アニメのオウニは、原作よりも……(梅田)
──先ほど「上質なハイファンタジー」というお話がありましたが、横手さんが原作を初めて読んだとき、ほかにどんな部分が印象に残りましたか。
横手 出てくるキャラが多い群像劇なのに、みんな魅力的なのがすごいと思いました。いわゆるモブキャラがいなくて、すべての登場人物に役割がある。だからアニメにするにあたって挑戦しがいがありました。書き終えてみて、全員を出し切れたかというのは自信がないんですけどね。それぐらいキャラがみんな立っていました。
梅田 私は児童保育のバイトをしていたことがあるので、その経験が活かせているのかもしれないですね。子供の集団を見ていると、どの子もキャラが立っているんですよ。
横手 おとなしい子でも、ちゃんと見ると何か個性がある、ということですね。
梅田 そうですね。単純に得意不得意があるとかじゃないんですよ。私がバイトしていたのは学校とも違って、評価もされない、点数もつかない場所だったから余計に、学力や運動能力以外の部分が見えたのかも。
──「クジラ」の数多いキャラの中で、横手さんが好きなのは?
横手 ハムがすごく好きですね。
──リコスが連れている小動物ですね。アニメの序盤ではまだ名前がついていませんが。
梅田 アフレコを見学しに行ったんですけど、そのときにハムの出番もあって、とてもかわいかったです。脚本ではハムの動きについて、すごく細かく書いてくれていましたよね。
横手 アニメでちゃんと描いてもらいたいと思ったので。声優さんもハムのためにすごく役作りしてくださって、素晴らしい表現力でしたね(笑)。
──ハムがかわいいのはわかりました(笑)。人間で好きなキャラはいますか?
横手 オウニはいいですね。彼は最初に出てきたときはただのひねくれものに見えるかもしれないですけど、話が進むと「なるほど、だからひねくれちゃったんだね」ってのがわかるから、かわいいんですよ。
梅田 なるほど(笑)。
横手 あと私、オウニの胸元にいるウイジゴケが好きで。
──オウニがなぜか胸元に忍ばせているホワホワしたコケですね。原作で大きく触れられるわけではないんですけど。
横手 でも、そういうディテールに魅力がある作品ですよね。だから台本のト書きで「オウニのウイジゴケが胸元で遊んでいる」とかいろいろ細かく書いていたらすごい長さになってしまったので、ト書きから取らざるを得なかったんです。でもイシグロ監督だから、そこは書かなくてもきっと動かしてくれるに違いないと思っていますけどね。
梅田 アニメのオウニ、すごくカッコいいんですよ。私の絵だとちょっとドロドロしてるんですよね。クセがあるというか、怖すぎるというか。そこがなくなって、女性に好かれそうなキャラになっているかなと。
横手 (笑)。あと私はオルカも好きですね。ひねくれているというか、ちょっと俺様キャラで病んでる系の人に惹かれるので(笑)。
リコスのあるシーンは、梅田先生にアドバイスをもらいました(横手)
──オルカと同じ帝国軍の、リョダリはいかがですか。
横手 狂気を感じるキャラですよね。
──リョダリを演じるのは山下大輝さんですよね。「弱虫ペダル」の小野田坂道や「僕のヒーローアカデミア」の緑谷出久といった、真面目なキャラのイメージが強い山下さんが「敵側を本格的に演じるのは初めて」とコメントしていたので、どうなるのか気になります。
横手 山下さんはご本人にお会いしたときもそうだし、Twitterを見ていてもすごくいい方なんですよね。ご自身が出演した作品への愛が強いですし。
梅田 リョダリ役のオーディションには女性も来られていて、最初は男性でも女性でもどちらでもいいかなと思っていたんです。でも山下さんの演技を聞いたら狂気が本当にすごくて、女性の演じたリョダリがかわいすぎるように聞こえてしまいました。
横手 原作の鼻歌っぽくしゃべるところなんかは、アニメだとどうなっているのか今から楽しみです。あとは主人公のチャクロのことも好きなんですが、書くのは難しかったですね。悩みがちな子だけど、その一方で急に叫んだり、勢いで行動することがあったり、どういう性格なんだろう? あるいは、どうしたらあんなに一生懸命に、友達を大事に思うことができるんだろう? と。泥クジラの住人って、生活様式が我々と大きく違うじゃないですか。だからものの考え方、親子の情のあり方も違うはずだと思うんです。
──どういうバックボーンがあってこの考えに至るのか、みたいなことがわからないこともあったと。
横手 はい。だからそこは梅田先生に「この表情はどういうことですか」と聞くこともありましたね。たとえばリコスが涙を流すシーンがあるんですけど、「これはどういう感情で出てきたものですか」って。
梅田 そうですね。そこは先の展開や、描かれてない設定も踏まえてアドバイスさせていただきました。
──リコスはある理由で感情が失われているという設定ですよね。そうなるとやはり、心情を読み解いて脚本に活かすのが難しいものなのでしょうか。
横手 いや、感情がないわけではなくて、押さえつけているものがあるんだろうなとわかるので、ある意味ではわかりやすいかもしれない。好きなキャラです。
──原作のわからない部分を梅田さんに聞くというやり取りはほかにもあったんでしょうか?
