LaLa45周年特集第7回「マリッジパープル」「うそカノ」林みかせ|模索と迷走を繰り返しつつマンガの世界に没頭、うれしいときも苦しいときもファンと歩んだ20年

LaLa(白泉社)創刊45周年を記念し、コミックナタリーでは作家へのインタビューや連載作レビューなどの特集を展開している。第7回となる今回は、「うそカノ」「マリッジパープル」の林みかせに登場してもらった。

2001年にデビューし、今年画業20周年を迎える林。インタビューでは、林が「言われるまで20年も経ったことにまったく気付かなかった」というほどマンガに没頭した作家生活を振り返るほか、「地球行進曲」や「きみと秘密の花園」などにまつわるエピソードを語っていく。林の代表作「うそカノ」のすばると入谷の未来図や、最新作「マリッジパープル」の意外なタイトル案など、ファン必見の秘話も飛び出した。

取材・文 / 佐藤希

マンガは楽しくて常に新しい学びがある

──林先生は今年で画業20周年を迎えられました。今の率直なお気持ちをお聞かせください。

LaLa本誌の企画で同期の時計野はりさんと対談したんですが、そのときに言われるまで20年も経ったことにまったく気付きませんでした。年数にこだわりはないのですが、今もマンガを掲載してもらえる場所があり、読んでくださる方がいることがとても幸せです。デビュー前も合わせるとさらに長い間マンガを描いていますが、今もまだ楽しくて、常に新しい学びがあるのでマンガは奥深いなと思います。

「マリッジパープル」イラスト

──この20年間で、最も思い出深いことはなんでしょうか?

最もと言われると難しいですね……。毎回手探りで悩みながら描いているので、読者の方や担当さんに反応をもらえることがマンガを描くモチベーションになっています。うれしいときも苦しいときも、たくさんの方にマンガを読んでもらえて、励まされ支えられているんだと思うとこんな幸せなことはないなと。

──ファンの声援が林先生の支えになっているんですね。

お手紙やSNS、サイン会で直接お会いしたときなどにいただくメッセージが、すべてとてもうれしいです。私はとんでもなく筆不精でして……どんなに好きな作品でも自分は作者の方に感想を伝えることがないので、時間や手間を割いて私の作品に感想を伝えてくださることに感謝してもしきれません。

──たくさんの応援メッセージが寄せられてきたことと思いますが、印象に残っているメッセージや反響はどういうものでしたか?

お手紙に感想と一緒にご自身の最近の出来事などを書いてくださったりする方がいて、そちらを読むのも大好きです。作中でキャラが使っているアイテムを実際に作ってくださったり、作品の感想などをきれいにまとめたアルバムなどいただくこともありました。それも合わせてすべて宝物で、励みになっています。

──ファンの愛情を感じます! 作品について詳しくお話を伺っていく前に、林先生のことをお聞きしたいのですが、マンガ家を志したきっかけはなんだったんでしょうか?

子供の頃から小説やマンガを含めて本を読むことが好きで、なんらかの表現方法で自分の中にある感情を吐露したいと思っていたんです。高校のときに同級生がマンガを描いているのを見て興味を持ち、見よう見まねで描いたのが始まりです。いろいろひどい出来だったと思うのですが、ひたすら楽しくてのめり込んで、マンガ家になろうと(笑)。

──ちなみに、どういうジャンルの作品だったか覚えていらっしゃいますか?

まったく思い出せないのですが、主人公の心情を追いかけるのが好きだったような……気が……します(笑)。初めて担当さんから連絡をもらった投稿作は、主人公の女の子が可視化された赤い糸を引きちぎる……みたいな話でした。

──ぜひ拝読してみたいです! 昔からマンガを読むのがお好きとのことですが、憧れている、もしくは影響を受けた作家はいらっしゃいますか?

成長過程によって好きなジャンルの傾向に偏りがあったりしますが、少女マンガはずっと好きで、その中でも特にのめり込んだ作家さんたちの影響は確実に受けていると思います。白泉社だけでも挙げきれないのですが、望月花梨先生、やまざき貴子先生、猫山宮緒先生に傾倒してました。画面の空気感とモノローグ運びが好きです。

──なるほど。こちらを踏まえて林先生の作品を読み返すとまた違った楽しみ方ができそうですね。今は「マリッジパープル」をLaLaで連載されていますが、現役作家としてLaLaに感じている魅力はどういうところにあるんでしょうか? また作家として今後挑戦したいことはありますか?

