メッセージなんてなくてもいい
花沢 でも、そこでいわゆる“アニメっぽい曲”に寄せないのが素晴らしいなと。僕自身、マンガというものの常識をなるべく壊していきたい願望を持って作品作りをしているので、その意識と合ってくれている感じがしてすごくうれしいですね。
内田 ぶっ壊す意識は確かにありますね(笑)。アニメの曲に限らず、そもそも僕らがやっている音楽からして……ミクスチャーロックと分類されることが多いんですけど、いわゆるミクスチャーロックとは違うものですし。「アンダーニンジャ」にしても、ジャンルで括るのは難しいですよね。
花沢 そうですね、ひと言では説明しきれない。「アンダーニンジャ」というタイトルだけど、忍者ものだと思って読み始めるとガッカリしちゃうマンガなんで。
内田 うははは(笑)。
花沢 ただ、青年誌のマンガって本来そういうものだと思っているんですよ。少年誌から入ってマンガを好きになった子が、似たような展開に飽きて何か違うものを読みたいと思い始めたところに、僕らの時代は青年誌というものが存在していたんです。でも今は完全にジャンプ一強で、ジャンプが大人も子供もすべてを取り込める内容を作ってしまった。ジャンプで育った子がジャンプ以外へ世界を広げなくても済むようになったことで、逆に青年誌側も少年誌化しないと読者を獲得できなくなってきているわけです。それが僕はあまり好ましくない状況だなと思っていて、少年誌から違うところへ行きたいと思っている読者のためにマンガを描きたいという気持ちが根っこにあるんですよね。だからこういう、なんとも言えないマンガになってしまう(笑)。
内田 僕も似たようなところがあります。学生の頃からずっと「世の中にもっと面白い曲があったらいいのに」とすごく思っていて、「だったら自分で作ればいいや」と考えて作り始めたのが最初のきっかけだったので。Red Hot Chili Peppersとかそういうロックを聴いて育ったこともあって、既成概念を壊すみたいなのは当たり前のことだと思っているフシがありますね。
花沢 そういうタイプは、苦労しますよね。
内田 苦労しますね(笑)。実際、そんなふうに決まった形がない中でマンガの大元になる世界観とかを作り出すのはすごく難しいことなんじゃないかと思うんですけど、花沢先生はどんなふうに考えて作っているんですか? 僕はそういう、楽曲のテーマ設定みたいなところに一番苦労するんですけど。
花沢 僕もテーマがすごく苦手なんですよね。特に新人の頃は編集さんに「この作品のテーマはなんですか?」とよく聞かれていたんですけど、そもそもテーマなんて考えて描いてないんで。そこで取って付けたように「愛情」とか「友情」みたいな薄っぺらい言葉を口にしたくもないし……。
内田 ガハハハハハ! めっちゃわかります(笑)。
花沢 だから今でも「テーマはない」としか言えないんですよね。テーマがないことが柱になっているような感じで、だから背骨がないようなマンガになっちゃってるんですけど。それがよくも悪くも作家性ということなんで、しょうがないかなと今は諦めちゃってますね。
内田 僕らもインディーズの頃、オーディションに出たりするとよく「この曲のメッセージはなんですか?」とか聞かれてましたよ。
花沢 マジですか……そっちの世界でもあるんだ……。
内田 その頃は胸を張って「別にないです」とも言えないんで、適当なことを答えてたんですけど。
花沢 そうなんだ……。
内田 うははは(笑)。それもよくないなと当時から思ってはいたので、「メッセージなんてなくても、音だけで楽しめる曲を書いたっていいんだよ」ということは今後の人たちのためにも言っていかないといけないなと今は思っていますね。
音を作れるということが理解できない
花沢 音楽を作る人って、作詞と作曲のどちらが先とかは決まってるんですか? それとも、その都度変わってくるもの?
