10月9日より放送されるオリジナルアニメ「川越ボーイズ・シング」は、埼玉にある高校・川越学園のボーイズ・クワイア部を舞台にした熱血青春コメディ。過去のトラウマから大好きな歌を人前で歌うことができない高校2年生の“だんぼっち”をはじめ、ひと癖もふた癖もある生徒たちが、やや問題アリな性格でオーケストラから追放された元指揮者・響春男と出会い、新設のボーイズ・クワイア部で全国コンクールの優勝を目指すさまが描かれる。
連載第2回では、第1回に引き続き“だんぼっち”こと出井天使役の鵜澤正太郎と、響春男役の興津和幸にインタビュー。鵜澤をはじめとするフレッシュな生徒役キャストについて、顧問として彼らを見守った興津は何を感じたのか。そして「大人げない」「空気読めない」「暴言吐かずにいられない」という“人格三重苦”でありながら、部員たちを引っ張っていく春男先生の魅力とは。
取材・文 / 柳川春香撮影 / 小川遼
新しい生徒が来るたびに刺激を受けた
──鵜澤さんと興津さんは、この「川越ボーイズ・シング」が初共演ですか?
鵜澤正太郎 メインで掛け合ったりするのは初めてでした。最初にご一緒したのは「風が強く吹いている」という作品で、僕はまだ声優として活動し始めて1、2年目だったので、「興津さんだ!」ってすごく緊張していて……。
興津和幸 いやいや、ほかにいっぱいすごい人がいたでしょ(笑)。今回も負けず劣らず濃ゆいメンバーが揃ってますけど。
──「川越ボーイズ・シング」は鵜澤さん演じるだんぼっちと、興津さん演じる春男先生との出会いから物語が動き出します。アフレコはもう終えられているそうですが、実際にメインで共演されてみていかがでしたか?
鵜澤 もちろん「共演できてうれしい!」という気持ちが一番だったんですが、僕はけっこう役に入り込んで、“興津さん”っていうよりは“春男先生”というふうに見えてしまうタイプで。ついだんぼっちの目線になって、土田(玲央)さんや小原(悠輝)さんのことも“えいちゃん”“トリちゃん”って役名で呼んじゃったり。だから興津さんに対しても、どこかだんぼっちと春男先生との関係や距離感を意識してしまうというか。
興津 だんぼっちは引きこもりだからね(笑)。段ボールの中で歌ってる人だから。
鵜澤 そうなんです。ほんとの鵜澤正太郎はポジティブだし陽キャっぽいんですけど(笑)、僕が興津さんに対してちょっと緊張している気持ちや、その初対面感のようなものも、演技に乗せられるんじゃないかと思って、大事にしていたかなと思います。
──だんぼっちは春男先生にちょっとビビってますもんね。興津さんは、鵜澤さんにどんな印象を持ちましたか?
興津 すごくポジティブな方という印象を受けました。いい意味で「僕が主役だぞ!」っていうのを全面に押し出していて(笑)。
鵜澤 そうですか!?(笑)
興津 ほかのキャラクターがほんとに曲者ばかりの中で、「このクワイア部を僕が支えるんだ!」という雰囲気が出ていてよかったですね。春男先生は嫌々クワイア部の顧問になって、基本的には生徒のみんなに興味がないから、演じるうえではチームワークは気にしなくていいんですけど(笑)。でもクワイア部の仲間たちは仲間たちで空気を作っていく役どころであるから、「みんなでがんばろうぜ!」って空気を作れていて、そういうがんばっている姿が見れてすごくいい現場だなって思いました。
鵜澤 途中からアフレコが生徒組と先生組で分かれたんですが、興津さんは自分の収録が終わった後に「まだ時間あるから」って僕たちのアフレコを見ていてくださっていたんです。それがすごくうれしくて。
興津 だって、わけがわからなかったから(笑)。ITくんとかオトメくんとか、生徒が濃いキャラばっかりで。キャラだけじゃなくキャストのみんなも会ったことない人だったり、アニメのアフレコは初めてという人もいたから、「こんな生徒たちなんだな」って思いながら見てました。「新しい魅力をここに集めました」「枠にはまったようなものは出しませんよ」っていう制作陣の気持ちが伝わってきましたし、新しい生徒が来るたびに「この子は面白いお芝居するな」って、こっちもすごく刺激を受けて楽しかったです。
鵜澤 僕は興津さんがほかのキャストさんに、「心や気持ちを大事にしたほうがいいよ」ってアドバイスされていたのをすごく覚えてます。ボールド(セリフを言うタイミングを示す印)に合わせようとか、台本に書いてある通りしゃべろうとかじゃなくて、思った通りに素直にやるといいよって。休憩中の軽いお話なんですけど、そうやって教えてくださるって当たり前のことではないので。
興津 アニメって呼吸と動きと声のお芝居とがうまく混ざり合ってできるから、絶対に外しちゃいけないポイントだけは押さえないとだけど、全部はめてると演技がちっちゃくなるから、それだと役者の個性が出てこないし。そのあたり、この作品は面白いと思いますよ。
