描きたいエピソードがとにかくたくさんある
──マガジンエッジ版は初期のエピソードからやっていくというお話でしたが、今後はキノ以外が主人公のエピソードも描かれるのでしょうか。
時雨沢 予定はありますね。出てこないと話が膨らまないかなと思うので、シズ組、師匠組は積極的に出せたらなと思います。連載が続いていったら、ティーやフォトの出番もあるかもしれません。
シオミヤ やりたいエピソードはたくさんあって、実は3巻まではもう描く内容が決まっているんです。2巻もすぐ出るので、時間に追われながらがんばって描いています。
時雨沢 この先はキノが平気で人を撃ったり、頭が吹っ飛んだりとグログロなシーンも出てきます。旅の過酷さは隠さずに表現したいと思って、意図的にグロく書いたりもしているんですよ。
シオミヤ 「大人の国」も、ぼかしてごまかしたりせず、迫力が伝わるように描きました。偉い人に怒られないくらいのギリギリを突いていきたいですね(笑)。
時雨沢 原作者としては、30巻くらいまで続けてくれたらありがたいんですけど(笑)。
──時雨沢さんにとって「キノ」は、ライフワークとしてずっと続けていきたい作品、という位置付けなんでしょうか。
時雨沢 絶版にならないでほしいとは思っていますが。毎年必ず1冊出すことを続けてきたんですけど、それもだんだん苦しくなってきていて。21巻を今書いてはいるんですが、新しいシリーズに本気で取り組みたい気持ちもあるし。まあ、毎年そんなこと言ってるんですけど(笑)。
シオミヤ その間もマンガが連載されていれば、ファンの方に「キノ」を届け続けることはできるのかなと思います。1話の扉絵部分に書き下ろしの文章を加えてもらったみたいに、マンガでも先生の新作が読めるという要素があれば、原作ファンにも喜んでもらえると思いますし。
時雨沢 コミックオリジナルの新作エピソードを作ってしまうのもいいですね。シオミヤさんにオリジナルのキャラクターや国の設定を作ってもらって、私がそれにお話を付けていくみたいな。そういう企画もあると面白いですね。
原作者が言うのもなんですが、面白いですよ
──「キノの旅」がこれだけ長く愛されている理由はなんだと思いますか。
時雨沢 なんでしょう(笑)。最初のうちにがんばってたくさん出したことと、黒星さんのイラストの力とで、スタートダッシュがうまくいったっていうのはあると思うんですけど。私としてはいつの時代でも楽しめるような、普遍的な作品になるように書いているので、そのあたりが受け入れられたのかなという気もします。
シオミヤ 僕はコミカライズをやらせていただいて、「キノ」は1種の発明だと思ったんです。国が1つのキャラクターとして機能しているなんて、ほかの作品にはないですよね。マンガでも、そうした魅力をしっかり伝えられればと思って作っています。
時雨沢 17年もやっていると、昔の読者はすっかり大人になってしまっているので、もうライトノベルは読んでないって人がたくさんいると思うんです。そういう一度離れちゃった人にも、アニメやマンガでまた「キノ」を楽しんでもらえるのがうれしいですね。もちろんこれからアニメが始まって、新たに「キノ」を知る人も増えると思うんです。そういう人が「よし、原作も読んでみるか」と思ってくれたときに、20冊もあるとなかなか手が出ない。「じゃあまずはマンガから」と手に取ってもらえるのもありがたいですね。
──では最後に、この特集を読まれた方へメッセージをお願いします。
シオミヤ マガジンエッジは少し若い世代向けの雑誌なんですが、「キノの旅」は僕と同世代の方にも読んでいただける作品です。単行本なら手に取りやすいと思うので、久しぶりにキノに触れる人も、「こんな話あったな」とか「小説ではこういう風に感じたけどマンガで読むとまた違う感じだな」とかいろいろ発見があると思うので、そういう部分も含めて楽しんでもらえたらと思います。
時雨沢 原作者が言うのもなんですが、このマンガ面白いですよ。アニメで入った方にもちょうどいいですし、教育上とても大切なことが書いてあるので、お子さんへのプレゼントにも最適です。原作者もがんばって関わっている渾身のコミカライズなので、ぜひよろしくお願いいたします。
- 原作:時雨沢恵一 マンガ:シオミヤイルカ
「キノの旅 the Beautiful World①」 - 発売中 / 講談社
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。
- 時雨沢恵一(シグサワケイイチ)
- 1972年生まれ、神奈川県出身。2000年に第6回電撃ゲーム小説大賞で最終候補作に残った「キノの旅」で作家デビュー。原作小説は20巻まで発売中。代表作に「キノの旅 the Beautiful World」「一つの大陸の物語シリーズ」「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」など多数。
- シオミヤイルカ
- 1983年生まれ。2005年に文芸誌ファウストにて、錦メガネ「コンバージョン・ブルー」の挿絵イラストを担当し、イラストレーターとしてデビュー。代表作に「零崎双識の人間試験」「非実在推理少女あ~や」など。