内田 人によってけっこうまちまちではあるんですけど、一般的には楽曲を先に作ってあとから作詞をするスタイルが多いと思います。自分の場合はもう極端にそれですね。メロディラインやラップのフロウ、リズムがまずあって、それを謎の言語みたいなものでワーッと歌ったデモを録って、それからそこに文字を当てはめていく感じです。完全に音優先のスタイルですね。
花沢 なるほど……あの、例えば「Hyper」に出てくる「ややこい」という歌詞なんかはどういうところから、何がきっかけで出てきた言葉なんですか? どう考えても普通は出てこない言葉ですよね。
内田 そうですね(笑)。不思議なんですけど、あそこだけ唯一メロディができたタイミングですでにその言葉が付いていたんです。
花沢 へええー……言葉とメロディが同時に生まれたということ?
内田 そうなんですよ。だからこれだけは絶対に動かしたくないなと思って。そんなふうに、謎にめちゃめちゃハマっちゃうときもあったりします。
花沢 すごいなあ……僕は音楽に関しての知識がまったく何もない人間なので、まず音を作れるというのが理解できないんですよ。想像の範囲外のものっていうか。
内田 (笑)。
花沢 完全にゼロからじゃないですか。そこが不思議なんだよなあ。なんでできちゃうんだろうなと。
内田 僕らからすると、マンガ家の先生があんなにすごい絵を描けることのほうがよっぽど不思議ですけどね。
花沢 絵は別にねえ、マル描いてチョンとやれば顔になるんで。
内田 うははは(笑)。
花沢 これが音楽となると、それすらできないですから。本当に不思議なんだよなあ……あと、ミュージシャンの方って売れると歌のテーマがどんどん大きくなっていきますよね。愛だの命だのと。正直あれが僕は好きじゃないんですよ。
内田 ガハハハハ!(笑) まあ確かに、そうなりがちな傾向はありますよね。
花沢 大多数の人が理解できやすいようなものにどんどんなっていくのが、なんだかなあと。つまんねえなあと(笑)。内田さんはぜひそうならないでいただきたいです。尖ったまま大きくなっていってほしい。
内田 はい! 先生にそう言っていただけるのはマジでうれしいです。マンガの世界でもそういう傾向ってあるんですか?
花沢 ああ、どうかなあ……それはけっこう難しいところですね。丸くなっていく人もいるし、どんどん先鋭化していく人もいるし、なんとも言えない。まあでも、ある程度は丸くならないと幅広い読者を抱え続けることは難しいと思うんで、そこのバランスをうまく取れるかどうかなんでしょうね。
内田 それは音楽業界も同じですね。特に今の時代は、独自性と大衆性のバランス感覚に優れていないと生き残れなくなってきている感じはあるんで。そういうとこも、ちょいちょいぶっ壊していけたらいいなと思っております(笑)。
花沢 今、おいくつなんでしたっけ?
内田 24歳です。
花沢 若い! ふた回り違うのか(笑)。いやあ、これからどんどん行っちゃってくださいよ。そのまま尖りながら。
内田 がんばります!
プロフィール
Kroi(クロイ)
R&B、ファンク、ソウル、ロック、ヒップホップなど、あらゆるジャンルからの影響を昇華した独自の音楽を提示する5人組バンド。2018年2月にInstagramを通じて結成し、同年10月に1stシングル「Suck a Lemmon」をリリースする。2019年夏には「SUMMER SONIC 2019」に出演。同年12月に2ndシングル「Fire Brain」をリリースし、2020年5月に5曲入りのEP「hub」を発売した。2021年1月にEP「STRUCTURE DECK」をリリース。6月にはアルバム「LENS」でポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャーデビューを果たした。2022年7月にメジャー2ndアルバム「telegraph」、2023年3月にメジャー2nd EP「MAGNET」をリリース。10月にはTVアニメ「アンダーニンジャ」のオープニングテーマを収録したメジャー1stシングル「Hyper」をリリース。2024年1月には初の東京・日本武道館公演の開催を控えている。
Kroi (@kroi_official) | Instagram
花沢健吾(ハナザワケンゴ)
1974年青森県生まれ。アシスタントを経て、2004年にビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載された「ルサンチマン」でデビュー。代表作に「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「アイアムアヒーロー」などがある。2018年にヤングマガジン(講談社)にて「アンダーニンジャ」を連載開始。単行本は11巻まで刊行されている。