LaLa45周年特集第4回「リバース×リバース」「ラストゲーム」天乃忍|ひたすらキャラクターの感情を突き詰め、気持ちの変化を描いていく

「男の子の恋心、おいしいおいしい!」

──「ラストゲーム」もちょうど連載開始から10周年を迎えましたが、最初は3回連載の予定だったんですよね。

「ラストゲーム」第1話より。第1話から第3話までで、九条と柳は小学生から大学生へと成長する。

はい。“プライドの高い男の子が女の子に全然相手にされない”みたいなネタだけをずっと前に考えて寝かせていて、LaLaでの3回連載の選考のときに、それを引っ張り出したんだったと思います。1話、2話、3話で年代が変わっていくというアイデアは、「3回連載ならではの構成にしたいですね」と当時の担当さんが考えてくださったものでした。

──そこから人気を集め、全11巻にわたる長期連載になりましたが、当時の読者の方からの反響や感想で印象に残ってるものはありますか?

単行本でも書いたんですが、柳を保護者視点で見守って応援してくださる方がたくさんいらっしゃったのが印象的でした(笑)。普通、少女マンガのヒーローって「キャー! カッコいい!」みたいな感じだと思うんですけど、「柳、がんばったな……!」「よくやったね」みたいな声が多くて、すごく面白くてうれしかったです(笑)。

──私もそういう目線で見ていたので、よくわかります(笑)。「ラストゲーム」完結のときは、ハッピーエンドなのに涙が出るというか、ずっと見守ってきた2人の結ばれる瞬間ってこんなにうれしいものなんだなあと思いました。

「ラストゲーム」の最終巻となる11巻は、通常版と特装版の2形態で刊行された。特装版には、本編最終話に新規エピソードを加えて音声化したドラマCDが付属。柳役は木村良平、九条役は日笠陽子が演じた。

ありがとうございます。最終話はとにかく「多幸感!」って思いながら描いていました。「ラストゲーム」は最後までずっと楽しく描けた作品で、本当に「ありがとう」っていう気持ちです。

──お金持ちでイケメンでプライドの高い男の子が、それを魅力だと感じない女の子に興味を持つ、というのは少女マンガの鉄板だと思うんですが、柳は幼少期に九条に出会って挫折したこともあってか、嫌なところの全然ないキャラクターですよね。

そうですね……何かの小説で、周囲の友人と普通に付き合っているように見えて、自分が苦労せずに恵まれて育ったことに引け目を感じている、というようなキャラクターがいて。「なるほど、そういう感情もあるのか」って印象に残っていたんですよね。柳がちょっと謙虚な性格になったのは、それが出たのかもしれないです。

──「保健室の影山くん」の単行本でも、「私が描くと男の子がみんなヒロインになる」ってコメントを書かれてらっしゃって。それこそが天乃さんの作品の魅力の1つだと思うんですが、男の子キャラの描き方やキャラ作りでこだわっている点はありますか?

私はけっこう男の子キャラにも共感して読む癖があって。女の子視点の恋愛ものでも男の子側の気持ちが知りたくなるし、男の子の恋心を読みたくなるんです。子供の頃は全然男の子キャラに興味がなかったんですが、いつからか「男の子の恋心、おいしいおいしい!」って(笑)。なので、ついつい自分でも男の子の恋心を描いてしまいます。

──では逆に、女の子キャラを描くときに気を付けていることはありますか?

最近気付いたんですが、自分は女の子を主人公にすると、割とタイプが似てしまうんです。自分の理想を詰め込んでしまうというか、明るくて元気でメンタルが強くて一途で、いろんなことに負けないで進んでいく感じの(笑)。

──少女マンガらしいヒロインですね。

そうですね。男の子はちょっとダメなところがあったり、弱点とか欠点とかあるほうが好きなので、男の子がヒロインになりがちなのかなって思ってます(笑)。

読者の皆さんにも、神様視点で雛と楓がわちゃわちゃしてるのを
楽しんでほしい

──最新作の「リバース×リバース」も、最初は雛のほうがドキドキさせられるお話かと思いきや、どんどん楓の心情のほうがめまぐるしくなっていきましたね。女子高ものは前々から描きたいと思っていたそうですが……。

そうですね。“秘密を共有しない女装もの”という、もともとは「ラストゲーム」よりも前に考えていた読み切りのネタなんです。主人公の女の子が、実は男の子だって知らないでミステリアスな同室の女の子にドキドキしちゃう……という感じで考えてたんですけど、女装して女子高に通っていながら、同室の女の子をドキドキさせるような行動を取る男の子って、どういう感情だよ!って思って(笑)。

──(笑)。

「リバース×リバース」より。

そのときは男の子キャラをそれ以上組み立てることができなくて一旦寝かせてたんですが、男の子の視点から、同室の女の子が女装している自分を女の子としてめちゃめちゃ好いてきちゃってどうしよう!みたいな構図にしたら描けそうだなと思いついて描き始めました。

──「リバース×リバース」を描いていて一番楽しいポイントはどこですか?

