コミックナタリー Power Push - 「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」

“映画化するならこういう話“と描いた後日譚

「すぐれた眼を持つキャラはカッコいい」

──最初から倒し方がわかっているわけではないからこそ、試合シーンでの緊迫感が生まれるというわけですね。自分がずっと描いてきた主人公たちが手ひどくやられてるシーンを描いているときは、つらくないですか?

あんまりつらくないですね。なぜかというと、そういうシーンを描いているときの僕は、敵の立場になっているので。だから、「どうだ、こういう戦術は」とか「こうされたら勝てないだろう」という気持ちなんですよ。それを描き終わってから味方の立場に戻るんです。敵をどうやって追い詰めるかを考えるのも、結構楽しいですね(笑)。

──そうだったんですね(笑)。それにしても、Jabberwockリーダーであるナッシュ・ゴールド・Jr.の、コート全員の未来を見通す「魔王の眼(ベリアルアイ)」には恐れおののきました。

「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」よりナッシュ・ゴールド・Jr。コート全員の未来を見通す「魔王の眼(ベリアルアイ)」を持つ。

もともと本編のときから、「◯◯・アイ」という能力はよく登場させていたんですよね。「天帝の眼(エンペラーアイ)」はもちろん、「鷹の目(ホークアイ)」とか「鷲の目(イーグルアイ)」とか。なんとなく自分の中に、「すぐれた眼を持つキャラクターはカッコいい」というのがあるんです。なので今回も、“キセキ”の5人が束になっても勝てない「眼」ってどんなだろう……というのを考えた結果、ああなりました。

──能力も禍々しいんですけど、とにかく全員嫌な奴だというのも、ストーリーの緊迫感を増幅させていますよね。本編のときに出てきた花宮や灰崎は、嫌な奴なりにバスケを愛しているところも描かれていていましたが。

ジャンプ コミックス「黒子のバスケ EXTRA GAME」より。Jabberwockとの対戦前夜、ナッシュやシルバーと対面するVORPAL SWORDS。

今回の敵、とくにナッシュ・ゴールド・Jr.とジェイソン・シルバーの2人についてはとにかく「嫌ってほしい」と思って考えたキャラクターですね。嫌なしゃべり方とか非道な感じとか、自分が嫌いだなと思う要素をとことん詰め込みました(笑)。本編で出てくるライバルは、嫌な奴であっても読者の方とも長い付き合いになるので、ある程度好きになってもらえるようにということも考えるんです。今回は人気よりも「強そうで悪い奴」にすることを優先できたので、むしろキャラクターを作りやすかったかもしれない。

描けば描くほどキャラクターたちの新しい一面が見えてくる

──「金」や「銀」がつく名前のキャラは、本編で出すつもりはなかったんですか?

「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」より。手前のジェイソン・シルバーは速さ、力、しなやかさを怪物級に兼ね備えた「神に選ばれた躰」を持つと言われる。

そうですね。金や銀ってあまりにも特別な色じゃないですか。本編で出しちゃったら赤や緑がかすんでしまうので……(笑)。でも、1試合限りの特別なキャラクターだったらいいんじゃないかなと思って、「EXTRA GAME」で使ったわけです。

──Jabberwockというチーム名には由来があるんでしょうか?

これは「鏡の国のアリス」に出てくる怪物の名前なんですよね。濁音のついた悪そうな名前がいいなと思っていろいろ探しているうちに、この単語に行き着きました。そのうえで、Jabberwockを討伐する剣として「鏡の国のアリス」に出てくる「Vorpal Sword(ヴォーパルソード)」というのを見つけて、それを黒子たちのチーム名に採用して「VORPAL SWORDS」としたんです。

ジャンプ コミックス「黒子のバスケ EXTRA GAME」より。ナッシュにバスケに対する自分の考えを伝えた黒子は蹴りを入れられてしまう。

──高校では別々のユニフォームに身を包んでいた“キセキ”たちが、ふたたび同じユニフォームでコートに立っている姿には、それだけで熱いものを感じました。まさか、彼らが乱闘に巻き込まれるとまでは思ってなかったですけど(笑)。

本編ではなかなかできないことを描いているときってすごく楽しくて、乱闘シーンはノリノリでしたね。あそこで黒子を助けることでみんなが一致団結するので、物語が進んでいくうえで大事なシーンでもあります。

──ああいうときに最初に乗り込むのが黒子なのは、ある意味すごく「らしい」なと思いました。「EXTRA GAME」を描いたことで、「このキャラってこんな一面を持ってたんだな」と感じた瞬間はありましたか?

