「クジラの子らは砂上に歌う」|梅田阿比×横手美智子 上質なハイファンタジーを“逃げずに真正面から”アニメ化 原作者と脚本家が語る、砂の世界に生きる人々

アニメは光の表現で時間がわかるようになっている(梅田)

──梅田さんはもうアニメの最初のほうは観られたんですよね。

梅田 はい。2話まで拝見しました。

──物語が大きく動き出す、かなり重要な回ですね。

サミはスオウの妹で、チャクロの幼馴染み。天真爛漫で、常にチャクロのことを気にかけている。

梅田 そこまでのストーリーや演出をとても丁寧にやっていただいていて。あとはサミを見て「足が内股っぽくてかわいいな」と。ほかにもネリとか、ちっちゃい女の子もかわいく動いているのがよかったです。

横手 サミはかわいいからスタッフにも人気があるんですよ。キービジュアルでもサミはほっぺに赤みがあるんですよね。イシグロさんの愛なのかな。

梅田 音楽もすごく素晴らしいものでした。仕事しながら劇伴を聴いているぐらい。

横手 音楽はドイツと日本で録った本格的なものらしいんですけど、私もドイツに連れていってほしかったですね。こっちはずっと戦場にいるのに!(笑)

光を浴びる泥クジラ。

梅田 (笑)。あとはアニメだと光の表現が素晴らしいですね。朝と昼と夕方が、色の違いでわかるようになっているんです。もっと言うと、早朝なのか、もう少し遅い朝なのか、昼前なのか、すごく時間を刻んで色の表現をされているんです。

横手 それって絶対大変ですよね。イシグロさんはそうやって自分の首を締めるようなことをして……(笑)。

梅田 マンガだとできない表現をやっていただいています。「こういう場所なら単に薄暗いだけじゃなくてこの明るさになるんだろうな」という色遣いとかも、リアルに考えてくれていますね。

──そういった表現をアニメから原作に取り入れようと思ったりは?

梅田 ちょっと大変そうですね……(笑)。

横手 マンガはほぼおひとりで描かれているんですよね?

梅田 そうなんですよ。妹がたまに手伝ってくれるぐらいで。

──妹さんは、いまアニメの公式Twitterで「チャクロのなぜなに泥クジラ」というマンガを描いていらっしゃる梅田海老先生ですね。

横手 へえー! チェックしてなかったです(マンガを見て)あ、かわいい。だけど梅田阿比先生の妹さんが、梅田海老先生っていうお名前なのも面白いですね(笑)。

梅田 いつの間にかそんな名前になっていたので私も驚きました(笑)。

作品の世界観を崩せないので責任を感じる(横手)

単行本1巻の巻末には、泥クジラの居住区や農園、貯水池などについて描かれた内部図解が収録されている。

横手 そもそも「クジラ」のあの世界観は、最初は何から思いついたんですか? 絵から、セリフから、キャラクターから、いろいろあると思いますけど。

梅田 絵ですね。イメージ映像のようなものが最初にありました。

横手 砂の海に浮いている泥クジラのイメージですか?

梅田 ええ。連載企画用に、船に人が住んでいる絵を1枚描いて、まずを編集さんに見てもらいました。そこからマンガにするにあたって「この船に人が暮らしていたらこんな感じ」と説明を付けていきましたね。

──発想のもとというか、世界観のルーツはどこなんでしょう。マンガを読むと、民俗学がお好きなのかなという印象を受けるんですが。

梅田 詳しくはないですけど好きですね。各地のお祭りや、特に起承転結がないような伝承なんかも興味があります。

横手 そこをヒントにいろんな設定が出てくるんですね。

梅田 例えば泥クジラの行事で「スナモドリ」というものがあるんですけど。

──みんなで砂をかけ合って、砂に溶けた故人の魂を迎えるという儀式ですね。

泥クジラで毎年開催される無礼講の砂かけ合戦「スナモドリ」。砂を通して死者の魂が人々のもとに戻るといういわれがある。

梅田 あれは最初から考えていたんじゃなくて、あの回のネームを描く前に河川敷を散歩していたら、鳥が飛んできたんです。それを見送っていたら、鳥のことが亡くなった人に見えるイメージが浮かんで、「あ! 死んだ人のことを思いながら見送っているようなシーンが、今から描く回に入っているはずだ」という気がして……。

