コミックナタリー Power Push - おがきちか「Landreaall」
連載16年目にして祝・アニメ化! ランドリ誕生からキャラクターの作り方まで語るロングインタビュー
「ゼロサムっぽくしよう」と思ってキャラを作った
──DXがマリオンを救うエカリープ編が3巻まで。4巻からは舞台がアカデミーに移り、魅力的なキャラがたくさん登場しますよね。
同人誌で描いていたときは、アカデミーの話を描くつもりはなかったんです。でもゼロサムで連載するのが決まったとき、担当さんに「同人誌の続きを描いてほしい」と言われていて。その先を描くんだったら、ゼロサムを読む女子中高生に楽しんでもらえるよう、「ゼロサムっぽくしよう」と思ったんです。その年頃の女の子って、このキャラと付き合いたいとか、結婚したいとか、そういうことを考えてマンガを読むでしょう? だからイケメンの若い男子をいっぱい出さなきゃなと。で、そのとき何をしたかって言うと、乙女ゲーム誌を読んで、どんなタイプの男子を揃えればいいのか勉強したんですよ。
──読者さんに喜んでもらえるような男子キャラを。
はい。話とキャラは別に考えよう、話は私が描きたいほうに振って、その代わりキャラは読者さんが楽しめるよう、いろんなタイプを取り揃えようと(笑)。
──いろんなタイプのキャラを描き分けるのは大変そうですね。
キャラって、エピソードを用意すると勝手に動いてくれるんですよ。私は元々エピソード先行なので、用意したエピソードに対して、キャラがどう反応するかを描けばいいんです。
──キャラが勝手に動いている、というのはどういう感覚なんでしょうか。
うーん……夢を思い出す感じに似てますね。夢って、自分が行ったことのない場所も、知らない人も出てきますよね。なんでそんな夢を見たのか、どこから来たのか自分でもちょっとわからないんだけど、でも絶対に自分の中から出てきたものじゃないですか。あと、パロディ畑の人間なので、オリジナルをパロディみたいに描いている感覚もあります。
──自分の作った世界だけど、客観的に見ているような。
かなり客観的に見てますね。セリフも、自分では絶対に思いつかないようなことを言ったりするし。国の政治のことなんか、私は全然わかんないんですけど、したり顔で言いますから、キャラクターは。セリフって、そのキャラが知っていることや経験してきたことの積み重ねなのでね。
──アニメでセリフを直したのも、そういう理由で?
そうです。キャラのセリフさえ私が考えれば、どんな内容でも不思議とランドリらしくなるんですよ。
主人公を手癖で描けるキャラにしない
──では描きやすい、動かしやすいキャラはいますか?
フィルとかライナスは、行動原理がわかりやすいので描きやすいです。あとイオン。イオンは反射で生きているようなところがあるので、動かしやすいというか、何を考えているかがわかりやすい。動かすために考えなくて済むというか。ライナスだと、行動原理はわかるけど、そこから何をするかっていうのは、少し考えないといけないんです。
──DXはどうですか?
DXは……よくわからない感じです(笑)。まあ、何をするかわからないキャラにしようと思って描いてるから、それでいいのかなと思うんですけど。DXを作るときに気を付けていたのは、手癖で描けるキャラにしないこと。手癖で絵が描けて、行動もあまり考えずに描けるようなキャラを主人公にしてしまうと、新鮮さが失われていく気がして。がんばって描かないと主人公にならないぐらいがちょうどいいですね。
──でも考えがわからないキャラを動かすというのは難しいですよね。
主人公だけを見ていると難しいんですけど、周りのキャラが主人公をどう見ているか、という目線で行動を考えれば大丈夫です。例えばDXの場合は、竜胆やティ・ティみたいな常識的なキャラならこうする、という行動から逸脱した行動を取らせるんです。
──確かに比較対象になるキャラがいると想像しやすいです。
で、みんながDXに慣れてきた頃に正道に戻す。真っ当な発言をさせたり、貴族らしい立ち振舞いをさせてみたり。DXに限らず、そのキャラがどういう行動を取るかを周りのキャラに想像させて、そこからヒントを得て言動を決めるってことはよくやります。群像劇ってこうやって作るんだなと思いましたね。
──では逆に動かすのに苦労したキャラは?
竜胆くんですね。本当に私の中にはいないも同然のキャラで。大人しくてネガティブなキャラって、まったく引き出しがないんです。でもああいうキャラを好きな女子って絶対にいるから、受け皿を作っておかなきゃって思って(笑)。それを悟られないようにがんばりました……。描きやすいキャラ、描きにくいキャラがいるのって、プロとして駄目じゃないですか。そんなことを読者さんに感じてほしくないし。
──描きやすくなるために工夫したことは?
