コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第13回 小村あゆみ「うそつきリリィ」「森のたくまさん」
気軽に読める、楽しいマンガを描く
芸能界を舞台にした「Full Dozer」を完結させ、小村あゆみがマーガレット(集英社)でスタートさせた新連載は、体の大きい太めなクマ系男子との恋を描く「森のたくまさん」。女装男子を描き話題を呼んだ「うそつきリリィ」の小村が生み出す、新たなヒーロー像に期待が高まる。
コミックナタリーでは新連載開始を記念し、小村にインタビューを実施。一風変わったヒーローを描く新作についてはもちろん、“なんでもあり”なマンガならではの作品を生み出す理由を聞いた。
取材・文 / 岸野恵加
とにかく変な設定をつけてみる
──まずは前作「Full Dozer」のお話から伺えればと思います。コミカルな「うそつきリリィ」からは雰囲気が変わり、芸能界を舞台にしたドラマチックなストーリーでしたね。
「うそリリ」はトイレに置いてあったら暇つぶしで読めるような、軽く楽しい作品を目指していたんですが、「Full Dozer」ではきっちりストーリーになってるものをやってみたかったんです。
──男主人公というのも、小村さんの作品としては新鮮でした。でも予告カットを描いた時点では、茉央が主人公の予定だったとか。
そうなんです。でも茉央の見た目が決まったときに性格も固まって、かしこまったような喋り方をしだしたので「この子わからない! 私にはモノローグ描けない!」ってなっちゃって(笑)。彼女に振り回される涼真を主人公にしたら、ネームがすらすら描けたんです。基本的に設定からキャラを作っていくことが多いですね。とにかく変な設定をつけてみる。
──ブルドーザーに乗せてみたり。
あはは(笑)。茉央を考えたときに、ど真ん中で押していくイメージがあって……。芸能人を好きになったからって、追っかけをするのではなく、自分も同じ世界に行くっていう王道の努力をさせようと思ったときに、ブルドーザーが浮かんだんですね。力で押していく、みたいな。「ホントにブルドーザー出して乗せちゃったら?」って言ってくれたのは編集長だったんですけど。
──乗せるまでの予定はなかった?
はい。少女マンガの絵面としてはおかしいですよね(笑)。
──茉央のライバルとして中盤からニーナさんが登場しますが、これまたアへ顔とよだれが似合う、負けじと強烈なキャラクターでした。
ニーナさんのアへ顔はピカイチです!(笑) 出てきたときからキャラがバチッと決まってたんで、最終的には彼女が全部持っていきました。
──電子版の「にこいちマーガレット」でのスピンオフ「極上リストランテ」も、彼女が主人公でしたもんね。小村さんは「剣術小町」も電子で連載されてましたけど、配信オリジナルのマンガにも積極的に参加されてる印象があります。
たぶんワーカホリックなんです。「空いてたら載せてください。私描きたいんです!」って常に言ってる。今は連載に追われてるけど、BLもやってみたいとずっと言いながら、まだちゃんとできてないのでやってみたいですね。
トイレに単行本を置いてもらえたら勝ち
──それでは始まったばかりの新連載「森のたくまさん」についてもじっくりお聞きできればと思います。とにかくぽにょっと大きな相手役の拓眞くんが目を引きますが、どういった着想から出発したんでしょうか?
