アニメ化「この世界は不完全すぎる」&ドラマ化「しょせん他人事ですから」、マフィア梶田が担当編集と語る左藤真通ワールドの魅力 (4/4)

アニメで“バグ”を描くのって、センスが問われるのでは?

──そんな2作品が、このたび揃って映像化します。

鍵田 同じ作者で、実写とアニメで、時期まで一緒というのは珍しいですよね。

梶田 「この世界は不完全すぎる」のアニメは、どんな感じなんですか?

アニメ「この世界は不完全すぎる」キービジュアル

アニメ「この世界は不完全すぎる」キービジュアル

鍵田 すごく原作に忠実に作ってくださっています。やっぱり動きがつくので、アクションシーンに期待していますね。

梶田 個人的には、バグっているところの描写がアニメだとどうなるのか、そこがキモだと思うんですよ。この作品の根幹の部分じゃないですか。読者の想像のほうが……となるともったいない。逆に、そこをちゃんとやってさえくれれば、それだけでアニメ化は成功だと思います。でも、アニメーションでバグを描くのってセンスが問われる気がするんですよね。そのあたり、どうですか?

鍵田 バグシーンもかなり忠実に、ゲームギミックにこだわってやってもらえてると思っています。話を聞いたら、馬引(圭)監督も左藤さんと同じゲームをプレイされていたそうで、例えば処理落ちとか、スローになるところの表現も丁寧に検討してくれたり。

梶田 それは期待できそうですね!

鍵田 脚本会議をやっているときに感じたのは、アニメのスタッフの方は僕らよりずっと、道具とか空間について神経を走らせていらっしゃるんですよね。ここはどうなっているんですかとか、このとき持っていた道具はどこに行ったんですかとか……。僕たちは連載でやっているので、走ってるうちに取りこぼしてるものがどうしてもあったりするんです。だから脚本会議で指摘されてからミスに気づいて、原稿を直してもらったりもしています(笑)。そのくらい丁寧に作っていただいているという印象です。

梶田 あと気になっているのは、クリーチャーデザイン。ぶっちゃけ男性器がモチーフだろうなってモンスターも出てくるじゃないですか(笑)。ファンタジー世界にしても気持ち悪いやつが多くて、そのへんもすごくホラー的なんですよね。生き物としての生理的不安を抱くデザインになっている。それもやっぱりこの作品の魅力だと思うので、変えないでくれるとうれしいですね。

大野木 「この世界は不完全すぎる」は、アニメ化をきっかけに海外にも人気が広がるんじゃないですか。外国の人も共感できる内容ですもんね。

梶田 洋ゲー的な要素が多いですからね。なんなら海外の人のほうがわかってくれると思いますよ。日本のゲームってバグ少ないほうですから。日本人はかなり細かく作り込んで、バグもなるべく消そうとしますが、海外は「ちょっとくらい残っててもいいじゃん?」という考えなんじゃないかと思うことすらある(笑)。

鍵田 思想の違いですね(笑)。

主演・中島健人も「原作マンガが面白い!」とやる気

梶田 実写化は……最近ちょっと難しい時期でもありますよね。どんなお話をされているんですか。

大野木 最初にここは表現してほしいといういくつかの条件はお伝えしましたが、ドラマは生身の方がやるものですし、監督さん脚本家さんが面白いと思うものを作ってもらうのが一番だと思って、思い切りやってくださいと伝えています。この作品は、ありがたいことにドラマ化の打診をすごくたくさんいただいて。その中でも、今回お願いすることになったテレ東さんはかなり初期からお声をかけてくださって、プロデューサーさんが毎回毎回、すごく丁寧にマンガの感想を送ってくださるんです。ドラマ制作も愛情を持ってとにかく丁寧に、熱心に作ってらっしゃるというのを感じていまして、ありがたい限りです。

梶田 制作側が愛を持って臨んでくれているというのは大事なことですよね。

大野木 まだ撮影は始まったばかりで(※取材は6月前半に行われた)、映像素材は観れていないのですが、脚本を先に読ませてもらっている限り、原作の表現を丁寧に汲んでくださっていたり、いろいろうまくアレンジされていたり、おおーいいですねという印象です。