横手 「入っているはずだ」というのもすごいですね。

梅田 上手く言えないんですけど、その浮かんだイメージに説明を付けるならスナモドリという儀式になる、とでも言えばいいんでしょうか。わりとそういう適当な感じです(笑)。

──「クジラ」は独自の専門用語がたくさん出てきて世界観がものすごく作り込まれています。そういった作品のアニメ脚本ならではの苦労はありますか。

砂の海に囲まれた泥クジラでは特殊な環境ならではの文化が数多く生まれた。

横手 その世界観を崩せないので、責任を感じますよね。期待している方々の期待に応えないといけませんから。でもその一方で、脚本家のエゴというか、「こうしたらいいんじゃないか」みたいなのも出てきますし。だけど最終的には原作の世界観が第一です。アニメでは描ききれない、マンガならではの密度というものがあると思うので、そこに近づけるように、脚本以外にも、監督や美術の人が努力しているんだと思います。

──なるほど。最後になりましたが、このアニメの見どころをお願いします。

横手 見どころは、やはりイシグロ監督のこだわりっぷりですね。

──さっき言われたような色の表現の部分などですね。

横手 イシグロ監督って、細身な方なんですよ。でも「クジラ」でいろんなことにこだわりすぎているせいなのか、元から細い監督がどんどん痩せていくんです。甘いものを差し入れするとどんどん食べるのにもかかわらず。

──それだけエネルギーを使っているということなんでしょうね。

横手 こうやって監督がいないところでどんどんハードルを上げていきます。

梅田 (笑)。私はキャラクターを見てほしいですね。魅力的に見えるように作っていただいているので、誰かを好きになってくれればいいなと思います。特にサミがかわいいです!

アニメ「クジラの子らは砂上に歌う」
放送情報
  • TOKYO MX:2017年10月8日(日)より毎週日曜23:00~
  • KBS京都:2017年10月8日(日)より毎週日曜23:30~
  • サンテレビ:2017年10月8日(日)より毎週日曜25:00~
  • BS11:2017年10月10日(火)より毎週火曜24:30~
  • Netflix:2017年10月8日(日)より配信開始
キャスト

チャクロ:花江夏樹
リコス:石見舞菜香
オウニ:梅原裕一郎
スオウ:島﨑信長
ギンシュ:小松未可子
リョダリ:山下大輝
シュアン(団長):神谷浩史

スタッフ

原作:梅田阿比(秋田書店「月刊ミステリーボニータ」連載)

監督:イシグロキョウヘイ

シリーズ構成:横手美智子

キャラクターデザイン:飯塚晴子

美術監督:水谷利春(ムーンフラワー)

音楽:堤博明

アニメーション制作:J.C.STAFF

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梅田阿比(ウメダアビ)
梅田阿比
2006年、週刊少年チャンピオン(秋田書店)に掲載された「幽刻幻談―ぼくらのサイン―」でデビュー。同誌では「フルセット!」「幻仔譚じゃのめ」といった作品も連載した。2013年より月刊ミステリーボニータ(秋田書店)にて連載中のファンタジー作品「クジラの子らは砂上に歌う」は舞台化、アニメ化を果たしたほか、フランスのマンガ賞「Japan Expo Awards」で青年漫画部門Daruma賞を受賞するなど海外でも評価されている。
横手美智子(よこてみちこ)
フリーの脚本家・小説家。アニメのほか、特撮やゲームのシナリオ・シリーズ構成も手掛けている。シリーズ構成としての近作に「斉木楠雄のΨ難」「私がモテてどうすんだ」「政宗くんのリベンジ」など。