かわぐちかいじ原作による実写映画「空母いぶき」が、いよいよ5月24日に封切られる。同作は近未来の日本を舞台に、専守防衛の自衛隊が初めて航空母艦を持った世界を描く軍事ドラマ。映画では、現場の最前線にいる自衛官や総理大臣を中心とする政府、そしてジャーナリストや一般市民の視点を通して、迫力のアクションとタイムサスペンスが展開されていく。
映画の公開に先がけ、ボイスドラマ「第5護衛隊群かく戦えり─女子部─(映画『空母いぶき』より)」の第一章が、映画の公式サイトにて5月12日より配信される。こちらは映画のシナリオをもとに、秋津竜太、新波歳也といった男性キャラクターを、上坂すみれやM・A・Oら女性声優が演じるという異色の企画となっている(参照:「空母いぶき」女性声優でボイスドラマ化!上坂すみれ、M・A・Oが男性乗組員に)。
コミックナタリーと映画ナタリーでは「空母いぶき」の公開を記念し、横断での特集を展開。コミックナタリーではボイスドラマで秋津竜太役を務め、ミリタリー好きとしても知られる上坂すみれにインタビューを行った。自身も秋津役として作品に参加した上坂は映画をどう観たのか? ボイスドラマの収録の感想とともに語ってもらった。なお映画ナタリーでは秋津竜太役の西島秀俊、新波歳也役の佐々木蔵之介によるインタビュー記事を近日公開予定。こちらも楽しみにしていてほしい。
取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / ツダヒロキ
あのテロリストが転生してお菓子を詰めている……!
──上坂さんも出演されたボイスドラマ「第5護衛隊群かく戦えり─女子部─」では、映画「空母いぶき」に登場する男性キャラクターを女性声優の皆さんが演じていらっしゃいます。この企画内容にも驚きなのですが、上坂さんは収録にあたり映画をご鑑賞されたということで。まずはこちらの感想からお伺いしてもよろしいですか?
もう……私、ボロ泣きしてしまいまして。
──どのシーンでボロ泣きされたんですか?
護衛艦の《はつゆき》が燃えるシーンなんですけれど、もうなんというか……「がんばったねえ……! はつゆき、がんばったねえ……!」と涙が出てきて。
──なるほど(笑)。そういう観点でしたか。
全然関係ないんですけれども、私は「艦これ」(「艦隊これくしょん-艦これ-」)というゲームで、駆逐艦の初雪と白雪の声をやっているんです。「空母いぶき」で描かれている護衛艦と、「艦これ」の駆逐艦では立ち位置が違いますけど、《しらゆき》が《はつゆき》を助けに行くというのも泣けるなあ……と気持ちが入り込んでしまって。たくさんの乗組員がいる中で艦同士が助け合い、身を挺して主力となる《いぶき》を守るという連携プレイも、艦隊ならではの魅力だと感じました。
──戦闘シーンは迫力がありましたね。
そうですね。映画は2時間14分あるんですけど、瞬きする間もないような展開でした。近未来での海戦となるとイマジネーションの世界になるので、映像にするのはすごく大変なことだと思うんです。それでもしっかりと、そのうえ空戦まで描かれていて。かと思えば、街で暮らしている人たちの日常のシーンも挟み込まれる。日本の平和な風景と、艦隊のシーンがテンポよく映し出されるので、物語に引き込まれましたね。なので、ミリタリーのことはよくわからないという人にこそ観てほしいなと思いました。
──日常のシーンが多いぶん、現実味を帯びて感じられる構成だったと思います。映画の冒頭、子供たちの姿をバックに、この物語の舞台となる日本の現状が文章で説明されていたのも印象に残っています。
観る人に語りかけてくる映像だなと思いました。あと……私、「空母いぶき」を観たあとに家で「亡国のイージス」(2005年公開の映画)を観たんです。そうしたら「空母いぶき」でコンビニの店長役を演じていた中井貴一さんが、「亡国のイージス」ではめちゃくちゃ悪い役をされていて。「えええっ!?」ってびっくりしました(笑)。きっとあの悪いテロリストが転生して、コンビニの店長になったんだ、よかったな……って。平和のメッセージが書かれたカードとともに、クリスマス用のお菓子を長靴に詰めていて、ああ、いい人に生まれ変わったんだ……!って、勝手につながりを感じてぐっときました(笑)。
──あははは(笑)。確かに、「亡国のイージス」の原作者である福井晴敏さんと、映画版で脚本を手がけた長谷川康夫さんも、映画「空母いぶき」にスタッフとして参加されているので、併せて観るというのは楽しみ方の1つとしてアリかもしれません。
ぜひ「亡国のイージス」を観た方は、あの悪いテロリストが転生した姿を見てほしいです(笑)。改めて役者さんってすごいなと思いました。もう顔立ちが全然違うんです。
潜水艦《はやしお》のシーンは円谷プロ感がある
──上坂さんはミリタリー好きとしても知られていますが、その視点で「空母いぶき」の魅力を挙げるとしたらどこになるのでしょう?
