ああ、だからみんな、ちょっと顔色悪かったんだ……
──エンディング曲「夢の中へ」も歌われていました。
父が井上陽水さんを好きだったのでよく聴いてたんですけど、この曲を選ぶのが渋いなと。でもすごくぴったり合ってましたよね。
──ソロバージョンと、鈴木さんとのデュエットバージョン、2種類が使われていましたね。
デュエットは、私とちいちゃんがそれぞれに1曲歌いきったものを録音して、それを組み合わせている感じですね。テイクを繋げているときに足りない部分があって、「ここもう1回歌おう」ってなったんですけど、当時声帯が安定していなかったので声が変わっちゃって、全部録り直すことになったんです。それで、音域の確認をしたいんだけど時間がないから、編曲家さんに直接電話してくれって言われて(笑)。それが光宗信吉さんだったんですけど、私、林原めぐみさんが歌ってる「宇宙の騎士テッカマンブレードII」の「Nostalgic Lover」という曲がすごく好きで、それも光宗さんなんです。うれしくて、「はじめまして。あの曲好きなんです!」って伝えながらキーチェックしましたね(笑)。懐かしいなあ。
──エンディング映像は、アニメではなく毎回学校の中などに設置されたレールの上をカメラが巡っていく実写映像でした。これも斬新でしたね。
ね。それも全然知らなくて、いつもオンエアで初めて見てました。
──(笑)。
AパートとBパートの休憩の間にだいたい撮影セットが組まれて。突然摩砂雪さんとかが汽車のレール引いて、汽車にカメラ載せて撮ったり(笑)。麻里安と(月野役の渡邉)由紀が顔出しで出てた次回予告も、毎回そのタイミングで撮ってました。2人ともスッピンだったし、今やったら事務所に怒られそうですよね(笑)。あとは毎回いろんな方がゲスト声優としていらっしゃってましたね。一馬のバンドのメンバーで樋口真嗣さん、貞本義行さんが出てたり(笑)。
──(ブックレットのクレジットを見て)本当だ、キャストのところに名前がありますね(笑)。実験的なことが多い現場で、今回のBlu-ray BOXのブックレットは、庵野監督や平松禎史さん、今石洋之さん、プロデューサーなどの証言から、当時の制作現場の状況が克明にうかがい知れる内容になっています。ご覧になったということで、いかがでしたか?
アニメ「彼氏彼女の事情 Blu-ray BOX」に同梱されたブックレットより。
もう、知らないことがたくさんありました! スタッフさんに若い才能を積極的に起用していたっていうことも知らなかった。人が初めて何かをやるときって、めちゃくちゃがんばるじゃないですか。そういうフレッシュさもいっぱい詰まった作品なんだなと感じました。(プロデューサーの)松倉(友二)さんのお話とか、すごく面白かったです。ああ、だからみんな当時、ちょっと顔色悪かったんだ……って(笑)。
──あはは(笑)。
こんなにハードな状況で作られていたって当時はまったくわからなくて。逆に演者にはそれを見せないように、守ってくださっていたんだろうなと。
──演技に集中させてもらっていた。
はい。何が起きても、いつも演者の私がやらなきゃいけないことは変わらない。そこは度胸がついたというか。「いきなりビッグタイトルの主演で、プレッシャーを感じましたか?」と聞かれることも多かったんですけど、最後まで全然感じてなくて。どうスタジオでがんばれるか、スタッフさんと私たちのクリエイションについてしか、頭になかったです。何があっても私はこの雪野という役を演じきることが仕事だと思ってやっていました。
ちいちゃんの声に有馬を感じて、当時を思い出す
──冒頭で挙げていただいた第2話のほか、全26話の中で、印象深かったシーンや、特に好きなシーンを挙げるとすると?
第18話、雪野と有馬が川沿いで話しているシーンがすごく好きです。雪野がすごくリラックスしてるんですよね。家族といるような空気感になっているというか、有馬くんと一緒にいることが普通になってる。カップルっぽい空気感が出てるなと思いました。自分もアフレコに慣れてきて、自由に表現ができた記憶があります。
──榎本さんは鈴木さんともともと同じ事務所だったんですよね。この作品はとにかく雪野と有馬の関係性というか、2人の雰囲気が大事になってくると思うんですが、当時2人で演技について話したりはしていましたか。
クラスメイトみたいな感じでしたね。ちいちゃんは舞台の理論をベースとしたお芝居をしていたので、意気投合して何か話すっていう感じではなかったです。今のほうが仲がいいかな。約束してどこかに行くってことではないですけど、会ったらすごくホッとするというか。ちいちゃんの演じる有馬くんの声が、すごく好きで。
──優しく語りかけるような声が、まさに有馬くんのイメージぴったりだなと感じていました。
でもちいちゃん本人はあんまり有馬くんには似ていないですね。ああいう性質を持ってはいると思うんですけど、人当たりがよくてひょうきんで、明るいタイプ。
──では、榎本さんは雪野にシンクロしていた一方で、鈴木さんは役に入り込んで自分の中に有馬を作っていた?
もしかしたらそうなのかもしれないですね。有馬はだんだん深い心の闇に落ちていってしまうけど、ちいちゃんはそういう感じではない。でも有馬の声はちいちゃんの地声とも違って、だいぶ低くしていて。彼の中に有馬くんのスイッチがあるように思います。
──ほかの作品、役のときにはないスイッチが。
はい。ああいう役をやってるところ、ほかで見たことないです。ちいちゃんも探りながら作っていってたんじゃないかな。でも有馬役が知っている相手でよかったなとは思います。はじめましてで出会って有馬と雪野になるよりは。ミスしても、お互い様みたいなところがあって。ずっとセットでお芝居を録ることが多かったですが、信頼関係を感じていました。
──3月上旬に、「Landreaall」の収録で久々に会ったとツイートしていましたね(参照:榎本温子 (@atsuko_bewe) | Twitter)。「初恋の思い出」とも表していました。
そう、違う役なんですけど、時々有馬くんの声が見え隠れすると、「ああ、やっぱこの人の声めっちゃ好きだな……」って。声を聴くとその頃を思い出す感覚ってあるじゃないですか。すごく甘酸っぱい青春。自分の声よりも、ちいちゃんの声で当時を思い出しますね。
──ご本人とは友人として砕けて話せるけど、演技の声を聞いていると、雪野として有馬をまっすぐ思っていた青春時代を思い出す、という。
そうですそうです(笑)。なんだかちょっと有馬を感じちゃう、みたいなところはあります。
次のページ »
他作品のアフレコが妙にあっさり感じる