ナタリー PowerPush - 今日マチ子「みかこさん」「みかこさん」
4巻を数え切なさを増すティーンズライフ 作品とともに進化し続ける作者の歩みを追う
モーニング(講談社)のウェブサイトで連載中の今日マチ子「みかこさん」が4巻を数え、独特の輝きを放っている。オールカラー4ページの週刊連載は、1ページマンガで頭角を現した今日にとって、初めて挑戦する長い道のりだ。
コミックナタリーでは多数の連載を抱え多忙の今日をキャッチし、「みかこさん」を軸に独自のマンガ論を聞いた。話が進むにつれ明らかになってきた彼女の特性、そしてモーニングという媒体との意外に因縁めいた関係とは。
撮影・取材・文/唐木 元
キャラに反応してくれるのがうれしくて
──「みかこさん」4巻の発売、おめでとうございます。連載が130話を超えるというのは、今日さんの作家人生にとっても未体験ゾーンでは。
「センネン画報」(今日のブログで続けられている1Pマンガ。通し番号は1800に届こうかとしている)があるにはありますが、あれは毎回ひとつのお話みたいなものですから、はっきりした登場人物がいるものでは初めてですね。気づくとそんなにやっていたんだ、という感じです。
──ひとつのお話と長く付き合ってみて、見えてきたものはありますか。
自分なりに成長がわかるのが面白いですね。それと、キャラクターが自分の想像を超えてイキイキと動き出してくるところや、読者の反応が変わった印象を受けたのも新鮮でした。反応がすごく良くなったというか。
──良くなったっていうのは。
いままでは「面白かったです」とか「雰囲気が素敵」とか作品全体に対しての反応がほとんどだったんですけど、twitterのリプライを見ていると。
──あ、ご覧になってるんですね。
見てますよ(笑)。すると「カトーくん嫌い!」とか「ほんとは緑川が好きなのになんで!」とか、そういうキャラクターに対する反射的な、ダイレクトな感想が多くなったのは読んでいてもうれしいですね。
──やっぱりみかこと緑川、という主人公ペアに加えて、カトーくんとナオちゃんが出てきてから、マンガ自体が変質してきた気がします。
あのあたりからですよね。「ナオちゃんが不憫!」とか「実は私カトーくんみたいな男の人に弱いんです」とか、「緑川のこと好きになってしまったかも」って人もいて(笑)。こういう誰と誰がくっついて、みたいな生々しい作品は初めてですから、皆さんがキャラについて話してくれるのを驚きとともに見ています。
──それは自分の作品っぽくないなあ、といった違和感も込みで?
いや、やっぱりマンガを描いている以上は読んだ人に喜んでもらいたい、反応してもらいたいという気持ちが絶対あるので、「カトーくん死ね」でも何でも、お話にレスポンスがあるのはすごくうれしいです。作家としての自分が褒められるとか絵がどうとか、そういうのとは別の次元で、ものすごくうれしいですね。
モーニングだから現実に即したリアルな世界だろうと
──「みかこさん」で生じた変化が、他の作品にもフィードバックされたりするんでしょうか。
うーん、「みかこさん」の形式に対しては(ドラマが展開する現状が)すごく合っていると思いますけど、ただこれを「センネン画報」とかでやると、ものすごくベタベタな感じになってしまう気もします。「みかこさん」は程よいバランスだな、とは思います。
──程よさの原因はどのあたりに?
週刊連載ならではの形式は意識していますね。毎回ヒキを入れるとか、前回振った話は回収するように、とか。あと掲載がモーニングのサイトなので、私の中で勝手なルールみたいのはあります。現実に即したリアルな世界の出来事っていう風に限定しているので。
──現実に即した世界というのはどういうことですか。
「センネン画報」とかだと、恋をし始めると水中でブクブク回ったりとか、わかりやすいところで言うと少女マンガのように後ろに花を背負ったりといった演出が出ることもあるんですが。
──ああー、なるほど。
「みかこさん」はそういったことが一切ないんです。例えばリップバームを手に取ってそれを眺める、という現実に即した描写で感情を表現していかなきゃいけないっていう自分の中のルールがあるので。それが逆に、甘い恋愛の話とうまくバランスを取っている部分もあると思います。
──それは編集サイドからの要望だったりするんですか。
私の中で勝手に「やっちゃいけない」「男性誌だからそんなことをしてはいけない」と、すごく思い込んで始めたのが定着してしまった感じですね。
──モーニングなんだから、って。
ええ、最初から歯止めのようなものが自分の中にあったんだと思うんです。だからあくまで現実世界のことで表現するように。たとえば恋心が壊れてしまったときも、ハートマークを描いたりするんじゃなくて、ポケットに入れてたクッキーが割れてしまっていたとか、状況に流されてしまうシーンでは、川面をボールが流されていくとか、そういう表現にしています。
──モチーフに託すような演出ですね。
「センネン画報」で物に語らせるという表現をしてきたので、それをもう少し、もっと多くの人に訴えられるような表現にしたいなと。「センネン画報」だとデザイン的表現の実験として描いていることも多いんですけど、ただ綺麗さとかだけではなく、キャラクターの気持ちが前に出てくるように描いています。「みかこさん」のリップバームの回もそうだし、砂時計の回とか、あのあたりで1回目のステップアップというか、モチーフとキャラクターを重ねる表現ができた気がしますね。
あらすじ
市村みかこ、17歳。高校3年生。席替えで隣に座った緑川はいまどき赤えんぴつを使う変な奴。親友のナオはおしゃべりな女の子。そして、みかこに好意を寄せるカトーくん。
穏やかに終わるはずだった高校生活は、4人の関係の変化とともに徐々にその色を変えていく。みかこ、緑川、ナオ、カトーくん。4人の青春が、もつれて絡まって。
今日マチ子(きょうまちこ)
漫画家。東京都出身。ほぼ毎日更新しているブログ・今日マチ子のセンネン画報が太田出版より書籍化され注目を浴びる。無類の猫&カメラ好き。
著書に「みかこさん」1~4巻(講談社)、「cocoon」(秋田書店)、「センネン画報」「センネン画報 その2」(太田出版)、「かことみらい」(祥伝社)など。
連載は、マンガ・エロティクス・エフ(太田出版)掲載の「U」、エレガンスイブ(秋田書店)掲載の「アノネ、」、ジャンプ改(集英社)掲載の「みつあみの神様」など。ブログ・今日マチ子のセンネン画報もほぼ毎日更新中。