リアルすぎる黒歴史に爆笑「転生悪女の黒歴史」
ヤマダ 私は最近ずっと悪役令嬢ものにハマっているんです。どうしてこんなに悪役令嬢のマンガがたくさん出ているんだろうと思って買い始めたら、面白くて止まらなくて。ただ、悪役令嬢ものの中でも「転生悪女の黒歴史」は変わっていますよね。転生先が中学生のときに書いたファンタジー小説、要は自分の黒歴史の中っていう。死亡フラグをへし折るために、前世の自分の中二的な作品を思い返さなきゃいけないつらさよ!(笑)
- 冬夏アキハル「転生悪女の黒歴史」あらすじ
- 佐藤コノハには“黒歴史”がある。中学時代のすべてを懸けて書いたそれは……伯爵令嬢コノハが騎士に愛される、恋と魔法の冒険ファンタジー! しかし月日が経ってそんなことは忘れ、社会人として働いていたコノハは、ある日交通事故で死んでしまう。そして目をさますと、そこは自分の創作した“黒歴史”の世界。しかも伯爵令嬢コノハではなく、その妹であり自分の考えた最強の悪女・イアナに転生していて……。佐藤コノハはイアナとして数々の死亡フラグをへし折るべく奮闘する。LaLa2018年10月号に連載開始。
ひらりさ この作品、すごく売れているみたいですね。テンポがよくて面白かったです。ストーリーの合間で描かれる黒歴史のリアルさがすごい。ゲームの世界とかじゃなくて、素人が考えた妄想の世界に入るからディテールがおかしいんですよね(笑)。
田中 眼帯や包帯に憧れて大げさに手当てして学校に行ったりとか、見た目しか考えてない服だから構造が謎すぎて脱がせられないとか(笑)。作家さんや編集者、作っている人たちが楽しんでいるのが伝わってくる。
ヤマダ 前世で佐藤コノハが描いてるキャラクターの絵のしょぼさもリアルでいいんですよ(笑)。
田中 主人公はその世界を作った神の視点を持つ人間として活躍はするんだけど、小説を書いてから10年たって転生した設定なので自分でも肝心なところを忘れていて。
ひらりさ そんなにチートじゃないんですよね。毎度主人公がめちゃくちゃ大変な目に遭って、しかもかなり物理的な方法で死亡フラグを回避している。第1話から馬に乗って自分で悪者を殴りに行くし(笑)。やっぱりこのヒロインもすごく強いですね。
田中 暗殺者と対等に戦ってますからね。後半になればなるほど小説の設定がずれてこの先どうなるのっていう引きが強くなるので、少なくとも3、4巻くらいまでは一気に読むのがオススメです!
ヤマダ 死亡フラグを折るうちに知っていたストーリーと変わってきてしまったっていうのは悪役令嬢ものでは割とあるんですけど、「転生悪女の黒歴史」の場合は、お話を作ったのは自分だからこの世界の人たちは私が守るんだという意識が目覚めていく。どんどん面白くなっているので続きが楽しみです。昔と違ってあまり男子にときめかなくなった私なんですけど、氷の執事・ソルには大変キュンキュンきました。気が付けば素敵と思っている自分がいます。
やっぱりおもしれー女「この凶愛は天災です」
&名作ラノベのコミカライズ「ミミズクと夜の王」
ひらりさ 「この凶愛は天災です」は中華ファンタジー。久しぶりに中華ファンタジーを手に取ったんですけど、やっぱり題材がすごく面白い。四凶って中国の神話に出てくる悪神らしいんですけど、全然知らなかったです。
- 夢木みつる「この凶愛は天災です」あらすじ
- かつて中の国を蹂躙した四柱の悪神・四凶は、舜帝によってその肉体を岩山に、力を勾玉に封じられた。1000年の眠りから覚め、肉体の自由を得た四凶。封じられた力を取り戻すため、勾玉を宿す少女・猫美(マオメイ)を襲うが……!? 自分に執着する四凶とともに暮らすことになった猫美は、勾玉を守り抜くことができるのか。猫美の受難の日々がはじまる。LaLa2020年4月号で連載開始。
田中 四凶があっという間に揃う展開の早さにもびっくりしました。まだ3巻なので、これからそれぞれのキャラクターが見えていくという感じなのかな。
ひらりさ 始まってすぐにヒロインがキスされるという。猫美(マオメイ)も新鮮な主人公ですよね。無表情で実は一番強い。やっぱりおもしれー女って感じがします。絵もすごくきれいで、絵巻に入るシーンだと水墨画っぽくなったり、表現にも中華ファンタジーの楽しみがたくさんある。
ヤマダ 夢木みつるさんの前作は「砂漠のハレム」という作品で、中東をイメージした王国ファンタジーでした。いろんな舞台をちゃんと描けるっていうのはやっぱりマンガがうまい方なんでしょうね。「この凶愛は天災です」はいわゆる逆ハーレムっぽいお話で、しかも四凶と猫美が一緒に暮らしているから、画面を構成するのがすごく大変だろうなあ。でも私はみんなでご飯食べるシーンが好きですね。
ひらりさ キャラクターで言うと、私は混沌が好きです。自分の気持ちがまだわかってない、冷酷な男って超いいじゃないですか。これからちょっとずつ混沌が自分の本心に気づいてくるところを見たいけど、四凶の残り3人のことももっと知りたい(笑)。
ヤマダ 最後の「ミミズクと夜の王」はちょっとこれまでの4作とは雰囲気が違う作品ですね。この原作ってとっても人気のある小説なんですよね?
