久住昌之原作、安倍吉俊作画の新連載「こどものグルメ」が、Webコミック誌・comicエスタスにてスタートした。「孤独のグルメ」「花のズボラ飯」の久住と、「NieA_7」「リューシカ・リューシカ」で知られる安倍がタッグを組むことで、連載開始前から大きな反響を呼んでいる同作。小学4年生の少女・蓬野杏(よもぎのあん)が、子供ならではの発想で少し変わった料理を作っていく様子が描かれる。
コミックナタリーでは「こどものグルメ」の連載開始を記念し、作画を担当する安倍へのインタビューを実施。「全員においしいと思ってもらえなくてもいい」という同作のテーマや、企画の始まりから今後の展開についてまでをたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦
「こどものグルメ」は久住昌之がプロットを書き起こし、それを安倍吉俊がオールカラーで描いて完成させる。安倍いわく原作に忠実に描くようにしているが、ときにはセリフやコマを加えることも……ここではプロットと完成原稿を並べ、安倍の裏話を交えながら同作の制作過程を紹介していく。
小学校から元気よく家に帰ってきた杏。1人でのお留守番も慣れっこな様子で、鼻歌を口ずさみながら手を洗いに2階へ駆け上がる。
- 久住昌之のプロット
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玄関。
ガチャガチャ。外から誰かが鍵を開ける音。
ドアが開き、蓬野杏(よもぎの・あん)が入ってくる。
「ただいま」
一瞬耳をすます。
「誰もいないか」
足だけで靴を脱いで、上がる。
「だーれもいない くまのうち」
奥に入っていく。
「ソーテーナイ、ソーテーナイ」
冷蔵庫に残っていたポテトサラダを、白いご飯の上に乗せ……とんかつソースをかけ、レンジで2分ほど温めたら「ポテサラ丼」の出来上がりだ。
ポテトサラダと白いご飯は色が似てるので、色の描き分けをどうしようかと悩みました……(笑)。線を増やしすぎるとうるさくなり、おいしく見えなくなってしまいそうなので極力色で塗り分けて表現するようにしてますね。
「ポテサラ丼」の完食後、証拠隠滅のための皿洗いをしていたところに弟が帰宅。杏は姉らしさを出し、得意げに「ポテサラトースト」を作ってみせる。
- 久住昌之のプロット
「今、おとうと思いのやさしいおねーちゃまが、スペシャルなおやつ作ってあげっからね!」
「自分でいうな!」
「ほら、パンの耳にこうしてポテトサラダを塗って、ソースをかけ」
「チンしたら」
チーン
パンの耳を菜箸でブッ刺して取り出す。
まな板の上に乗せて、包丁で切る。
「はい、やさしいおねーちゃまは、ちゃんと大きいほうを弟にあげるんだなあ」
「いちいち、そういうの、ゆわないの!」
「食べてみ食べてみ」
「うん…おいしい」
「でしょでしょでんしょばと?」
「さーいこうにおいしいと思わない」
「…思う」
おとうとを抱きしめて
「きゃー、栗かわいい!」
「やーめて、あつい!」
最後のコマで
読者にウインクして「丼(どん)の方が美味いけどね!」
「作ってみようかな」と少しでも思ってもらえたらいいなと思って、最後に材料紹介の1コマを足しました。少しとぼけた食材が並んでいるのが「こどものグルメ」ならでは。 “グルメマンガのパロディ”のようなイメージで描いてます。
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安倍吉俊インタビュー
- 原作:久住昌之 作画:安倍吉俊
「こどものグルメ」 -
共働きの両親を持つ主人公・蓬野杏(よもぎのあん)は、食べることが一番の楽しみ。そんな彼女は両親の留守中、自分にしかできないおいしいものを作って食べようとさまざまな料理に挑戦し……ときには周りの人々の助言も受けつつ、“こども”ならではの発想で独自の絶品B級グルメを次々と生み出していく。
- 安倍吉俊(アベヨシトシ)
- @Yukaly作
- 1971年生まれの東京都出身。東京藝術大学美術学部日本画科を卒業し、同大学院美術研究科において絵画専攻日本画科修士課程を修了している。在学中の1994年、講談社主催の新人賞・アフタヌーン四季賞で準入選を受賞。その後、「雨の降る場所」「NieA_7」「リューシカ・リューシカ」を輩出した。またアニメ「serial experiments lain」ではキャラクター原案を手がけたほか、「灰羽連盟」では原作を担当。マンガのみならず、イラスト、キャラクターデザインなど多彩なフィールドで活躍を続ける。
- 久住昌之(クスミマサユキ)
- 1958年東京生まれ。美学校・絵文字工房で赤瀬川源平に師事する。1981年に美学校の同期生である泉晴紀と組んだ「泉昌之」として、ガロ「夜行」でデビューを果たした。1990年には実弟の久住卓也とのユニット「QBB」で発表した「中学生日記」で第45回文藝春秋漫画賞を受賞した。原作者としても活動しており、代表作に谷口ジローとの共著「孤独のグルメ」などがある。
蓬野家の間取りは、実は我が家とほぼ同じなんです。久住さんから「実感があったほうがいい作品だと思うから、自分の家や触れる範囲のものをモチーフにしたほうがいいよ」というアドバイスを受けまして。2階に洗面台やリビングがあるという、少し変わった作りになっています。