ほたるとこまこの関係性は収録ブースにも滲み出ていた
──人間サイドについてもお話を伺いたいと思います。まず、きのこいぬと同居をしている絵本作家の夕闇ほたるについて、上村さんはどのように演じようとされましたか?
上村 第1話の収録の際に音響監督の吉田さんがおっしゃったんですが、特に序盤は大きな展開があるわけではないので、なるべく自然な雰囲気を出すように演じてほしいというお話があったんです。なので、掛け合いでもそんなゆったりとした気持ちを出せるように探りながらやっていきました。
久野 祐翔くんが演じているほたるの温度感がとても素敵だなぁと思っていて。ほたるは感情をあまり表に出さないキャラクターですけど、そういった部分を敢えて誇張せずにお芝居されているからこそ、本当にほたるという人間が存在するような気がするんですよね。
永瀬 ほたるは愛犬を亡くして閉じこもっていたんですよね。世界から切り離されたような雰囲気すら纏っていて、こまことしてもどう声をかけていいのか分からなかった。その空気感もお芝居から醸し出ていた気がします。そこからきのこいぬが登場して徐々に話しかけやすい雰囲気を作ってくださったので、本当に素晴らしかったです!
上村 かたじけない……!
──そんなほたるの幼なじみで担当編集でもある天野こまこについては、永瀬さんはどのようにキャラクター性を捉えていますか?
永瀬 こまこはいい意味でも悪い意味でもめちゃくちゃ常識人なんですよね。なので、とても気を使うからこそ、ほたるにどう声をかけていいのかわからないんです。ほたるに傷ついてほしくもないので、核心を突くようなこともできないんですよ。でも、そんなところにきのこいぬが現れたことで、彼が徐々に心を開いていきます。こまこは自分がほたるの心を開くきっかけになれなかった寂しさも抱えつつ、大切な1人だと思われていることを再認識していく女性なのだなと感じながら演じていました。
上村 ほたるは最初なんて完全に心を閉ざしているんですよ。人との会話をするときはかろうじて声を発していますけど、ほとんど心に届いていないんですよね。そんな彼をこまこは支えてくれているんですけど、アンナちゃんのお芝居からその気持ちがとても滲み出ていた気がします。収録中も支えてくれている感を感じてました。
小林 こまこはほたるの対人関係における芯ですからね。2人の掛け合いは収録ブースの後ろで見ていて、回を経るごとにいい関係性になっているなと思っていました。どんどん仲良くなれてよかったね、といいますか……。
久野 こまこがいてくれることで、この物語が進んでいく部分もあるんですよね。ほたるに対して、いつも働きかけてくれるから。相手に話しかけたり歩み寄ったりすることは、すごくエネルギーが必要なんだろうなって。自分から動くのって、とても勇気がいることだなぁと私自身も最近実感していて。アンナちゃんのお芝居は、心からの素直な行動なんだなって伝わってくるんですよね。こまこにとってほたるは、特別な存在だからこそなんだと思います。
「きのこいぬ」はあまり構えず、ゆったり観てほしい
──皆さんはすでに完成映像をご覧になっていると伺いましたが、特にどんな描写がお気に入りなのかお教えください。
上村 いっぱいお気に入りのシーンはありますけど、一番は矢良くんの登場ですかね。もう音楽がズルいんですよ。某洋画のような雰囲気すらあって……。SEも凝っているので、そこにもぜひ注目していただきたいですね。そういえば、大紀はダビング作業を見学したんだよね?
小林 そうそう。吉田さんがとてもこだわって、矢良くんの髪の毛にSEを付けていました。もっと響かせましょうとか、もう少し鋭い音が欲しいです、とか、効果さんにいろいろ指示を出されていましたね。あと、「きのこいぬ」は背景美術も最高なんですよ。
久野 私も言おうと思ってた……! 本当に素敵なんだよね。
小林 思わず見入っちゃうレベルです。きのこいぬがデフォルメされたキャラクターなだけに、どんな背景になるんだろうと思っていたらとても写実的なものになっていて。例えば梅雨の季節なら水滴の表現から湿度感すら伝わってくるんですよ。
久野 2人が住んでいる平屋の美術がとても好きなんですよね。私がああいう縁側のある平屋で暮らすのが夢っていうのもあるんですけど(笑)。庭のお花や植物からも季節感を感じられて。画面からぬくもりや匂いが伝わってくるので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
永瀬 画で挙げるのであれば、誇張しすぎていない演出も推したいです。アニメって、感情に動きがあるシーンだと顔がとても動いたり目の瞳孔が開いたりする演出を入れることがありますけど、この作品はいい意味でそういうシーンがないんですよね。視聴者に解釈を委ねるような間の使い方をしていて、とてもいい気持ちになれるんです。それだけにきのこいぬの異質感がクローズアップされるんですけど(笑)。
小林 確かに、画と一緒にお芝居をさせていただいている感覚はありますね。
──そんな作品を皆さんはどのようにご覧いただきたいですか?