- 紅玉いづき原作・鈴木ゆう作画「ミミズクと夜の王」あらすじ
- 額には「332」の焼き印、両手両足には外されることのない鎖。自らをミミズクと名乗る少女は、美しき魔物の王にその身を差し出す。「あたしのこと食べてくれませんかぁ…!?」。死にたがりやのミミズクと、人間嫌いの夜の王。絶望の果てからはじまる、崩壊と再生の物語。LaLa2020年11月号で連載がスタートした。
田中 はい。年季の入ったラノベ読みの方々は、皆さんご存じな作品かと。第13回電撃小説大賞の大賞受賞作として、電撃文庫から2007年に刊行されました。私は当時、書店でラノベの棚を担当していて、アニメやマンガの絵を使わない童話のような表紙に、衝撃を受けたのを覚えています。でも発売からかなり時間がたっているので、逆にこのマンガから小説を知る読者がいるだろうなって。コミカライズが作品に、もう一度命を吹き込んでくれたみたいに思えてすごくうれしかったですね。
──原作に惚れ込んだ入社1年目の編集者が「どうしてもこの話をコミカライズしたい」とKADOKAWAに依頼して、出版社の垣根を超えて実現した企画だそうです。
ひらりさ 私は小説の存在を知ってはいたんですが読んだことがなくて。ちょっと気になっていたアラサーが手に取るのにもコミカライズはちょうどいいですよね。
ヤマダ 児童文学とか童話のようなタッチの作画も好き。夜の王がとても美しく描かれていて。鈴木ゆうさんはこれが初コミックスの新人ということですが、連載中にもどんどんマンガがうまくなってるのを感じます。
田中 1巻のストーリーは、実はまだ伏線に近いんです。その後の展開に必要な人たちがまずは出てきたところ。その登場のさせ方も上手で、小説を思い返しながら楽しく読みました。ストーリーはまだまだこれから盛り上がるので、続きを楽しみにしていてほしいですね。
女の子たち自身が物語を動かす2020年代
──新しい5作を一気に語っていただきましたが、2020年代のLaLa作品に感じたことを教えていただけますか。
ひらりさ 今日はもうずっと言ってるんですけど、女の子が強いのが本当にいいですよね。いろんなパターンの強い女が網羅されて、楽しく励まされて読んでます。強くておもしれー女ばっかだなあって。
田中 彼女たちは基本的に家族とあまり縁がなくて、自分の足で立たなきゃいけない理由があるんですよね。でもそのきっかけがあるからこそ、いろんな人たちと出会う。恋愛だけの話じゃないところも私は安心して読めました。優しい人たちが多いので、素直に物語の先を楽しみにできるなあって。
ヤマダ 昔は女の子があまり強いと読者がついてこれなかったのかもしれなくて。それで男の子が多めの世界がLaLaにはけっこうあったんじゃないかと思うんですけど、今は女の子が物語を動かせる時代になったという変化をすごく感じますよね。5作とも全然違うありようで、自ら動くヒロインたちで。そういう意味ではきっと世の中がよくなったんだなあって思いました。それと、やっぱりLaLaは上品な雑誌だと思うんです。田中さんがおっしゃった優しさとつながるのかもしれないけど、作品の持ってる上品さみたいなものがある。最初に話した「ビューティフルなまんが雑誌」とか、「女子は恋愛だけに生きるにあらず」っていう要素がちゃんと今にも受け継がれていますよね。LaLaのいいところと新しいところを感じる5作でした。
2021年9月24日更新