植物になって見守る「婚約者は溺愛のふり」「姫君は騎士団長」
──異世界転生ものではなく、異世界もの、ファンタジーものはいかがでしょうか。
本屋さんでは近い位置に置かれていますし、たぶん「悪役令嬢」「異世界転生」が好きな人は「異世界」「ファンタジー」が好きだし、逆もしかりですよね。ただ私は、異世界ファンタジーで女性の恋愛が描かれているものは「少女マンガの一ジャンル」を見る気持ちで読んでいます。分類はなかなか難しいですが……「悪役令嬢」「異世界転生」「前世」といった要素があったら悪役令嬢ジャンルや異世界転生ジャンル、そうでなくて、舞台が異世界やファンタジー世界で描かれている作品は少女マンガジャンル、と自分の中では捉えています。
──その辺りのジャンル意識は、読むときの感覚に影響を与えますか?
悪役令嬢ものや異世界転生ものは、その世界に自分が入り込んだときのことを自然と考えながら読んでいます。少女マンガだと、その世界の“植物”になっているような気持ちですかね(笑)。植物になって、キャラクターたちの恋愛を見守りたい気持ちになります。
──同人用語でいえば「カップリングを見守る」テンションになっている(笑)。では「婚約者は溺愛のふり」は、“植物”の感じで読んでいらっしゃったんでしょうか。
はい、そうですね! 「お金がないので政略結婚」というところから始まって、どんどん甘酸っぱくなっていく。頭がいいけどちょっと天然なヒロインはツボでした。アラビアっぽい世界観や衣装もとてもかわいい! この作品も「帝国の恋嫁」と同様に、ヒーローがヒロインのことを気に入っている感じがいいです。「姫君は騎士団長」も、少女マンガの気持ちで読んでいました。
──由緒正しい騎士の家に生まれた主人公クリスティーナは、女の子だけど男の子同様に育てられて、17歳で王子専属近衛騎士団長になる。守っている王子レオは幼なじみで、クリスティーナはレオに忠誠を誓っている……というところから始まります。
ここが1話で説明されるんですが、個人的にはこの「騎士団長になるまでの道のり」がもっと見たいなと思いました。どのジャンルのマンガでも、世界設定がしっかり作り込まれているものが好きで。「姫君は騎士団長」の場合、そもそも17歳で騎士団長というのもすごいし、王子に幼なじみとして接するのが許されるくらいの家柄で、どうして男同様に育てられたんだろう? そこに物語が絶対にあるはずだし、見たかったなと。
──実は3巻収録のエピソードで、実家の話があるんです。お父さんとのあいだに確執とすれ違いがあることが明かされます。
そうなんですね! やっぱり「どういうおうちなんだろう」は皆さん気になるところですもんね。ちなみに、単行本1巻に収録されている読み切り「魔王様は禁断の恋がしたい」もよかったです。ポンコツ魔王が恋がしたくてがんばるけど空回るファンタジーもので、一生懸命さがかわいくて……。「婚約者は溺愛のふり」「姫君は騎士団長」の2作は、少女マンガが好きで、ファンタジーに触れてみたい人におすすめしたい。ファンタジーや異世界少女マンガの入り口としていいマンガだと思います。
「悪役令嬢ジャンル」の成長をもっと見たい
──ここ数年の悪役令嬢ものをたくさん読んでいる伊織さん。ジャンル全体の変化を感じることはありますか?
数が増えてジャンルが大きくなったなとすごく思います。ただ、この大きくなったのって、韓国Webtoonの影響も大きい気がしていて。韓国発の悪役令嬢ものって、連載の本数も多くて、フルカラーで、絵のクオリティも高くて……。日本発の悪役令嬢ものが増えているし盛り上がっているのと同様に、韓国発のものの強さも感じます。
──韓国のWebtoonはチームで作ることが多く、日本のマンガはマンガ家さんが基本的に個人で制作しているという違いがあります。スピード感や作品の雰囲気は確かに違いますね。
日本でも今は「女性向けマンガの中の一ジャンル」ですが、そこを抜け出して「悪役令嬢ジャンル」と言えるくらいの大きさになるところを見たいなと思います。
──日本でもさまざまな作者さんが悪役令嬢ものを発表されています。「なぜこれまでこの作家さんと出会ってなかったんだ!?」と驚くくらい、マンガや絵の技術のある方が増えている印象です。
それは確かにそうですね! マンガ家さんにかつて聞いた話では、デジタル化が進むことで、描くことが楽になる部分があって、今までの技術がさらに濃縮されていくことがあるそうなんです。だから今後は、すごい絵を描く作家さんがさらに増えていくのかもしれません。そんな作家さんたちが描く悪役令嬢ものを読むのが楽しみですし、LaLaでも異世界転生・悪役令嬢ものが増えていってほしいです!
“異世界転生LaLa”が各電子書店で配信中!
電子増刊・異世界転生LaLaでは、悪役令嬢、騎士、転生、聖女といったファンタジー要素を盛り込んだオリジナル作品をラインナップ。今回の特集に登場した「転生悪女の黒歴史」「婚約者は溺愛のふり」「土かぶりのエレナ姫」それぞれの特別編が、異世界転生LaLaVol.1~Vol.3に掲載されている。さらに「姫君は騎士団長」も同誌でリバイバル連載中。
プロフィール
伊織もえ(イオリモエ)
1月24日生まれ。コスプレイヤーとして人気を誇り、各誌の表紙を飾る。2019年には講談社より写真集「ぼくともえ」を刊行、2021年には秋田書店より2冊目の写真集「内緒話」が上梓された。ラジオ番組「伊織もえのCHUCHUチューズデイ ~夜ふかしラジオ~」ではパーソナリティも務める。