久野 まずはあまり構えずにご覧いただきたいです。「きのこいぬ」はゆったりとした心持ちで楽しめる作品だと思っています。人間役のキャストさんたちのお芝居もナチュラルで素敵ですし、音楽や効果音も合わせて耳心地がとても良いんです。温かい気持ちになれる作品なので、ふわっと軽い心持ちで第1話をご覧いただきたいですね。
永瀬 普段生活をしていると、SNSの情報の速さや電車の人の多さで心が焦ることもあると思うんです。でも、「きのこいぬ」はそんな喧騒から離れられて、ゆったりとした時間を楽しめる作品です。クスッと笑えるところもあるので、心を明るくしたいときにオススメします!
上村 「きのこいぬ」は大切なんだけど気がつくと忘れているものを思い出させてくれる、大人にこそ観ていただきたい作品です。ペットを飼っている方とか、何か大切にする相手がいる方にこそオススメしたいですね。
小林 僕は、「きのこいぬ」って最高のお酒のつまみになる作品だと思っているんです。仕事から帰ってきて、晩酌するぞというタイミングにとても合っているんですよね。ノスタルジーに浸ってもよし、お子さんがいらっしゃる方はきのこいぬのギャグシーンを一緒に楽しむもよし。とてもキャッチーなシーンもあるので、ゆったりとした気分で「きのこいぬ」に癒されて欲しいですね。気づいたら視聴を継続しているような、噛めば噛むほど楽しめる作品だと思います。
(余談)きのこいぬで出汁を取り、一緒にきのこ汁を食べたい
──ちなみに、皆さんがもしきのこいぬと出会われたら、どんなことをやってみたいですか?
上村 まず信じられないじゃないですか。自分の家の庭からきのこいぬが現れるなんて……。なので、僕は嘘だと思って一度縁側の扉を閉じる、です。
──まさかのやりたいこと、というよりも現実逃避。
上村 1回布団に戻って、どうするか考えます。何かをしたい、というよりも何者なのかの方が気になりますからね。
久野 私はおしゃべりしてみたいですね。きのこいぬの鳴き声を真似してみたり。あと、きのこいぬが大好きな、たこ焼きを食べさせてあげたいな。一緒にたこ焼きも作りたい! 楽しそう!
永瀬 うーん。私はきのこいぬで出汁を取って、一緒にきのこ汁を食べたいです。
久野 アンナちゃん、それ見出しになっちゃう(笑)。
小林 え、ちょっと待って。きのこいぬを食べるの?
永瀬 あ、違います(笑)。ほら、きのこいぬとお風呂に一緒に入ると出汁が出るって話があったじゃないですか! もし本当に出汁が取れたなら、一緒にきのこ汁を作りたいなって。
上村 これが君の味だよ、ってこと? ちょっと怖い。
小林 まあ、身体も洗えて一石二鳥だもんね。
上村 大紀もそっちサイドなの!?
プロフィール
小林大紀(コバヤシダイキ)
9月23日生まれ、大阪府出身。81プロデュース所属。主な出演作に「フューチャーカード 神バディファイト」(星詠スバル役)、「魔法使いの嫁 SEASON2」(ゾーイ・アイビー役)、「WIND BREAKER」(柿内侑凛役)、「100%パスカル先生」(金森スティーブ役)、「地縛少年花子くん」(ミツバ役)など。
上村祐翔(ウエムラユウト)
1993年10月23日生まれ、埼玉県出身。劇団ひまわり所属。主な出演作に「文豪ストレイドッグス」(中島敦役)、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」(ヒロ役)、「ヴィンランド・サガ」(トルフィン役)、「多数欠」(成田実篤)など。パンシェルジュ検定1級を保持。
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永瀬アンナ(ナガセアンナ)
3月31日生まれ、東京都出身。81プロデュース所属。2022年に「第17回声優アワード」新人声優賞を受賞。主な出演作に「異世界スーサイド・スクワッド」(ハーレイ・クイン役)、「サマータイムレンダ」(小舟潮役)、「呪術廻戦」(天内理子役)など。
久野美咲(クノミサキ)
1993年1月19日生まれ、東京都出身。大沢事務所所属。主な出演作に「ライジングインパクト」(七海ガウェイン役)、「七つの大罪」(ホーク役)、「3月のライオン」(川本モモ役)、「リコリス・リコイル」(クルミ役)、「メイドインアビス 烈日の黄金郷」(イルミューイ、ファプタ役)、「アイドルマスター シンデレラガールズ」(市原仁奈役)など。