ナタリー PowerPush - 今日マチ子「みかこさん」「みかこさん」
4巻を数え切なさを増すティーンズライフ 作品とともに進化し続ける作者の歩みを追う
自分でも何かちょっと違うと思いながら描いてましたね
──ようやく話がつながりました(笑)。そのときにはもう「センネン画報」はスタートしていたんですね。
ええ。それで「センネン画報」的な1Pマンガをやりたい、普通のマンガが小説なら私のやりたいマンガは俳句なんです、などと言ったら、さっき話したように完全にスルーされて。たぶんご本人はもう忘れてると思うんですけど!
──でも、ちゃんと模写して持っていくという、めげずに偉かったですね。
しんどかったです……。ほぼ週1とかで、月に何度も編集部に行って。ネームを見せてはダメ出しされて、次の週には別のものを持って行ってと、ずいぶんやっていた気がします。枠線は定規を使ってください、とか言われて、ちゃんとつけペンで描いていましたね。
──作品として形になったものはあったんですか?
ありました。16Pとか24Pとか、読み切りを。でも全然ダメで、ちば賞に出しても引っかからなくて、アフタヌーンの四季賞にも出して全然上に行けなくて。自分でも何かちょっと違うと思いながら描いていました……。現在では封印していますね。そのマンガ。
──けっこうしんどいシーズンでしたね。
もう私もやる気をなくして、なんで私はモーニングに紹介されたんだろう、そもそもマンガ家に向いてないんじゃないかぐらいの感じになるくらいには行き詰まっていましたね。そこで佐渡島さんがたまたまアシスタントの口を見つけてきてくれて。
──それで「Ns'あおい」の、こしのりょう先生のところに。またずいぶん作風の違う方ですが……。
作風は被りませんけど、先生の人柄の良さというか、お優しい方でほんとによかったです。でも、スタンダードなマンガ原稿を見たのはそれが初めてだったので、私が作業したのを見てさすがに先生も呆れてましたね。
──どんなところが?
マンガの基本的なルールがわかっていませんでした。窓が、こう2枚の引き戸の窓ならちゃんと開くように描かなければいけないんですけど、私、ただ四角をふたつ描いて「窓です」となっていたので。しかもフリーハンドで(笑)。絵画の世界だと「これは窓です」って言えば窓ってことになるんですけど、マンガのルールだといわゆる現実をちゃんと描かないとダメなんだ、っていうのがわかりましたね。
──すごい問題児がやってきましたね(笑)。トーンとかも貼ってたんですか。
貼りましたね、トーン。削り方も教えてもらったりして。でも、1日に1コマとか2コマとかしかできなくて大変でした……。筆ペンで髪の毛を描く練習もしたんですけど、それはあまりに下手すぎて速攻で取り上げられて、すぐチーフの人に戻っちゃいました。
“私の考える少女マンガ”みたいな変なのを、りぼんにも送った
──結構凹むというか、家帰って泣くみたいな。
いやー、どうなんでしょう、できない割りにはのんびりしていましたね。よく考えると私は大学出てすでに25くらいになっていて、教えてくれるスタッフはみんな年下だったりするので変な感じなんですけど(笑)、職場としてすごいいい雰囲気だったりして、むしろほっこりした気持ちで毎日行っていました。とはいえ、実家暮らしだったので、親からの目線のほうがちょっと痛かった。
──芸大まで出といてアンタ、みたいな。それがどのくらいの期間ですか。
アシスタントは半年ですね、ちょうど半年。最後のほうは忙しくなって週1くらいしか入れなくなっちゃって、辞めようかな、と。フジテレビのサイトの連載「七夕委員」に加えて、「ミドリさん」の仕事も始まったので。
──仕事はどんどん入りながらも、一方で新人賞は通らないっていう。
不思議なバランスの時期でしたね。認めてはもらえないけど、描きながら上手くなれればいいかなって思っていました。まあ、今から見ると全然お話の作り方がなってないというか、いまならちゃんと起承転結というか、ここが盛り上がりどころとか、ここはキャラクターで作るとか、そういうのがあるんですけど、当時は完全にひとネタで引っ張っていました。
──ひとネタ?
これを描きたいって1ページだけは決まっていて、残りの31ページはひたすらダラダラ埋めてるだけ、みたいな感じです。たまに、モーニングを紹介されなかったらどうしてたかな、みたいなことを考えるんですけど、たぶん絵は上手くなっていたとは思うんですけど、商業ベースにはならないアングラ作家的な立ち位置でたぶん満足していたんじゃないかな。というか、そういうものにしかなれないと完全に思っていました(笑)。
──講談社以外に持ち込みしたりはしましたか。
アックス(青林工藝社)にも送っていたんですけど、アックスの新人賞にも引っかからなくて、近藤聡乃ちゃんは18歳で賞に入っているのに、私ぜんぜんダメだなーとか、いろいろ思いました。
──アックスのほかには?
アフタヌーンはさっき言いましたっけ。あとエロティクス・エフも実は1回送ってる気がします。あとりぼんにも送った気がします。もうなんか、どこに送ればいいのかもわからず、とりあえず思いついたところに送っていました。
──りぼんは意外でした。どんな作品を送ったんですか。
“私の考える少女マンガ”みたいなものだったかと。たぶんものすごいガロっぽい感じのマンガだったと思います。黒歴史すぎて、これもお蔵入りですね。
あらすじ
市村みかこ、17歳。高校3年生。席替えで隣に座った緑川はいまどき赤えんぴつを使う変な奴。親友のナオはおしゃべりな女の子。そして、みかこに好意を寄せるカトーくん。
穏やかに終わるはずだった高校生活は、4人の関係の変化とともに徐々にその色を変えていく。みかこ、緑川、ナオ、カトーくん。4人の青春が、もつれて絡まって。
今日マチ子(きょうまちこ)
漫画家。東京都出身。ほぼ毎日更新しているブログ・今日マチ子のセンネン画報が太田出版より書籍化され注目を浴びる。無類の猫&カメラ好き。
著書に「みかこさん」1~4巻(講談社)、「cocoon」(秋田書店)、「センネン画報」「センネン画報 その2」(太田出版)、「かことみらい」(祥伝社)など。
連載は、マンガ・エロティクス・エフ(太田出版)掲載の「U」、エレガンスイブ(秋田書店)掲載の「アノネ、」、ジャンプ改(集英社)掲載の「みつあみの神様」(ジャンプⅩ)など。ブログ・今日マチ子のセンネン画報もほぼ毎日更新中。