LINEマンガの10周年を記念し、コミックナタリーでは4月より連載形式で特集を展開。第1回では、2015年から2018年までLINEマンガで発表された「マリーミー!」の夕希実久にインタビューを行った。LINEマンガ編集部が初めて手がけたオリジナル作品の1つで、TVドラマ化されるなど広く親しまれた「マリーミー!」。コミックナタリーでは連載開始当初にも夕希にインタビュー(参照:「マリーミー!」特集 夕希実久インタビュー)を実施し、同作で描きたいことなどを語ってもらっていた。今回は当時の心境や制作にまつわる裏話、過去と今を比較して感じるマンガ業界の変化についてトーク。最後には、夕希による「マリーミー!」の描き下ろしイラストがあるのでお見逃しなく。
取材・文 / ナカニシキュウ
LINEマンガを一緒に作りあげてきた
──夕希先生の「マリーミー!」は、2015年にLINEマンガオリジナル作品第1弾として連載が開始されました。当時の心境は覚えてらっしゃいますか?
私はそれまで紙の雑誌で描いていたので、電子のみの連載は初めてだったんです。まだ電子コミックというものが確立されていない不安定な時代ではあったんですけど、LINEという会社自体は知っていたので、そういう意味では安心感はありましたね。「LINEのような大きな会社だったら大丈夫かな」って(2018年以降はLINEからLINEマンガおよびLINEコミックス事業が新会社・LINE Digital Frontierに承継される)。でも、思っていた以上にプロモーション展開などを大々的にやっていただけたりして、「こんなに大きなプロジェクトだったんだ?」というのは描き始めてから思ったことです(笑)。すごくありがたかったですね。
──「電子のみの連載だから」と意識したことなどは何かありましたか?
読みやすさについては編集さんからすごく言われていたので、あまりコマを小さく割らないように気を付けたりはしましたけど、そのくらいかなあ。あとは雑誌と違って読者層が絞れなかったので、できるだけ万人受けするように意識したと思います。できるだけクセを少なくして、たくさんの人に読んでもらえるように。
──それは、ヘタすると作家性を損なう方向にも行きかねないですよね?
でも、編集部のほうが私の個性を損なうようなことはしないでいてくれたので、私としてはさほど気にすることもなく楽しく描けました。私自身、もともと感性が万人寄りだというのもありますし(笑)。
──LINEマンガ編集部としても初のオリジナル作品ということで、手探りな部分も多かったんじゃないかと思うんですが。
やっぱり、いろんなことがまだ固まっていない時期だったこともあって、言われることがすごい速さで変わっていったりはしましたね。掲載ペースのこととか、後から後から「聞いてない!」って話が出てきて(笑)。フルカラーでやるというのも、けっこう後になってから聞いたんですよ。
──それはだいぶ大きな話ですね(笑)。
そうなんですよ! そんなふうに困ったことは多々あったんですけど、逆に言えばそれが電子コミックならではのスピード感でもあると思うので。その中でもちゃんと逐一話し合いの場を設けていただきましたし、こちらの意見もたくさん聞いてもらいながら進めていけたので、それに関してはすごく感謝しています。
──LINEマンガ側も、何も先生を困らせようとしていたわけではないですもんね。
もちろんもちろん。だから作品だけでなく、LINEマンガという媒体を一緒に作りあげてきたような感覚はすごくありますね。その意味で「マリーミー!」の連載はすごく楽しかった。編集部がどんどん大きくなっていく過程も体感できたし、ひとつのチームという感じが強かったので。
──当時、「マリーミー!」を含めた8作品が同時に連載スタートしましたが、ほかの7作品については意識したりしましたか?
できるだけ意識しないように意識していましたね(笑)。やっぱり意識しないのは無理なので。
──LINEマンガ1期生としての仲間意識みたいなものは?
それもありますね。本当に横一線で始まったので、懇親会などで話す機会があった方とは「大変だったよね」と苦労を分かち合ったり(笑)。「ハードボイルド園児 宇宙くん」を描いていらした福星英春先生とはコミックスの発売も一緒に決まりましたし、そういう方がいてくれたのは心強かったです。1人じゃなくてよかったなって。
「マリーミー!」で作家としての立ち位置が定まった
──「マリーミー!」はその後ドラマ化もされるなど大ヒット作となりました。夕希先生にとって、改めてどんな意味を持つ作品になっていますか?
作家としての立ち位置を作ってくれた作品ですね。私といえば「マリーミー!」というイメージが強いと思いますし、「こういう作風の作家」というイメージを作ってくれた。そういうものがそれまでずっとなかったので、ありがたいなと思っています。
──マンガ家人生も大きく変わったのでは?
