取材して描くタイプのマンガじゃないと、描けない

──よくわかりました（笑）。物語の起点、重田不動産がある場所を吉祥寺にした理由を教えていただけますか？

マキ　吉祥寺がほぼ地元なんです。でもバウスシアターがなくなったときに、私は吉祥寺の何かがひとつ終わったような気がして。それをマンガにしたいと思いました。それに吉祥寺は「住みたい街ナンバーワン」ってずっと言われてるから、ほかの街よりいいかなと。

──第1話の第一声が「吉祥寺も終わったな」でしたね。

マキ　あれはもう私の気持ちですね（笑）。好きなものがどんどんなくなってしまって、どこにでもあるものが増えてきて……いい街ってなんだ？という疑問が湧いてきたんです。

──いい街……難しいですね。

マキ　はい。不動産をテーマにしたマンガを、と編集から提案されたんですが、もうすでに不動産マンガは世の中に何作もあったので。街をテーマにしたほうがいいんじゃないかと話し合い、今の形になりました。

──「吉祥寺」も「ティファニー」も、取材がとても重要になる作品ですよね。

マキ　重要になるというか、私は取材しないとマンガを描けないんです。想像力を使ってマンガを描いていたときもありましたが、今はもう取材して描くタイプのマンガじゃないと描けない。想像でゼロから作る才能はないってわかったんです。

編集　取材するようになったのはいつからですか？

マキ　「ティファニー」からですね。

──ではもう3年以上取材し続けているということですね。取材に対するこだわりを教えていただけますか？

マキ　「何回も歩いて、何回も食べる」です。どちらのマンガにも実在のお店が出るので、想像で描くのは読者に失礼だなと思っています。ちゃんと、自分がいいなと思うものを登場させています。

──綿密な取材に基づいたマンガだと、読者としても信頼できます。毎月どのくらい取材に費やしているのでしょうか。

マキ　月の前半はガッツリ取材、後半はガッツリ原稿執筆ですね。実は昨日までニューヨークに行っていて……これは半分プライベート、半分「ティファニー」の取材でした。

今後はリノベーションをもうひとつの軸に

川田　そういえば、蔵前は「東京のブルックリン」と呼ばれているらしいですね。

マキ　え、なんで？

川田　空き物件をリノベーションして、そこにおしゃれなショップやアトリエとかが入っているからだと思います。

マキ　へー……あ、隅田川が流れていますね。見開きページは隅田川にしようかな。ゲストキャラはどうしよう。川田さんの周りで、蔵前に住んでいる人はいますか？

川田　蔵前はいないですが、知り合いの写真家が浅草に住んでますよ。

マキ　写真家、ゲストキャラにいいですね！ その人はどんな悩みがあるのかな。どんなときに隅田川を見るんだろう。

──ゲストキャラは悩みや閉塞感を抱えている女性が多いですね。双子はあっけらかんとしてるので、対照的だなと思いました。

マキ　ゲストキャラには引越しに何かしら理由が必要だと思ってます。超ハッピーな人でもいいんですけどね（笑）。双子は物語を通して成長するという感じのキャラではないので、今後は家を成長させようと思ってるんですよ。

──家を成長……ですか？

マキ　はい。今まではお客さんが不動産屋に来て、物件を紹介して……という展開だったんですけど、もうひとつ双子が自分たちの家をリノベーションしていく、という軸を増やす予定です。

──楽しみです！ そろそろ蔵前を一周しましたが、現段階でどんなエピソードができそうですか？

マキ　全然固まってないです（笑）。カフェが好きな、ニューヨーク帰りのカメラマンの女の子がゲストキャラ。フォトジェニックな浅草も近いし、カフェが好きだから蔵前に……という感じかな。ただ全然違うキャラになる可能性もあります。この後1人で何回か取材して決めます。

川田　蔵前はニューヨークじゃなくて東京のブルックリンですけど、大丈夫ですか？

マキ　（笑）。

──どんなエピソードで、どんなゲストキャラになるのか楽しみです！ ありがとうございました。