「鬼人幻燈抄」|八代拓も夢中! 江戸~平成を描く和風ファンタジー巨編 一気にのめり込む小説「鬼人幻燈抄」の魅力を解説

「あなたはなぜ生きていくのですか?」という問いかけ

──八代さんが一番印象に残ったシーンはどこですか?

「鬼人幻燈抄」コミカライズ版より、白雪。

甚太と白雪が1日出かけることになって、白雪が甚太にある告白をするシーンが好きです。2人のやり取りが温かいけど切なくて、ちょっとむずがゆい、みたいな。甚太と白雪も、ともに芯の通った人物だと感じていたので、愚直と言ってしまえるほどまっすぐな2人の信念が一番表現されているシーンだと思いました。

──あのシーンは本当に切なかったですね……。

文章や会話で2人の表情を想像してしまって切なかったです……。甚太と白雪は2人とも立場が複雑なんですが、お互いを愛する理由が逆に愛せない理由にもなってしまうというのがなんとも苦しく、でも2人らしいと感じるのがもどかしいシーンでした。

──ちなみに、作中で心に残ったセリフはなにかありましたか?

参加させていただいたCMでも登場するのですが、「人よ何故刀を振るうのか」という言葉が最も印象的でした。甚太は自分について「刀を振るうことしかできない」と言っているんですが、そんな彼に対して投げかけられたこのセリフは「あなたはなぜ生きていくのですか?」という問いかけとイコールだと思うんです。今までは明確な役目として、巫女を守り、鬼を討つという目的があったわけなんですが、斬るべき存在であった鬼が、本当に斬るべきものなのかわからなくなるという物語なので、この言葉は甚太にものすごく重くのしかかる言葉だと思います。

──確かに、物語全体のキーになる言葉ですよね。

しかも甚太がこれまで戦ってきた存在である鬼から投げかけられる言葉なので、甚太にずっと付きまとうものになると思います。圧倒的に重みのある言葉で、作中で2度ほど登場しますが、1番目と2番目では全然印象が違いますね。

とてもエモかったですよね……

──9月にはコミカライズ版の単行本も発売されます。八代さんはこちらも数話読んでいただいているそうですが、いかがでしたか?

「鬼人幻燈抄」コミカライズ版より、鈴音。

ライトな言い方になってしまうんですが、とてもエモかったですよね……。コミカライズでは1巻のエピローグが冒頭で描かれているんですが、「うわー!」とうれしくなって! マンガはもちろん絵になっているので、登場人物たちの魅力がとても伝わりやすいですし、小説でも感じていましたけど鈴音のかわいさに改めてやられました(笑)。

──(笑)。コミカライズ版の鈴音は小柄でとてもかわいらしく描かれていましたね。

こんなかわいい妹、絶対守る!という気になって(笑)。小説を読んでからコミカライズに触れたので、僕の中では「このシーンはやっぱりこういう表情だよね!」という、ある種答え合わせのような感覚もありました。甚太はそもそもクールなキャラクターなので表情が豊かという感じではないんですが、微妙な差でも1コマ1コマ感情が表現されていて、うれしかったです。清正もコミックでは想像通りで「これこれ!」と思いました。

──アクションシーンは小説でも手に汗握るほど迫力がありましたが、コミカライズ版で読んでみていかがでしたか?

戦っている人たちの表情やスピード感が、小説とはまた違ったリアルさで描かれるので、「また楽しめる要素が増えてる!」とうれしくなりました! 小説では文章を読んで頭で思い描きますけど、マンガだとそのまま頭に入ってくるのでスピード感が上がる気がします。

──八代さんのように小説を読んでからコミック版を読んでも物語に没頭できますし、その逆でも楽しめそうですね。

自分の好きな作品がマンガになるって喜ばしいことですし、ありがたみを感じますね。でもさらに欲を言えば、ぜひともアニメでも観たい! 

──ストーリーも世界観も幻想的ですし、アニメになったら素敵ですね! 今回八代さんはCMのナレーションを担当されましたが、収録ではどんなことを意識されたんでしょうか。

この物語は内容がけっこうシリアスでディープなので、力強さが欲しいなと思っていたんです。音楽や絵柄で和風ファンタジーという設定や世界観の雰囲気は視聴者の方にわかっていただけると思ったので、ナレーションという部分では作品全体の重厚な空気を伝えられるように意識しました。

──なるほど、今回のCMをきっかけに「鬼人幻燈抄」シリーズを知る人もいるかと思いますが、八代さんはどんな人に読んでほしいでしょうか?

僕自身は小さい頃からあまり本を読むタイプじゃなかったんですが、そんな僕でもものすごく入り込めました。1、2日で読めちゃうほどのめり込めるので、普段からあまり本を読まない人でも楽しめると思いますし、この読み応えは、読書家の人でも十分満足いただけると思います。欲張りですけど、たくさんの人に広まってほしいですね。

──もし八代さんが周囲の方にオススメするとしたら、どういうポイントを推したいですか?

今回読ませていただいた1巻で言うと、愛するがゆえに愛せないっていう切なさってたまらないなと僕は強く思いました。自分が願うことを叶えるためには愛し合えない、っていう苦しさと悲しさが詰まっている物語なんだよということをアピールしたいです。もう1つはやっぱり「自分はなんのために生きているのか」というメッセージが、自分自身にも刺さる点だったので、その点も考えさせられる物語だとオススメしたいと思います。

八代拓(ヤシロタク)
1月6日生まれ、岩手県出身。2013年に声優デビューし、2016年に「タイガーマスクW」の東ナオト/タイガーマスク役で初主演を務めた。2018年には第12回声優アワード新人男優賞を受賞。近年の出演作には「遊☆戯☆王SEVENS」ルーク役、「炎炎ノ消防隊」ヴァルカン役、「聖女の魔力は万能です」ジュード役、「月が導く異世界道中」ライム=ラテ役、「不滅のあなたへ」グーグー(青年期)役、「RE-MAIN」垣花慶太役、「劇場編集版 かくしごと ―ひめごとはなんですか―」志治仰役がある。