──本当に先生と生徒みたいですね。
興津 全然、僕が教えることなんて何もないです。アニメが初めての人が多かったから、音響監督の菊田(浩巳)さんがすごく丁寧にみんなに教えていました。菊田さんは、この作品の指揮者だったと思います。見たことない楽器がいっぱい集まっているから、この楽器をどう磨けばよりいい音が出るだろう?って考えてくれていた存在でした。
鵜澤 あと、だんぼっちのお母さん役の新井里美さんとも最初のほうで一緒に録らせてもらったんですが、本当に素敵なお母さんで。僕が座長に慣れていないということもあって、収録中はもちろん、休憩中もいろんなお話をしてくださって、現場の雰囲気をよくしてくださって。本当に皆さんに助けられてマイク前に立てていたなって思います。
だんぼっちがそれでも春男についていく理由
──第1回では生徒のお話を中心に聞いたので、今回は春男先生についてたっぷり伺っていきたいと思います。実は脚本を先に読ませていただいたときは、春男はもっと冷たい人という印象だったんです。それが映像で観たときに、だいぶチャーミングな印象に変わって。
興津 見た目と声に騙されていますね(笑)。
──あはは(笑)。
興津 第1話のアフレコのときも、「春男ってどういう人なんだろう?」「どういうふうに春男を作っていこうか」っていうすり合わせに、すごく時間がかかった印象があります。クレイジーなんだけど見た目は柔らかいし、穏やかな先生でないとクワイア部の子たちを引っ張っていけないから、その塩梅がとても難しくて。冷たくて怖い人になりすぎず、でもふざけすぎると作品のテイストにも合わなくて、共通認識としての春男を作るのに一番時間がかかりましたね。
鵜澤 第1話の最初のテストでは、僕も含め、もっとギャグっぽい世界観で演じていたんですよ。そうじゃなくて、コメディではあるものの、もっと現実世界にあるような、ちゃんと存在しているものとして作っていきたい、という方向性を説明していただいて。第1話のアフレコでしっかり時間をかけて世界観を作っていったのを覚えています。
興津 オリジナル作品なので、現場で演じたものを聴いて初めてわかることもあったでしょうし。「みんなで作ってるんだな」っていうのが実感できて楽しかったですね。春男も、演じるうえでは楽しかったです。こういうよくわからない人は好きなので。クレイジーだと思われたい(笑)。
──では、だんぼっちを演じる鵜澤さんから観た春男先生はどんな人ですか?
鵜澤 興津さんが演じられる春男先生は、言ってることや人への接し方には確かにきつい部分はあるんですが、それでも憎めないというか。めちゃくちゃな先生だけどちょっとずつ惹かれるものがあって、だんぼっちも心を開いていくし、それは興津さんが演じた春男先生だから、というのは絶対あると思います。それに加えて、だんぼっちは春男先生の「音楽が好き」っていう気持ちが好きなんだと思うんです。
興津 そこは揺るがないですもんね。
鵜澤 性格的にはちょっと苦手な人だったとしても(笑)、春男先生の「音楽が好き」って気持ちがだんぼっちに響いて、だから「この人についていこう」って思えたんじゃないかと。春男先生に「いいじゃん、やっちゃえばいいじゃん!」って言われて、だんだん「これでもいいのかな」って思えてくる。そういう部分を引っ張り出してくれる先生ですね。
──前回のインタビューで鵜澤さんは合唱コンクールをがんばるタイプだったとおっしゃってましたが、春男先生みたいな人が指導者だったら、ついていきますか?
鵜澤 もちろん!……いや、どうなんですかね……?(笑)
興津 正しいことしか言わないよ?
鵜澤 でも、みんなのメンタルが持たないと思います(笑)。僕たちはクワイア部で、音楽が好きだから食らいついていけますけど、春男先生が普通に音楽の授業をやったら、どの生徒にもそれをやっちゃうと思うので「あの先生、無理!」ってなっちゃうかもしれない(笑)。
興津 「音楽が好きならここまでできるでしょ」っていうね。「やるならちゃんとやれよ」って、その部分を絶対に譲らない。僕は受けたくないですね(笑)。
──逆に、興津さんが春男に共感できるところはありますか?
興津 点数をつけるのは好きです(笑)。春男は勝手に人の歌声に点数をつけるんですが、人それぞれどの段階にいるのかは違うし、顧問としてはその人に合った教え方をしなきゃいけないから、そういう意味では点数という枠に一旦はめるのは、教え方として理にかなってると思うんですよね。春男のそういうところは冷静でいいなって思います。ただ、人の心はもうちょっと慮ったほうがいいかなって思いますけど(笑)。
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コメディだからといって嘘をつきすぎない