試行錯誤した結果、竜胆が成長するお話を描こうと。竜胆がなんでネガティブなのか原因を作って、その原因を打破する行動を取らせてみれば、描きやすくなるんじゃないかと思って。ウルファネア編はそのために描いたみたいなところがあります(笑)。
大事なのはエピソード、話とキャラは別
──物語のテーマとしては、DXの王位継承がありますが、いろんなエピソードで構成されていますよね。
エピソードを考えるのが好きなので、たくさんストックしてあるんです。全部描けるとは思ってないんですけど。今描こうとしている話も、5年前ぐらいに考えてたやつだし。
──ストックを出すタイミングは?
担当さんに相談しながらですけど……でもエピソードの出し方はどの順番でもいいんです。例えばスピンドル編はDXがいないときに起きた話ですが、DXがいるときにやってもよかったし。
──DXがいないときにやったのは、なぜ?
たまたまです。同じタイミングで竜胆が国に戻らなきゃいけない、というイベントが起こっただけで。DXと六甲と竜胆がいるときに起こったスピンドルの話も頭の中にはあって、それを描いてもよかったんですけど……タイミング的にいなかったんでこうなりました(笑)。
──それだと、描きたかったけど描けなかったエピソードもあるのでは?
まあそれはご縁がなかったってことで、そんなに惜しむほどのことでもないですね。描く順番によって、使えるキャラと使えないキャラがいるってだけです。
──キャラクター中心に考えることはないんですか?
私はまずエピソードありきなので、話とキャラは別なんです。思いついたエピソードにどのキャラを投入するか、っていう順番で考えています。DXたちが砂漠に行く話なら、誰を王城に置いて、誰を砂漠に連れて行くかは考える。でも別にフィルを連れて行っても良かったし、イオンを置いていっても良かった。RPGでダンジョンに行くのに、「どのパーティメンバーで行こうかな?」って考えるような感覚です。心がけているのは、全員をオールマイティなキャラにしないこと。能力に特色があるほうが面白いし、ゲームでも、パーティメンバーが全部似たようなパラメーターだとつまんないじゃないですか。どんなメンバーで行っても目的は同じだけど、攻略方法は変わるんです。
──細かいやり取りが変わってきても、大筋が変わらないからいいと。
そうです。ただ、私なりにこのエピソードで描きたいポイント、みたいなものはあるので、それに必要なキャラというのはいます。砂漠の話だったらDXが奴隷に売られるっていうネタと、助けに行くのはライナスとルーディーというのだけは決めていて。あとクエンティンに対抗できるキャラをパーティメンバーに入れたいから、ディアを連れて行こうとか。そのときに道具箱に入っているものでやりくりするんです。
──このキャラのこんなシーンを描きたいからエピソードを考える、みたいなことは……。
それがないんですよねえ。主人公については絶対そういうふうに考えたほうがいいと思うんですけど……。マンガ家さんって、よく「描きたいシーンを思いつく」って言いますよね。でも、私はそういうタイプではないんですよ。話を決めてから、どのキャラを使うかを考えるから。だからたまに主人公がいなくても成立したりする(笑)。
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- おがきちか「Landreaall(29)」 2017年2月25日発売 / 一迅社
- コミック 限定版 / 4212円 オリジナルアニメDVD付
- コミック / 626円
- Kindle版 / 432円
クレッサールでの一件も決着し、アカデミーに戻ってきたDX。だが、補講にレポート、報告書と……まだまだ日常は遠そうだ。一方、王城に戻ってきたメイアンディアは、DXに別れを告げてファラオン卿の元へと戻っていた……。
「Landreaall」オリジナルアニメ
DVD総尺約30分 / 折込特典:ブックレット(描き下ろしマンガ、キャスト座談会、キャストコメント、設定資料収録)
キャスト
- DX・ルッカフォート:鈴村健一
- イオン・ルッカフォート:榎本温子
- 六甲:津田健次郎
- 竜胆:平川大輔
- ライナス:諏訪部順一
- ルーディー:杉田智和
- フィル: 鈴木千尋
- ティ・ティ:阪口大助
- 五十四:西村ちなみ
- カイル:高橋広樹
- レヴィ:金光宣明
- チルダ:小松里歌
- ディア:川澄綾子
- トリクシー:弓場沙織
- マクディ:中澤まさとも
- 学長:加藤亮夫
- ゼクスレン:小手伸也 ほか
スタッフ
- 原作・監修:おがきちか
- 監督:合田浩章
- キャラクターデザイン:猪股雅美
- 脚本:木村暢
- 音響監督:原口昇
- 制作:ウィルパレット
おがきちか
2000年にヤングキングアワーズ増刊アワーズ2001(少年画報社)に掲載された「仔羊は迷わない。」でデビュー。2002年より月刊コミックZERO-SUM(一迅社)にて「Landreaall」を連載中。著作に「エビアンワンダー」「エビアンワンダーREACT」(一迅社)、「ハニー・クレイ・マイハニー」「パルパル&ロケッタ」(少年画報社)、「侍ばんぱいや」(太田出版)などがある。