LaLaの魅力は懐の広さだと思います。作家としては画力を上げ、知識を広げて、いろいろなジャンルのマンガを自由に表現できるようになりたいです。これからもLaLaに掲載されるようがんばります!

ありえなさ満載で楽しかった「きみと秘密の花園」

「地球行進曲」1巻

──それでは作品について詳しくお話を伺ってまいります。まず先生の初単行本化作品となった「地球行進曲」につきまして。1巻の柱で単行本化について「空の高いところにあった夢が叶いました。諦めないで頑張れば夢って叶うんだなあ…」と書かれていましたが、単行本化までくじけそうになった場面があったんでしょうか?

当時の心境をまったく思い出せないのですが、投稿期間が長かったのでそう書いたのかと……。デビューしてから単行本が出るまでは、担当Tさんのおかげでかなりスムーズなほうだったと思います。

──主人公の柚子が育てる甥・翔のモデルは先生の甥御さんと書かれていましたね。現在はもう大きくなられたと思いますので、「地球行進曲」を読まれたのか気になります。

「地球行進曲」の存在は知っていて、話題に上ったことはありますが、読んだことはないみたいです。すくすく育って、今もとてもかわいいです。

──そうなんですね。いつかご感想を聞いてみたいです。さて、続く「君とひみつの花園」についてですが、主人公の梛晦(なつ)は男勝りな性格が特徴的な女の子でした。活発でスポーツも得意、女子からも大人気で、ヒロインというよりもヒーローのような梛晦ですが、どのようなお考えで生まれたキャラクターだったんでしょうか?

ヒーローの設定ありきで、ヒロインの梛晦が生まれました。梛晦にとっての理想が全部詰まった相手が、女装した男子(藤)だったという設定が描きたいなと。梛晦は捻ったところがないキャラなので、思考がわかりやすく描きやすかったです。余談ですが、この頃は名前を付けるのに強めのこだわりが見えますね……。

──確かに、梛晦という名前は珍しいですよね。“梛晦の理想が詰まった相手”である藤は、女の子にしか見えない美しい見た目と、時折見せる男らしい内面のギャップが素敵でした。実家が歌舞伎の名門で女らしさを学ぶために、全寮制の女子中高一貫校に入学するというキャラクターです。

振り返ると設定がとてもマンガ的ですが、一度は女装男子が描きたいという願望があったので、ありえなさ満載で描いていてとても楽しかったです。全寮制という設定は、私自身がそれに近い環境の学校に通っていたので、いつか描きたいと思っていて。挨拶が「ごきげんよう」でした。

──すごいですね……! 個人的には藤の私服がいつもかわいくて、大好きでした。

服装はキャラの個性が出せる部分でもあるのでがんばってはいるのですが、センスはかなり微妙で……。制服はそのあたりを誤魔化せたり、流行り廃りがあまり出ないので素晴らしいと常々力説してます。

「君とひみつの花園」3巻

──梛晦たちの制服も素敵ですよね。ちなみに「君とひみつの花園」最終回の内容は、担当編集さんの「キスと結婚の間くらいの幸せで」というアドバイスで変わったそうですね。お話しできる範囲で構いませんので、当初林先生が考えられていた内容を伺えますでしょうか?

当時の担当Sさんとの打ち合わせの中で、「キス」や「結婚」という糖度高めな単語が出たのが初めてで意表を突かれたのと、その間の幸せがどんな塩梅かわからなくてコミックスの柱に書いた記憶だけはあります。記憶の引き出しが錆びついてて思い出せないことばかりで申し訳ないのですが、相当地味な結末だったのではないでしょうか……。

──読者の感想を読むと、最終回について「担当さんすごい!」というようなコメントも見られました。

担当さんには助けられてばかりです。地味つながりのお話なのですが、私の描く男子がとにかく地味なので、その担当さんが参考にとアイドルグループの写真集をくださって(笑)。イケメンのハードルが高すぎて参考にはできなかったのですが、今もたまに見返して初心にかえっています。


2021年9月24日更新