実は私は現代の、特に海自(海上自衛隊)ものはこれまであまり触れてこなかったんです。なので初めて知ることも多くて、大変新鮮でした。陸戦だとがんばって補給部隊に辿り着けば補給を受けられたり、「もう無理だ!」となっても運がよければ脱走することでもできると思うのですが、海って逃げ場がないんだなと。だんだんとダメージを受けていく緊張感はすごくドキドキしましたね。あとは、現代の戦闘はこんな感じなんだなあと。単に「敵艦発見!」「捕捉しました!」「撃ちます!」「(撃)てー!」「勝ちました!」じゃ済まないんですよね。まずは内閣と連絡を取り、「防衛出動を発令しますか? しませんか?」と確認して、武力を行使するにも内閣からの命令があったうえで動けるという。
──決断を迫られた総理の葛藤も描かれていましたね。現代の戦闘はこういうことなんだと、改めて感じる場面でした。
「撃墜」という言葉の重さも描かれていますよね。そういったシーンは見どころだと思います。あとは最新鋭のCGを駆使した護衛艦の姿がたくさん観られるので、もし自分が乗組員だったら何に乗りたいか?とか、シミュレーションする楽しさもあると思います。
──上坂さん的にはどの艦種が気になりましたか?
やっぱり《いぶき》はロマンがありますよね。(《いぶき》のモデルとなった護衛艦)いずものさらに進化系という感じがあって。いずもは空母じゃないのかという問題がありますけど、そこに切り込んでいく《いぶき》さん。潜水艦(はやしお)も気になりますね。逃げ場がないことにはほかの艦隊も変わりないと思うんですが、潜っているぶん、潜水艦にはまた違った緊張感があるんだろうなと。潜水艦のシーンは艦長をはじめ、乗組員がみんな汗びっしょりでしたが、潜水艦の中って暑いんでしょうか? 潜水艦特有の赤い照明も印象的で、常にエマージェンシーな世界を感じました。あそこだけちょっと円谷プロ感があるというか……艦長(髙嶋政宏演じる滝隆信)の原作のキャラクターそのままの濃ゆさも相まって、特撮を見ている感じがありました。
──確かにマンガと映画の滝艦長、よく似ていらっしゃると思います。
割と《いぶき》のCIC(戦闘指揮所)はさっぱりとしているというか、“スタイリッシュCIC”なんですけれど、《はやしお》の場面は古きよき昭和の潜水艦映画のような感じがしましたね。(山内圭哉演じる護衛艦《いそかぜ》艦長の)浮船さんもいいキャラしていますよね。(和田正人演じる)砲雷長の岡部さんも浮船さんのノリに付き合ってあげていて。「海自カレー」なんてものもありますが、艦によって全然“味”が違うのを見ると、「艦ってやっぱりチーム戦なんだな」と感じました。《いぶき》は秋津さんが艦長なので、みんなすごい真面目だな、おちゃらけた人がいないなって(笑)。艦隊によってそういったテイストの違いがあるのも面白かったです。
これは新しい萌えの領域
──そんな作品がボイスドラマ化され、上坂さんは映画で西島秀俊さんが演じる《いぶき》の艦長・秋津竜太役の声を務められています。このボイスドラマの企画を聞いたときはどんな印象をお持ちになりましたか?