──ドラマオリジナルキャラクターが原作に逆輸入されるというお話も、両者の関係性が良好なのかなという印象を受けました。

大野木 そうなんですよ(笑)。脚本をいただいたら、主人公の弁護士が甘党なので、行きつけの喫茶店を出したいです、と。そこの店主役が片平なぎささんなんですけど、主人公がその喫茶店で世間話をしたり、トラブルや事件の話をしたりする。「その設定めっちゃいいな!」と(笑)。左藤さんとも「なんで我々はこれをやってなかったんでしょうね?」と言い合って。それで、プロデューサーさんに「マンガでもこのキャラクターと設定を使っていいですか?」と聞いたら「ぜひ!」と。それで、ドラマの脚本をいただいた後に「こんな話を作りました」とネームをお見せしたら、「じゃあこれもドラマに活かさせてください」とまたおっしゃってくださって、逆々輸入されたり。

梶田 すごく理想的な関係に聞こえますね。やっぱりマンガの実写化でファンが満足できるケースってまだ少ないですから。俺だって何かが実写化するって聞いたら、最初は「大丈夫か?」から入りますよ。手放しで「わー、楽しみ!」となるようなオタク人生は送ってこなかった(笑)。

マフィア梶田

マフィア梶田

──梶田さんといえば、Netflixの実写映画「シティーハンター」に、海坊主役で出演されたばかりでもあります。

梶田 余談も余談ですけど。もちろん最初は「大丈夫か?」でしたよ。でも予想以上の出来栄えでしたよね。それもこれも、制作陣と(冴羽獠役の)鈴木亮平さんの「シティーハンター」に対する尋常でない愛情あってこそだと思います。俺がオファーをもらったのは、撮影まで半月もないようなくらいタイミングで……(笑)。制作陣のほうでも、海坊主を出すか出さないか、ギリギリまで話し合っていたそうなんです。とはいえオファーから半月もないんじゃ役作りも何もないですよね。しかもそのとき俺は右腕が折れていて、ギプスでガチガチの状態だったんです。でも海坊主っていう、グラサン・スキンヘッド・ヒゲ・大男。大先輩であり、キャラクター史に残る金看板ですよ。これは断っちゃダメだろうと、自分でギプスを壊して必死に役作りと身体作りをして行ったんです。でもいざ行ってみたら、出番は本当にちょろっとだけだったんで、正直なところ拍子抜けでした(笑)。ただ、その後のキャスト発表でとても多くの反響をいただいて、プロモーション稼働でも役に立てたようなので、役作りも無駄ではなかった。もし続編があるとしたら、今度こそしっかり演じてみたいですね(笑)。

──(笑)。

梶田 「しょせん他人事ですから」に関しては、題材も実写向きですし、そのまま映像化したらいい作品になりそうな気がします。今日お話を聞いて、よりその確信が強まりました。

鍵田 放送時間もいいですよね。金曜20時。主演も中島健人さんですし。

大野木 中島さんも、マンガが面白いと事あるごとに言ってくれてて、本当にありがたい限りです。すごい熱い方なんだなと思うんですけど、その熱気にあてられて、ドラマ班の皆さんが盛り上がって作ってくださってるんじゃないかなと期待しています。

梶田 ある意味この作品の主人公って、誹謗中傷する側・される側でもあるじゃないですか。きっとそのあたりを演じる役者さんが一番輝くと思うんですよね。そこも楽しみにしています。

鍵田 同じクールでの映像化というのが、本当に偶然なんですけど、「左藤さんすごいことになってるな」って、“他人事”な気持ちで眺めてます(笑)。

梶田 今回の映像化で、マンガを手に取る人が増えるのは間違いないと思います。どちらの作品も。

──どちらかの作品が面白いと思えたら、もう一方もきっと楽しめますよね。

梶田 そう思います。左藤先生の作品は、ジャンルを通り越して「この作者、ほかには何を描いてるんだろう?」って興味を抱かせるパワーがあるんですよ。原作の続きも、これからまだまだ増えていくであろう新作も楽しみにしています。

プロフィール

マフィア梶田(マフィアカジタ)

1987年10月14日生まれ。ゲームサイトや声優雑誌での記事執筆をはじめ、ラジオパーソナリティ、イベントMCなど、マルチに活躍しているフリー“なんでも”ライター。声優の中村悠一と展開しているYouTubeチャンネル「マフィア梶田と中村悠一の『わしゃがなTV』」は登録者数約80万人を誇る。

鍵田真在哉(カギタマサヤ)

講談社・モーニング編集部所属。主な担当作に「この世界は不完全すぎる」「アンメット―ある脳外科医の日記―」「マタギガンナー」など。

大野木貴史(オオノギタカシ)

白泉社・デジタル事業部所属、黒蜜編集長。主な担当作に「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」「木根さんの1人でキネマ」「こんな人生は絶対嫌だ」など。