「Full Dozer」の終わりが見えてきて次のネタを考えようとなったときに、担当さんに「変態を出して」と言われまして……。いろいろ考えてみたんですが、常識人の私には変態というのがさっぱりわからなくて。とりあえず変なキャラを考えようと思って、家族に「何かネタない?」って聞いたら、母に「おデブさん」と言われて。最初は「ないわー」と思ったんですが、考えるうちに「このキャラならいける!」と思いついて描きとめたのが拓眞でした。でも最初は「えー、カッコよくない」ってかなり渋られたんですよ。この100kg超えの担当さんに……(横を見やる)。
──(担当編集の姿を見ながら)てっきり担当さんの体型にインスパイアされたのかと思っていました。
それが違うんですよ。この担当さんに「いいじゃないですか、太った男の子って!」と力説してわかってもらうという。今考えるとおかしな光景ですけど(笑)。
──ははは(笑)。拓眞はおデブさんといえど、色白で癒し系ですよね。
拓眞の触り心地はマシュマロのイメージです。ぷにぷにしてて。それに太ってるけど、中身はイケメン。レディファーストもするし、癒しの言葉もかけてくれる。でもそれがこの体型というだけで面白くなるんじゃないか、っていう仮説のもとに描いているところはあります。
──見た目はかわいいし中身は優しくて、とても魅力的だと思います。
「いける!」と思って描きとめたときにはすでに、見た目も中身も今の拓眞でした。そのとき自分がいろいろと疲れていたので、癒されたかったのかもしれません。モデルにしているのは、最近生まれた妹の子供です! ムッチムチのすっべすべでたまらないので、赤ちゃんのようなぷにぷに感を目指して描いています。
──なるほど。そう言われてみると確かに大きな赤ちゃんにも見えてきました。小村先生はもし現実に拓眞がいて交際を申し込まれたら、お付き合いすると思いますか?
昔だったら「絶対にあり得ない!」って思ってたと思いますが……拓眞ならいけるかもしれないですね。結局、外見の好みより、人間として合うか合わないかだなあと最近は思うので。年を取ったのかもしれません。でもこういう人と一緒にいると、一緒に美味しいものを食べまくって際限なく太ってしまいそうですね。……ダメだ、ただでさえ肥えてるのに。お断りすることにします!
──小村さんは肥えてるようには見えませんが(笑)。今後、花凛との関係がどうなっていくのか楽しみです。花凛はイケメン好きな、いかにも女の子らしい女の子というキャラクターですね。
花凛のアホな部分は描きやすいです。見た目が気に入ればすべてがアバタもエクボに見えるダメなところは、実際に私が持っている性分ですし。
──小村さんも見た目重視なところがあるんですか?
見た目だけで選んだ、使い勝手の悪い車に乗っています(笑)。別のパターンの花凛も出てきましたが、しっくりこなくてネームができあがりませんでした。完成した花凛は私がツッコむのと同じ感覚でツッコミをいれてくれるので、とても描きやすいですね。
──テンポのよいツッコミには「うそつきリリィ」のムードを感じました。「森のたくまさん」もコミカルな、ノリのいい作品になっていくんでしょうか?
たぶんそうなると思います。私は計算して描くのは苦手だし、シリアス路線で読者さんを楽しませることができる作家ではないみたいなので、今後の展開も特に考えてなくて。軽く明るく楽しくできればと。「バカじゃねーの」って言いながらニヤニヤできるような、毒にも薬にもならない作品を描きます! トイレに単行本を置いてもらえたら勝ちだと思っています。
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- 第1回 河原和音
- 第2回 咲坂伊緒
- 第3回 神尾葉子
- 第4回 中原アヤ
- 第5回 森下suu
- 第6回 あいだ夏波
- 第7回 やまもり三香
- 第8回 水野美波
- 第9回 幸田もも子
- 第10回 宮城理子
- 第11回 佐藤ざくり
- 第12回 椎名軽穂
- 第13回 小村あゆみ
- 第14回 いくえみ綾
- 第15回 ななじ眺
- 第16回 八田鮎子
- 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
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小村あゆみ(コムラアユミ)
1月15日生まれ。鹿児島県出身。2003年、ザ マーガレット(集英社)に掲載されたNEWまんがゼミナール入選作「アンテナ」でデビュー。マーガレット(集英社)にて2004年に 「ハイブリッドベリー」、2005年に「ミックスベジタブル」を連載。2010年より連載した「うそつきリリィ」は累計240万部を超えるヒットとなった。2015年からは「森のたくまさん」を連載中。そのほか著作に「Full Dozer」や、「シンプルホットチョコレート」「剣術小町」「Hot Milk」などの読み切り集がある。
2016年1月22日更新