アニメやゲームにおいて、ミリタリーと女性キャラクターをかけ合わせたものはとても相性がいいのですが、「空母いぶき」は原作も映画もリアルな海自の世界を描いている作品なので、それを全員女性キャストで演じるなんて、どういうふうにアレンジがされるんだろう?と気になっていました。そうしたら意外とアレンジされていなかったので、びっくりしました(笑)。秋津さんの名前もそのまんま男性なので、すごく新鮮でしたね。だいたいアニメやゲームの女子ミリタリーものってちょっとゆるふわな部分があるんですけれども、このボイスドラマではそういったものが一切なく、原作や映画の世界観そのままの非常に男らしい作品になっていました。
──女性の声で男性キャラクターを演じたわけですよね。そのあたりはいかがでしたか?
今回は主人公の秋津さんだけでなく、ナレーションも担当させていただいたのですが、初めて挑戦する領域だったので試行錯誤は多かったです。ただ声を低くすればいいというものでもないので難しかったですね。メンタル的には男性の海上自衛隊の人の気持ちだけど、声は別に低くない普通の女子という……これは新しい萌えの領域だなと思いました。
──“萌え”なんですね。
萌えの新しい世界だなと思いました。媚びずに、なんのサービスシーンもないんですけど、逆にそこがカッコいいなと思います。
- 「空母いぶき」
- 2019年5月24日(金)全国公開
- ストーリー
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20XX年12月23日未明、国籍不明の軍事勢力が日本の最南端沖で突然の発砲。日本の領土の一部が占領され、海保隊員が拘束される事件が発生した。午前6時23分、日本政府は初の航空機搭載型護衛艦・いぶきを中心とする護衛隊群を現場に向かわせる。このあと、日本はかつて経験したことのない1日を迎えることになる。
- スタッフ / キャスト
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監督:若松節朗
脚本:伊藤和典、長谷川康夫
原作・監修:かわぐちかいじ「空母いぶき」(小学館「ビッグコミック」連載中 / 協力:惠谷治)
出演:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、小倉久寛、髙嶋政宏、玉木宏、戸次重幸、市原隼人、深川麻衣、中井貴一、藤竜也、佐藤浩市ほか
- ボイスドラマ「第5護衛隊群かく戦えり─女子部─(映画『空母いぶき』より)」
- 映画「空母いぶき」公式サイトにて5月12日(日)より配信
- 配信日時
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第一章:2019年5月12日(日)18:00
第二章:2019年5月13日(月)18:00
第三章:2019年5月14日(火)18:00
- スタッフ
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原作:かわぐちかいじ「空母いぶき」(小学館「ビッグコミック」連載中 協力:惠谷治)
企画:福井晴敏
監修・演出:伊藤和典
音響監督:濱野高年
音響制作:マジックカプセル
製作:バンダイナムコアーツ
提供:映画「空母いぶき」フィルムパートナーズ
- 声の出演
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秋津竜太:上坂すみれ
新波歳也:M・A・O
湧井継治:田村睦心
中根和久:三澤紗千香
葛城政直:小松未可子
近藤隆夫:川上千尋
山本修造:木村珠莉
浦田鉄人:駒形友梨
畑中淳:西薗雪乃
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ
- 上坂すみれ(ウエサカスミレ)
- ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。2012年TVアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。主な出演作品は「なんでここに先生が!?」(児島加奈役)、「キャロル&チューズデイ」(アンジェラ役)、「川柳少女」(花買タオ役)、「異世界かるてっと」(シャルティア役)、「艦これ」シリーズなど。2013年4月にはシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることも知られる。4月17日にはTVアニメ「なんでここに先生が!?」のオープニングテーマであり、清竜人が作詞作曲を手がけた「ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡」をリリースした。
2019年5月13日更新