変わりましたね。まず何よりも、お声がけをいただけるようになったのが大きな変化だと思います。それまでは描いたものを自分から売り込んでいく流れしかなかったのが、編集さんとかから「描いてほしい」と言っていただけるようになったので、それがすごくうれしかったです。
──「マリーミー!」連載開始当初のインタビュー記事を読ませていただいたんですけども、そこで「陽茉梨をニートにしたのは、自分がニートみたいなものだったから」とおっしゃっていて。
あははは(笑)、そうですね。だから描けるかなと思って。
──今だったら描けないかもしれない?
うーん、どうですかね……確かに、あのときだから描こうと思えた題材ではあると思うんですけど、今描いても同じものになりそうな気もします。まだそんなに陽茉梨というキャラクターが自分から遠ざかっている感覚はないので。
──確かに、そもそも「マリーミー!」は設定で読ませるタイプの作品でもないですしね。
はい、重要なのはキャラですから。
──物語としては、秋保と陽茉梨の間に娘が生まれたところで完結しました。その終わり方は開始当初から考えていたんでしょうか。
いや、あんなに長く続くとは思っていなかったので……なんとなく「そこがゴールになるのかな」と考え始めたのは、なかば過ぎた頃くらいだったかなあ。
──なんなら、いつまででも続けられるお話ではありますよね。
確かにそうですね。描けと言われたら、今でもいくらでも描けます。
──実際、最終巻は後日談エピソードだけで1巻まるまる使っていました。
私がもともとスピンオフみたいなものが好きだったので、そういうものを描きたい気持ちはずっとあったんです。「マリーミー!」は幸いにもたくさんの方に読んでいただけたので、この作品でならスピンオフを喜んでいただけるかもしれないなと思って。いろんなキャラクターが成長した姿を描くことができて、うれしかったです。
──電子のみの連載ならではの特徴として、読者コメントがリアルタイムで届きますよね。このことはどんなふうに捉えていました?
コメントとの向き合い方は難しかったですね。反応をいただけることはもちろんうれしいんですけど、「あくまでも一部の方のお声だ」「これがすべてではない」ということは肝に銘じて、あまり振り回されないように意識していました。コメント欄だと、どうしても集団心理みたいなものも働きやすいですし。
──ちなみに、読者の声で印象に残っているものは何かありますか?
一番初めは「読みやすい」と言ってもらえたのがうれしかったかな。あとは「絵が好き」とか。絵に関しては「上手」とかって言われるよりも「好き」と言われるほうがうれしくて。
──逆に、嫌だったものは?
嫌だったというか……「書き文字が嫌い」と言われたことがあるんですよ(笑)。「マンガは好きだけど字は嫌い」って。
──すごい角度の感想ですね(笑)。
そうなんですよ。ちょっと斬新な発想すぎて、すごく印象に残ってます。いろんな感じ方をされる人がいるんだなあと思って。
──でも、そういう想像もしないような反応は創作にも生かせそうですね。
確かに、視野は広がりますよね。そうかもしれない。
電子コミックの状況は大きく変わった
──連載当時と今とで、マンガ業界の変化はどんなふうに感じていますか?
やっぱり電子コミックの状況は大きく変わりましたよね。アプリでマンガを読むこともかなり普通になったし、とにかく作品数がとんでもないことになっていて(笑)。マンガ界というか、LINEマンガもすごく変わったなと思います。
──LINEマンガはどんなふうに変わりました?
今のLINEマンガは、webtoon作品もかなり増えましたよね。webtoonは新しいマンガ文化であり、webtoonが発展することによってマンガ読者の総数も世界的に増えていくものだと思うので、どんどんヒット作が出てきてくれればいいなと思っています。
──作品の内容的に連載当時と今とで傾向の違いを感じるところはありますか?
当時から一貫してストレスフリーなもの、癒し系の作品にはずっと需要がありますよね。でも、いっときよりも過激なマンガが増えた印象はあります。暗い世界観の作品や負の感情を描くものが流行っていたりもするので、バランスがよくなってきた気はしますね。
──なるほど、バランスがよくなった。
そう思います。ただ、マンガって結局のところ面白ければ売れるものでもあるんですよ。流行り廃りをガン無視しても、面白い作品はちゃんと売れる。それがいいところだと思います。
──夕希先生自身、世間の流行りはさほど気にしなくなりました?
いや、やっぱりある程度は気にします。個性だけでやっていける自信はないので(笑)、読者さんが入ってきやすいように、流行り廃りはある程度頭に入れておきたい。自分の好きなものと流行りのものに共通項があれば、できるだけ生かしたいなと思っていますね。
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売れなかった時代は大事な時期だった