結構、全員についてそう思いましたね。

──全員ですか。

「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」より赤司征十郎。

本編を描いているときからそうだったんですけど、どんな話を描くときでも、これまでに見たことないシーンや今までに描いたことのないキャラの一面を出せるようにというのは常に心がけているんです。「EXTRA GAME」は本編最終回から少し経ってからの物語なので「きっとみんな成長してるんだろうな」と漠然とは思っていたんですけど、いざ描いてみたら、「へえ、こいつこういうこと言うのか」と感じる瞬間が多くて、自分としても新鮮でしたね。

──黒子たちの新たな一面を描きたい気持ちは、まだまだあるのですか?

あります。彼らを描くたびに「こいつこんな性格だったの?」というのが増えていくわけなので、「じゃあこういうことが起きたらどうだろう」というのを知りたい思いもどんどん出てくるんですよね。描けば描くほど「もっと描きたい」と思います。

──「実はこのキャラを主人公にしたら面白いかも?」というのはありますか? 

「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」より黄瀬涼太。 「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」より紫原敦。

結局誰を主人公にしてもその人なりのドラマがあるので。「みんな描いてみたい」と思います。黄瀬から見た話や紫原から見た話なんかも、漠然とイメージはあるので、形にしたら面白そうですよね。

──全員分読んでみたいです……!

「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」2017年3月18日(土)ロードショー
「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」
誠凛高校バスケ部に入部した黒子テツヤと火神大我。抜群のセンスを持つ火神に対し、黒子は誰もが驚くほど影が薄い存在だった。だが、黒子は強豪・帝光中学で「キセキの世代」と呼ばれた5人の天才と共に戦う“幻の6人目(シックスマン)”として活躍していた。“影”と“光”の名コンビとなった2人が主戦力となり、誠凛バスケ部はウインターカップ出場を果たす。そして「キセキの世代」との激戦の末、ついに全国制覇を成し遂げた。 黒子たちは2年生となり、夏が終わるころ、アメリカから注目のストリートバスケットボールチーム「Jabberwock(ジャバウォック)」が来日した。しかし親善試合で彼らが見せたのは、圧倒的な実力で日本チームをねじ伏せ、日本のバスケを嘲笑う姿だった。その態度に激怒したリコの父・景虎は黒子と火神、そして「キセキの世代」を集め、Jabberwockにリベンジマッチを宣言する! 今回限りの最強ドリームチーム「VORPAL SWORDS(ヴォーパル・ソーズ)」、ここに集結!!
スタッフ
  • 原作:藤巻忠俊(集英社 ジャンプ コミックス刊)
  • 監督:多田俊介
  • 脚本:高木登
  • キャラクターデザイン:菊地洋子
  • 総作画監督:後藤隆幸、菊地洋子
  • 美術監督:鈴木路恵
  • 色彩設計:竹田由香
  • 撮影監督:荒井栄児
  • CGIディレクター:磯部兼士
  • 編集:植松淳一
  • 音響監督:三間雅文
  • 音楽:池頼広
  • 主題歌「Glorious days」GRANRODEO
  • アニメーション制作:プロダクションI.G
    キャスト
  • 黒子テツヤ:小野賢章
  • 火神大我:小野友樹
  • 赤司征十郎:神谷浩史
  • 青峰大輝:諏訪部順一
  • 緑間真太郎:小野大輔
  • 黄瀬涼太:木村良平
  • 紫原敦:鈴村健一
  • ナッシュ・ゴールド・Jr.:緑川光
  • ジェイソン・シルバー:稲田徹
藤巻忠俊(フジマキタダトシ)
藤巻忠俊©藤巻忠俊/集英社

東京都出身。2006年に投稿作「黒子のバスケ」が第36回ジャンプ十二傑新人漫画賞を受賞し、2007年に同作が赤マルジャンプ 2007SPRING(集英社)に掲載されデビュー。「黒子のバスケ」はその後、2009年から2014年まで週刊少年ジャンプ(集英社)にて連載され、テレビアニメ化や小説化、舞台化、ゲーム化などさまざまなメディアミックス展開が行われるヒット作となる。2014年から2016年にかけて、「黒子のバスケ」の後日譚にあたる「黒子のバスケ EXTRA GAME」を少年ジャンプNEXT!!(集英社)にて連載。「黒子のバスケ EXTRA GAME」を原作とした「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」が3月18日より公開されるとともに、同日発売の週刊少年ジャンプ16号より新連載「ROBOT×LASERBEAM」をスタートさせる。