています。これからも、私の作品を読んでいただけたらうれしいです。

「マリーミー!」はみんなで作っている感覚でした

──「マリーミー!」「僕のソルシエール」といった作品をLINEマンガで描かれてきた夕希先生から見て、LINEマンガという媒体は作家にとってどんなプラットフォームだと言えますか?

作家にとっては、描きやすい場所なんじゃないかなあ。たくさんの作品数が載れるから、自分の作品を世に出したいと思っている方には適していると思います。ただやっぱり作品数が多い分、埋もれやすくもあるんですけどね。

──確かに、たくさんある中からだと見つけてもらうだけでも大変ですし。

「マリーミー!」のときはオリジナル作品がまだ8タイトルしかなかったタイミングなので、かなり手厚くプロモーションしていただけた実感がありますけど、今はだいぶ状況が変わっていますよね。これだけ作品数がある今のLINEマンガ内で売れているオリジナル連載はすごいと思います。本当に実力で登ってきた人たちですから。

──何か気になっている作品はありますか?

「女神降臨」はすごいと思う。あと「先輩はおとこのこ」。絵がかわいい!

──それこそ「先輩はおとこのこ」は「LINEマンガ インディーズ」出身で、途方もない作品数の中から埋もれずに出てきた作品ですよね。

そうなんですよ! だから本当にすごいと思って。ああいう方にはどんどん出てきていただきたいですね。たくさんある中から見つけてもらうためにも、やっぱり無料で読めるというのは大きいと思うんですよ。「まず読んでいただいてから好き嫌いを判断してもらう」というLINEマンガの仕組みは、作家にとってはすごくありがたい。「マリーミー!」にしても、もし有料の媒体でやってたらここまでいかなかったんじゃないかと思いますね。

──ありがとうございます。では最後にちょっと変な質問をしますが、「夕希実久にとってLINEマンガとは?」をひと言でお願いできたりしますか?

「LINEマンガとは」かあ(笑)。そうですね……「マリーミー!」をやっていたときは本当にチームとしての一体感があったし、皆さん一生懸命やっていただいてすごく楽しかったんですよ。家族感というのか……作家としての原点のような場所ではあるんですよね。

──「実家」という感じですかね?

でも、時代とともに当時と変わっているところもあるので。うーん……。

──じゃあ「母校」とかですかね?

あ、そんな感じかもです! それまではマンガを描くのって全部1人でやるものだと思ってたんですけど、LINEマンガで「マリーミー!」をやり始めたら、もう1人では抱えきれなくなったところもあり、いろんな方と意見交換をさせていただくようになって。そこで初めて人と協力してマンガを描くことの楽しさを知ったんです。「そういう作り方が私にもできたんだな」と思いました。

──母校で初めて友達ができた、みたいな。

そうそう、ホントにそうですね。「マリーミー!」はみんなで作っている感覚でした。

祝・LINEマンガ10周年!
夕希実久が「マリーミー!」のイラストを描き下ろし

夕希実久による「マリーミー!」の描き下ろしイラスト。

夕希実久による「マリーミー!」の描き下ろしイラスト。

久しぶりに訪ねて来てくれた友人を陽茉梨たちが出迎えているイメージで描きました。
この2人は描いてて本当に癒されるなぁと改めて思いました。描けて楽しかったです。

プロフィール

夕希実久(ユウキミク)

2000年、ザ マーガレット冬の号(集英社)でデビュー。2015年から2018年にかけてLINEマンガで「マリーミー!」を連載し、同作は2020年10月にTVドラマ化を果たした。そのほかの主な作品には「リトル・マエストラ」「チャイルド・キャッスル」「僕のソルシエール」がある。