楓と雛の関係をずっと描いているんですが、楓が双子の弟を装って雛に接したり、雛が楓の正体を知ってからは、1巻の頃とは違う立ち位置で楓に接したりと、いろんな立場やスタンスを描けるのが楽しいですね。あと私、カッコいい男の子を描くのがちょっと苦手なので、楓を男の子なんだけど女の子の姿で描けるっていうのがうれしいです(笑)。

──“楓さん”の美人っぷりを見るのも楽しいです。最新3巻では2人の関係に大きな転機が訪れますが、ここまでで特に印象に残っているエピソードはありますか?

楽しく描けたなって思うのは、3巻の11話ですね。楓が男だってことを雛が知った直後の回で、2人の関係性ががらっと変わったことを楽しい感じで描きたいと思ってて、それがしっかりできたかなと思います。あとは、楓が男装して水族館デートに行く回。女装している設定なのに、さらに男装させられるっていうシチュエーションは絶対に描く!って決めていたので(笑)。勘違いコメディみたいなものが大好きなので、そういう感じはちゃんと出せたかなって思ってます。

「リバース×リバース」第5話より。

──2人の距離が近付くにつれてコミカルなシーンが増えてきた印象があるんですが、ツッコミ的なセリフやモノローグは描きながら自然に出てくるんでしょうか?

そうですね、自然にそうなります(笑)。「リバース×リバース」だと優里の視点が自分に近いかなと思います。「ラストゲーム」もそうでしたが、読者の皆さんにも神様視点で2人がわちゃわちゃしてるのを楽しんでほしい、というスタンスで描いてます。

ひたすらキャラクターの感情を詰めていく

──天乃さんの作品は、明るいラブコメやハッピーエンドの物語でも、そこまでに至る感情の変化を丁寧に描いていらっしゃるからこその感動があると思うんです。

「リバース×リバース」第5話より。

表情や、感情を表現するトーンワークは気を付けているつもりです。言葉だけじゃなくて、絵でも読者さんに感情を伝えられたらいいなと思っています。私の作品はストーリーで動かすというよりは、毎話毎話、キャラクターの感情の変化を軸に構成されているお話なんですよね。なのでネームの打ち合わせでも、ひたすらそのキャラクターの感情について詰めていっています。

──絵でも伝えられたらとおっしゃっていましたが、ご自身の中で理想の絵柄のようなものはありますか?

なんだろう……空気感のある絵を描きたいなっていうのはずっとあります。私、猫山宮緒先生の描かれる画面がすごく好きなんです。光の感じとか、絵だけで手触りや空気が感じられるなって。もちろん絵自体も、もっと今風の絵になりたいなとか、うまくなりたいなとか思うんですけど、そことはまたちょっと違うベクトルで、そういう手触りや空気感を出せる絵というか、画面を目指したいなってずっと思っています。

──逆に、マンガを描くうえで意識していることが、昔と変わった部分は何かありますか?

やっぱり、娯楽作品を描き続けていきたいなって気持ちが昔よりもありますね。あとは、読者さんに楽しんでもらいたい、という気持ちがとても大きくなったと思います。

──それはやっぱり読者さんからの感想を受けて変わっていったんでしょうか。

「ラストゲーム」より。

そうですね。「読んでいて元気になります」とかってお便りをいただけると「描いてよかったな」って気持ちになりますし。ちょっとへこんだときに読んで笑顔になれるとか、そういうふうに生活に寄り添える、ちょっと気持ちを明るくできる感じのお話を、これからも描いていきたいなあって思っています。

──では、最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。

作品を読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。なんだかんだと諦めずにマンガを描き続けてこられたのは、読んでくださる方々や、感想を伝えてくださる方々がいたからだなって本当に思うので、とにかくお礼を言いたいです。これからも楽しんでいただける作品を描き続けられるようがんばります!


2021年9月24日更新