ナタリー PowerPush - 今日マチ子「みかこさん」「みかこさん」
4巻を数え切なさを増すティーンズライフ 作品とともに進化し続ける作者の歩みを追う
黄ばんだ名作マンガが、全クラスを巡回するんです
──デビュー前のことはマンガ・エロティクス・エフvol.66(太田出版)のロングインタビューに美大予備校の話とかかなり詳しく載っていて、ファンとしては必読なのですが。あれはなんて予備校ですか。
御茶ノ水美術予備校ですね。仲の良い同級生に近藤聡乃(アーティスト、マンガ家。代表作に「はこにわ虫」など)ちゃんがいて、当時からもう天才って感じで、今も変わらないですね。高1のときにはもう高2と一緒に授業を受けていて、コンクールでも高2の人より高い順位だったりしました。
──一方で高校には、ロケット・オア・チリトリ名義でミュージシャンとして活動している柴原聡子さんがいて。
はい。マンドリンギター部、略してマンギというのですが、それの先輩です。
──そういったアーティスティックな環境の中で、どんなマンガを読んだり描いたりしていたんですか。
それがあんまり、語るべきものがないんですよ。クラスで回ってくるマンガを読む。自分ではほんと、年に1、2冊買うかどうかという、そういう感じでした。
──どんなマンガが回ってくるんですか。
いわゆる名作マンガです。「ガラスの仮面」とか「アラベスク」とか「日出処の天子」とか。恐らくあれは、先輩とか同級生のお姉さんとかから脈々と受け継がれているものだと思うんですが、すごく黄ばんで古くなった本が回ってくるんです。それが全クラスを巡回して……。
──名作ばかりじゃないですか。他にはどんなのがありました?
「キャンディキャンディ」もありましたね。あと「CIPHER」が回ってきたのは衝撃だったのと、「BANANA FISH」が異常に流行って、みんな頭がおかしくなっていました(笑)。「ハッピーマニア」も当時大人気で……そういうものの間に挟まって、なぜかしりあがり寿さんの「ヒゲのOL」も回ってくるという環境でしたね。あと、くらもちふさこ先生の「いつもポケットにショパン」が回ってきてすごくよかったので、自分でもくらもち先生の作品を何冊か買いました。
──あれですか、好きなマンガ家さんの模写をするみたいなのは……。
全然ないですね。美大予備校のほうで、近藤聡乃ちゃんたちと一緒にみんなで佐伯俊男さんにハマって、当時みんなそれっぽい画風にはなりましたけど(笑)。あと丸尾末広先生とか。とりあえず美術のほうの子はみんな通る道なんです。病気のように好きになるっていう。ただ、絵を描くのは好きでしたね。
──今日さんは何になりたかったんですか。
ただひたすら、現代美術の作家的な何かになるんだろうという気持ちで頑張っていました。何も考えていなかった、と言う方が正しいと思いますが(笑)。
必ず男女ペアでキャラクターを配置するのは、ずっと同じ
──そんな中で、通学時間に描いた友達の間での回し読み用マンガという、のちの活動の原型になる1枚が登場します。これ、よく取ってありましたね。
なんでしょう、引っ越しのときにスケッチブックとかかなり捨てましたけど、もし万が一、後世に今日マチ子美術館ができたとしたら、これは必要かなと思って(笑)。
──や、人生初のコマ割りですから、マチ子美術館の学芸員にとっては落とせない資料ですよ。これがなかなか興味深いのは、ひとつには落書きというよりネームっぽいということ。そしてコマ割りが恐ろしいことに「センネン画報」と似ている。
似ていますね。あと必ず男女ペアでキャラクターを配置するっていうのは、この頃から変わらないですね。
──ほんとだ。丸いほうが男の子ですね。これは美術予備校で回す用?
学校と美術予備校のどちちでも見せていました。ここから「センネン画報」を始めるまでにはかなりブランクがあるんですけど、改めて考えると核の部分は変わらなかったのかな、という印象ですね。
──そのあとを駆け足で辿ると、芸大に進まれて、セツにも通われて。一方で通学時間に手書きのミニコミ新聞「Juicy Fruits」を200号まで描いては出し、卒業されたのち、進学レーダー(みくに出版)の編集部に勤める、と。
アルバイトですね。エクセルに数字入れたりとかしていました。他媒体でもちょっとだけライターをやらせてもらいました。田中美保ちゃんのインタビューに年が近いってだけの理由で抜擢されたり(笑)、せっかくのチャンスに何か他愛もない話を聞いてしまった気がします。
──その頃はもうマンガやイラストのお仕事も……。
進学レーダーの編集部からお仕事をもらったり、マガジンハウスのMUTTSやRelaxで描かせてもらったり、他にもちょこちょこライターとイラストレーターを兼業していたように思います。
──さてそこで、さきほど伺ったモーニング編集部に持ち込みをする話になるのですが、これはどういった経緯で。
人づてですね。進学レーダーの編集長が、「あなたマンガ描けるんだったら編集者に見せた方がいい」というので幻冬舎の穂原さんという方を紹介してくださったんです。けどその方はマンガの編集者じゃないのと、幻冬舎のマンガ部門ではちょっと毛色が違うだろうというので、今度は穂原さんに知り合いだったモーニング編集部の佐渡島さんを紹介していただいて。
あらすじ
市村みかこ、17歳。高校3年生。席替えで隣に座った緑川はいまどき赤えんぴつを使う変な奴。親友のナオはおしゃべりな女の子。そして、みかこに好意を寄せるカトーくん。
穏やかに終わるはずだった高校生活は、4人の関係の変化とともに徐々にその色を変えていく。みかこ、緑川、ナオ、カトーくん。4人の青春が、もつれて絡まって。
今日マチ子(きょうまちこ)
漫画家。東京都出身。ほぼ毎日更新しているブログ・今日マチ子のセンネン画報が太田出版より書籍化され注目を浴びる。無類の猫&カメラ好き。
著書に「みかこさん」1~4巻(講談社)、「cocoon」(秋田書店)、「センネン画報」「センネン画報 その2」(太田出版)、「かことみらい」(祥伝社)など。
連載は、マンガ・エロティクス・エフ(太田出版)掲載の「U」、エレガンスイブ(秋田書店)掲載の「アノネ、」、ジャンプ改(集英社)掲載の「みつあみの神様」など。ブログ・今日マチ子のセンネン画報もほぼ毎日更新中。