映画「黒執事」

小野大輔が語る水嶋セバスチャン

舞台設定を変えたことで違和感が生じなくなる

小野大輔

──映画の舞台は原作の19世紀イギリスではなく、近未来の西洋と東洋の文化が入り乱れた大都市という設定になっています。

そうなんですよね。もしかしたら原作ファンの方は「え、なんでそうなったの?」と思うかもしれない。もちろん僕も映画を見るまでは「どんな風になるんだろう」と、全くわからなかったんですね。でも見てみたら、全然無理がないんです。

──舞台設定を変えたことで、いい効果が生み出されていると。

ええ。原作の設定をそのまま落とし込むと違和感が生じる部分を、ちゃんと実写で表現するためにアレンジを加えているんだなと思いました。キャラクターの関係性もまた然りで。原作を読んでいる方は、映画を3分の1くらい見たら、大体犯人が分かるんです(笑)。

──ええ(笑)。

僕、それはあえてだと思いますし、さらに言うと原作ファンの方へのサービスだと感じたんです。「ああ、ちゃんと原作をリスペクトして取り込んだ上での実写版を作ってるんだな」って改めて思ったんですよね。

──映画には、原作と全く同じキャラクターはセバスチャンしか出てこないですね。

そうなんです。だから原作を無視してるのかなって思いがちじゃないですか。それは逆なんですよね。ちゃんと原作のキャラクターがベースになった上で映画が作られたんだなって、すごく感じます。しっかり原作を読んだうえで、どうやったら実写化できるんだろうって考えたんでしょうね。幻蜂=ファントムハイヴも直訳ではあるんですが、そういう突っ込みどころってすごいファンサービスだと思うんです。

安田顕演じる鴇沢一三。

──キャスティングはいかがですか。

お見事ですね。「水曜どうでしょう」ファンとしては、ヤスケンさん(安田顕)がいらっしゃるところにグッときます。渋い役どころでしたね。あと剛力彩芽さんも、男装しているという設定が無理なく活きていてよかったですね。すごく荒唐無稽な設定の作品なのに。

──荒唐無稽(笑)。

いや、「黒執事」ってぶっちゃけそうだと思うんですよ。枢先生には後で謝っておきます(笑)。でも設定としては常軌を逸してるじゃないですか。そんな中でこの実写版においてはちゃんとリアリティがある。この剛力さん演じる清玄の存在感に違和感がないところは、僕がアニメや原作を意識せずにドラマとして見れたひとつの要因かもしれないです。

アニメと全く同じセリフは一個もない

──映画でセバスチャンは「あくまで執事ですから」「これくらいのことができなくてどうします」など、原作と同じセリフを言ったりするシーンがありますが、同じセリフをアニメで演じられた小野さんとしてはいかがでしたか?

実は全くそこに引っかからなかったんです。アニメと全く一緒の言いまわしはなかったと思うんです。

──え、一個も!?

小野大輔

確か「あくまで執事でございます」とはおっしゃってました。アニメだと原作の「あくまで執事ですから」と言っています。この決まり文句を、そのまま言ってるシーンは映画版ではなかったと思います。語尾が違ってたりとか。

──確かに原作やアニメでは「イエス、マイロード」と言っていましたが、それは映画では言ってなかったような。

「イエス、マイロード」もなかったですね。あと「御意」のイントネーションも違いました。水嶋さんはアニメを見てると思うんですよ。でもあえてアニメを完全に踏襲せずに、この実写版の「黒執事」をしっかり表現するということに注力されたんだと思うんです。僕が表現したものをそのまま水嶋さんがやったら、それはどちらでもないものになってしまう。

──それはまさに小野さんならではの視点ですね。

言い回しをトレースしていないことに感動しました。この映画は、アニメや原作を全てそのままトレースしようとはしていないわけです。「黒執事」を実写で表現するために皆さんが尽力されている。その結果だと思うんです。だから言い回しも舞台設定も違うのに、紛うことなき「黒執事」でした。そういえば髪型もですね。

やろうと思えばストレートヘアにできるのに

──セバスチャンは黒髪ストレートですが、水嶋さんのセバスチャンはくせ毛ですね。

水嶋ヒロ演じるセバスチャン。

そうなんです。これもあえてだと思います。原作のセバスチャンはストレートなのは誰でもわかります。やろうと思えばストレートには出来るでしょう。でも考えたうえで意図的にしてないんですね、きっと。そこには実写化しようとする人たちの意思をものすごく感じます。セバスチャンの衣装も、ナポレオンジャケットみたいな感じで全然違います。

──近未来風を意識してデザインしたと水嶋さんがおっしゃっていました。

燕尾服って伝統のもの、何世紀も前から変わっていないもの。でもあえて変えてきてる。そこにはちゃんと意図があるはずです。似せようと思えばいくらでもできるわけですから。

映画「黒執事」2014年1月18日(土)新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー

映画「黒執事」

執事の名はセバスチャン。知識と実力、品格と容姿を兼ね備え、非の打ち所があるとすれば性格の悪さだけという、万能にして忠実な執事。仕える主人は、巨大企業の若き総帥にして、幻蜂(げんぽう)家当主、幻蜂清玄(きよはる)伯爵。実は女であることを隠して生きる男装の令嬢で、その過去に壮絶な傷を抱えていた。2人をつなぐもの、それは命と引き換えの絶対的な主従関係。
そんなただならぬ関係の2人だが、実は東西で対立する分断された世界で、世界統一を目指す西側諸国女王の諜報員、「女王の番犬」という裏の顔を持つ。ある日、東側諸国で起きている、大使館員の“連続ミイラ化怪死事件”の解決という密命が下された。現場に残されたのはタロットカード。時同じくして、街から少女たちが失踪する出来事が起きていた。世界を巻き込む事件の黒幕の目的とは、そして事件の犯人は……!?

出演:水嶋ヒロ、剛力彩芽、優香、山本美月、大野拓朗、栗原類、海東健、ホラン千秋、丸山智己、城田優、安田顕、橋本さとし、志垣太郎、伊武雅刀、岸谷五朗

原作:枢やな(スクウェア・エニックス「月刊Gファンタジー」連載)
主題歌:ガブリエル・アプリン「Through the ages」(ワーナーミュージック・ジャパン)
監督:大谷健太郎、さとうけいいち
脚本:黒岩勉

(c)2014 枢やな/スクウェアエニックス
(c)2014 映画「黒執事」製作委員会

小野大輔(おのだいすけ)

1978年5月4日生まれ。高知県出身。主な出演作は、TVアニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」(古代進役)、「進撃の巨人」(エルヴィン・スミス役)、海外ドラマ「glee/グリー」(フィン・ハドソン役の吹き替え)など。2014年4月から放送予定のTVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」にも空条承太郎役として出演。高知県観光特使にも任命されている。


2014年1月17日更新