コミックナタリー Power Push - 近藤聡乃「A子さんの恋人」
日米で揺れる、優柔不断な恋の行方は?ひねくれた大人の無責任シティロマンス
“殺し愛”はキャラの関係性を表すシチュエーション
──そうだったんですね。「殺し愛小話」第1話にはpixivの「創作男女10000users入り」タグが付いてます。当初からかなり反響があったんですか?
いや、全然そんなことなくて! いっぱい見てもらえてるなって実感したのはここ1~2年です。pixivに投稿しはじめた頃はブックマーク0も余裕であったんですよ。たまたまブクマ50以上いったときは「うわ、すごい!」ってうれしくなって、もう私にしたら飛び上がるようなことだったんで、そこからちょっと調子に乗って「殺し愛小話」を続けていきました。
──タイトルにも入っている“殺し愛”という言葉、キャッチーですね。
この言葉、私が考えたものでは全然ないんです。キャラクターの関係性を表すシチュエーションのことで、一定層には浸透しています。“ケンカップル”とかに近いかな。だから「殺し愛」というタイトルにしていいのかな、という葛藤はあって……。
──ジーンで連載するときに?
ええ。担当さんにも「このタイトルはちょっと……」って言って(笑)。口にも出しにくいタイトルですし。
──確かに、私もこのインタビューに行くとき「“ころしあい”の取材に行ってきます」って(笑)。
そうなりますよね(笑)。
偽物の編集者に騙されてもしょうがないと思いながら描いた
──pixivに3年以上も同じオリジナルシリーズを投稿し続けられた原動力はなんだったんでしょう?
仕事が忙しければ忙しいほど、「なんか描きたい!」っていう意欲が湧きました。
──会社にお勤めだったんですね。
ええ、1巻が出るまでは兼業でした。「休みの日を丸々潰してでも、このシチュエーションが描きたい!」と悶々と思ってて。「殺し愛小話」も、pixivに投稿した段階ではほとんどエピソードがつながってない。ただただ描きたいシチュエーションをポーンってアップしてました。
──「殺し愛小話」は現在22本、pixivで公開されてます。お気に入りのエピソードはありますか?
pixiv時代に、ちょっとたるんできたなって思ったことがあったんですよ。「リャンハとシャトー、お茶飲んだりしかしてないぞ」と。
──“殺し愛”してないぞ、と(笑)。
そこでシャトーの過去とリャンハが関係あるという展開にして、自分でストーリーにテコ入れをしました。「これでストーリーっぽくなった」と自分で自分をほめてました。
──セルフ編集者ですね。
「あれ、このままだと楽しく描けない」と考えてしまったんです。当時は趣味でやってたのに(笑)。
──なるほど。そうして描いていくうちに、今の担当さんから商業化の打診が来た?
はい、でも最初はめちゃくちゃ警戒しました(笑)。ネット経由の連絡で「騙された」って話を聞いたりしてたんで、「ちょうどいい具合のカモがいる」って思われてるんじゃないか、本物じゃなくて偽物の編集者なんじゃないかって。
──それほど疑ってるFeさんに会えた担当さんはラッキーでしたね!
姉が本物の編集者か確認してくれて、背中を押してくれたんです。でも実際に私の地元で担当さんと会うって話になったときももう怖くて。もしかしたら何人か連載化の候補がいて、一斉に描かせてその中から連載されるマンガを選ぶのかな、一番いいのを選んであとはポイってされたりするんだろうなって。
──連載枠が1つ空いてるからコンテストしよう、みたいな。
そうそう。そういうのがあるんだろうと思って。それだったら勝ち目ないし断ろう、あと原稿料なしって言われたら断ろうと、事前にいろいろシミュレーションして会いに行ったら、全然違いました(笑)。そこからトントン拍子で商業連載の話が進んだんですけど、1話の予告が載ったジーンを自分の目で確かめるまでは、最悪騙されてもしょうがないって思いながら1話目を描いて。
──すごく盛大なドッキリの可能性もあると。
正直、自分が連載していることがまだ信じられません。
主人公2人の心情を極力モノローグや言葉で出さない
──それほどとは(笑)。連載が始まって1年が経過しましたが、捜査官に拾われた養子で、それ以前の記憶がないというシャトーの過去と、謎だらけのリャンハの過去が絡み合って、サスペンス部分が濃くなってきた印象です。
サスペンスっぽくなればとは思っています。どちらかというと、マンガ的な表現じゃなくて刑事もののテレビドラマみたいな雰囲気が出ればいいなと思いながら描いているところがあって。
──テレビドラマみたいな雰囲気というのは?
初期の「相棒」が好きだったんですよ。ちゃんと表現できているかは別なんですけど、一応ドラマを観ているようなテンポや雰囲気を意識しています。
──具体的にどのようなところで?
キャラクター、特に主人公2人の心情を極力モノローグや言葉で出さない。それを入れちゃうと、どうしてもマンガに寄っていってしまうのかなって。それが悪いことでは全然ないんですけど、今のところ私は避けています。
──サスペンスもののテレビドラマの手法を、Feさんの中で噛み砕くとその表現に行き着くんですね。
本当に試行錯誤しながらなんですが。ドラマはマンガみたいに文字で思っていることが出てこないし、基本的には口でしゃべることが多い。もちろん中には心の声がアナウンス的に流れてたりするドラマもありますが。自分の感覚ですが、モノローグを省くとドラマに近づくかなって思ってます。
──キャラクターの心情を言葉にしないという手法で、読者に情報を伝えるのは難しそうです。
ぶっちゃけ、説明過多になってしまうくらいだったら、ちょっと伝わり切らなくても文字の説明は捨ててしまったほうがいいかなって。できれば絵で見せたいです。
──キャラクターの表情や行動で、説明していく。
表情と行動と、間ですかね。試行錯誤しながらなので、そんな自信を持っては言えないですけど、そうなったらいいと思いながら描いています。セリフがないページが何ページか続くと、私としてはなんとなくスッキリするし、「できた!」ってうれしい(笑)。セリフのないマンガに憧れがあるのかもしれないです。
──それが理想の形なんですね。
そう、セリフがなくて絵だけで表現できるマンガを、すごいって思ってるんだと思います。私もやりたい!って。
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Fe(エフイー)
2012年よりpixivで「殺し愛小話」シリーズを発表し、1万以上“ブックマーク”されたオリジナル作品に付くタグ「創作男女10000users」を獲得する人気を博す。同作を商業作品として仕切り直し、月刊コミックジーン2015年11月号(KADOKAWA)にてデビューを飾った。