梅田 私は会議とかには出てないので、「ここがわからなかったんですけど」って聞かれたことに答えるぐらいで、基本はアニメのスタッフさんたちにお任せですね。上がってきたものを見てから何かあれば、たまに「このキャラはこういう反応をしないかも」と言わせていただく感じで。でも脚本に安定感があったので、本当に何回か、細かい部分だけです。
横手 本当ですか? 「時間がないし、しょうがない」という感じで我慢してらっしゃるんじゃないですか?
梅田 いえいえ(笑)。
私も感情がなければ仕事がもっと楽なのに(梅田)
──「クジラ」は、感情を元にした超能力が出てきますし、人間の感情というのがひとつの大きなテーマだと思います。梅田先生の過去作「ブルーイッシュ」でも、超能力と感情が大きな要素として出てきますよね。
梅田 特別に感情をテーマにマンガを描きたいのかというと、そうでもないんですけどね。キャラクターを描こうとしたら感情を描かざるを得ないだけで。
──感情を描くことは大きいテーマというより、マンガを描くうえで自然なことだと。ただ「クジラ」は単純に感情を描くというより、感情そのものの有無を問うシーンが多く出てくるイメージもありますね。
梅田 そこは答えがないので追求すると難しいですよね。たしかに私も普段から「感情がなければ仕事がもっと楽なのに」と思うことはあるんですけど(笑)。
横手 先生は感情的にならなさそう。私なんか、このあいだタクシーを捕まえようとしたときに、知らない人から「そこはバスが停まるとこだから止まってちゃダメだよ」って言われただけで「ムキー!」ってなりましたよ(笑)。
梅田 私も横手さんみたいに怒れるようになったほうがいいのかな……?
──感情のない人が感情に憧れてるみたいになってますよ(笑)。
横手 リコスもだんだんと感情を出すようになりますけど、あれは泥クジラのみんながものすごく表情豊かだから、そこに感化されたのかもしれないですね。「ここまで怒っていいんだ」みたいな。
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アニメは光の表現で時間がわかるようになっている(梅田)
- アニメ「クジラの子らは砂上に歌う」
- 放送情報
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- TOKYO MX:2017年10月8日(日)より毎週日曜23:00~
- KBS京都:2017年10月8日(日)より毎週日曜23:30~
- サンテレビ:2017年10月8日(日)より毎週日曜25:00~
- BS11:2017年10月10日(火)より毎週火曜24:30~
- Netflix:2017年10月8日(日)より配信開始
- キャスト
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チャクロ:花江夏樹
リコス:石見舞菜香
オウニ:梅原裕一郎
スオウ:島﨑信長
ギンシュ:小松未可子
リョダリ:山下大輝
シュアン(団長):神谷浩史 - スタッフ
原作:梅田阿比(秋田書店「月刊ミステリーボニータ」連載)
監督:イシグロキョウヘイ
シリーズ構成:横手美智子
キャラクターデザイン:飯塚晴子
美術監督:水谷利春(ムーンフラワー)
音楽:堤博明
アニメーション制作:J.C.STAFF
- 「クジラの子らは砂上に歌う」BOX 1
- 2018年1月26日発売 / バンダイビジュアル
-
- 原作・梅田阿比 描き下ろしマンガ
- 特典CD
- 特製ブックレット
- 原作・梅田阿比原案 新作OVA
- 劇伴レコーディング映像
- オーディオコメンタリー
- キャラクターデザイン・飯塚晴子描き下ろしBOX&ジャケット
- 「クジラの子らは砂上に歌う」BOX 2
- 2018年3月23日発売 / バンダイビジュアル
-
- 原作・梅田阿比 描き下ろしマンガ
- 特典CD
- 特製ブックレット
- 原作・梅田阿比原案 新作OVA
- 主題歌PV・メイキング映像
- ノンテロップOP
- ノンテロップED
- CM集
- PV集
- オーディオコメンタリー
- キャラクターデザイン・飯塚晴子描き下ろしBOX&ジャケット
- 梅田阿比「クジラの子らは砂上に歌う⑩」
- 発売中 / 秋田書店
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新天地アモンロギアに到着した泥クジラ。しかし、領主ダクティラは謁見に訪れたスオウたち無印を捕らえ、人質にしてしまい……!?
- 梅田阿比 / 秋田書店出版部「クジラの子らは砂上に歌う 公式ファンブック」
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舞台・アニメ化でも話題! 次世代ファンタジーの公式ファンブック! 儚げで美しく精緻な「クジラ」の世界の魅力を濃密に紹介!
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- 梅田阿比(ウメダアビ)
- 2006年、週刊少年チャンピオン(秋田書店)に掲載された「幽刻幻談―ぼくらのサイン―」でデビュー。同誌では「フルセット!」「幻仔譚じゃのめ」といった作品も連載した。2013年より月刊ミステリーボニータ(秋田書店)にて連載中のファンタジー作品「クジラの子らは砂上に歌う」は舞台化、アニメ化を果たしたほか、フランスのマンガ賞「Japan Expo Awards」で青年漫画部門Daruma賞を受賞するなど海外でも評価されている。
- 横手美智子(よこてみちこ)
- フリーの脚本家・小説家。アニメのほか、特撮やゲームのシナリオ・シリーズ構成も手掛けている。シリーズ構成としての近作に「斉木楠雄のΨ難」「私がモテてどうすんだ」「政宗くんのリベンジ」など。