1998年10月から翌99年3月にかけて放送されたアニメ「彼氏彼女の事情」。LaLa(白泉社)で連載されていた津田雅美の人気マンガを、「新世紀エヴァンゲリオン」で社会現象を巻き起こした庵野秀明がアニメ化するということで、大きな話題をさらった。庵野監督のもとに集ったスタッフは、平松禎史、今石洋之、佐伯昭志ら、当時の若き才能たち。また主役に抜擢された宮沢雪野役の榎本温子、有馬総一郎役の鈴木千尋も本作で声優デビューを飾った新人だった。
そんな若手たちの個性と才能が詰まったアニメ「彼氏彼女の事情」が、Blu-ray BOX化。コミックナタリーではこれを記念し、榎本温子にインタビューを実施した。「私は相変わらず宮沢雪野です」と言うほど思い入れが深い本作について、20年経ったからこそ伝えられる思いとは。併せてファンに投稿してもらったベストエピソードの結果発表も行っている。
取材・文 / 岸野恵加 撮影 / 石橋雅人
Blu-ray BOXのリリースを記念し、3月15日から21日までTwitter上では、ハッシュタグ「アニメ彼氏彼女の事情ベストACT」を用いて、アニメ「彼氏彼女の事情」のベストエピソードを選ぶ投票企画が行われた。多数の熱いコメントとともに投稿してくれたファンからのベストエピソードを集計した結果、なんと2つのエピソードが同率1位に! 3位までの結果と、番外編として宮沢雪野役の榎本温子が選んだエピソードも掲載しているのでご覧あれ。
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あらすじクラスメイトの女子から集団無視されている雪野。有馬のことが好きな芝姫つばさからの猛攻を受け流し、有馬や浅葉との日々を過ごしていたが……。
スタッフ脚本:庵野秀明 演出・絵コンテ:岡本英樹、今石洋之 作画監督:伊藤伸高 美術監督:佐藤勝
エスカレートしていく芝姫の攻撃や、それをひらりひらりと難なくかわす雪野のコミカルなやり取りを覚えていた人が多かった様子。また芝姫が井沢真秀に「宮沢をいじめていいのは私だけなんだよ」と啖呵を切るシーンも人気を集めた。
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あらすじ祖父の家へ遊びに行った雪野たち宮沢一家。雪野そっくりの母、みやこの昔の写真をきっかけに、宮沢家のお茶目な大黒柱・洋之が幼い頃に2人暮らししていた祖父との思い出を振り返っていく。
スタッフ脚本:庵野秀明 絵コンテ・作画監督:小倉陳利 演出:安藤健 美術監督:佐藤勝
草尾毅演じる洋之、小山裕香演じるみやこの過去を描いた「永遠の点綴」。洋之の成長と、それと対比してだんだんと老いていく洋之の祖父、そして洋之の側にいたみやこのエピソードをモノクロ表現で描き、「切ない」「泣いた」という意見が多かった。
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あらすじ父の再婚に反対していたつばさは、再婚相手の息子であり、人気インディーズバンド陰・陽(イン・ヤン)の金髪ボーカリスト・一馬と出会う。顔合わせの食事会で一馬に中学生と間違われ、ブチギレるつばさだったが……。
スタッフ脚本:庵野秀明 絵コンテ・演出:大塚雅彦 作画監督:平松禎史 美術監督:佐藤勝
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あらすじ家を訪ねてきた有馬を、妹と勘違いして油断した格好で出迎えてしまった雪野。いつ本性をバラされるのかと怯える雪野に対し、有馬は普段通りに振る舞い、学校生活は平穏に過ぎていく。と思いきや、有馬の仕事を手伝わされ、なし崩し的に有馬の下僕状態。山と積まれた仕事を2人で片付ける放課後が続くが……。
スタッフ脚本:庵野秀明 絵コンテ:大塚雅彦、小倉陳利 演出:大塚雅彦 作画監督:小倉陳利 美術監督:佐藤勝
好きな話数迷いましたが榎本的にはACT2が好きです。夜の学校のシーンがとてもエモい。有馬君が追いかけてくるSE笑えるよね。どんがらがっしゃんなって、その後気持ちが通じた気がしました。
— 榎本温子 (@atsuko_bewe) 2019年3月18日
きゃー!なんか恥ずかしいー!
#アニメ彼氏彼女の事情ベストACT
雪野とのシンクロ率は、最初から高かった
──まずはベストエピソード投票企画へのご参加、ありがとうございました。 榎本さんは、第2話に投票されていましたが……。
夜の学校で有馬が雪野を追いかけるシーンが好きなんです。でも本当に選べなくて、すごく悩みました。楽しい企画をありがとうございます!(笑)
──一緒に盛り上げてくださりうれしいです! 昨年12月にBlu-ray BOX発売が告知されたとき、榎本さんは真っ先にTwitterやブログで喜びの声を上げていらっしゃいました。1998年10月に放送開始してから20年。Blu-ray発売と聞いて、まずどう思いましたか?
出ないのかな、いつ出るんだろう、とずっと思っていたので、すごくうれしかったです。高校を卒業したばかりの18歳の私が、初めて出演したアニメ作品。アフレコすること自体、「カレカノ」の1話が初めてでした。
──それだけ思い入れも深いということですよね。オーディションを受けたときの記憶から、遡ってお聞きできればと思います。「カレカノ」では、庵野監督が既存の演技に染まっていない役者を求めて、大規模な声優オーディションを行ったんですよね。LaLa(白泉社)の誌面でも公募して、演技だけではなく、実写作品のように面接もあったとか。
よく覚えています。グループ面接で、同じグループに(花野役の山本)麻里安とか、ちいちゃん(有馬役の鈴木千尋)もいましたね。麻里安なんてまだ女子高生で、ざっくばらんに同世代として話した記憶があります。面接では、最近の女子高生事情について聞かれたり。今思えばスタッフの人たちが、制作の参考にしたかったのかな(笑)。実は事務所からは、真秀さん役で受けてって言われていたんです。事務所ごとに枠が決まっているとか、いろいろ事情があったのかもしれないんですけど。でも原作を読んだら、どうにもこうにも雪野に共感しちゃって。
──どのあたりに共感したんでしょう?
「エヴァ」風に言えばシンクロ率が高かったというか(笑)。外では優等生だけど、家ではダラダラ、みたいなところとか、気質があまりにも似すぎてたんですね。私の母も「あんたにそっくりね」と言ってくるほどでした。そんな思いを抱えつつ、江戸川橋にあるキングレコードのゴージャスなスタジオにオーディションを受けに行って。その広いブースに、庵野さん、プロデューサーとか、審査する人が4、5人いたかな。個人面談のときに、堪えきれず「私、実は雪野がやりたいんです」って言ったんです。今思えばよう言うたな、若かったなって感じですけど(笑)。
──すごい、直談判したんですね。庵野さんはなんとおっしゃっていましたか。
「後悔するといけないから、やっておけば?」と言ってくれました。それで雪野の原稿をもらって、セリフを言って。もう受けられただけで満足だったので、あんまり結果は気にしていなかったんです。レッスンスタジオに行く途中に、事務所から「『カレカノ』受かったよ! 雪野だよ!」って電話をもらって、すごく驚いたことをよく覚えていますね。
──7000人の応募があったといいますから、真性のシンデレラガールですよね。製作発表会見もあったとか。
白泉社で会見したんだったかなあ。突然スケジュールが増えて、取材とか、何もかもが初めてで……。一生懸命自分でメイクしていったのに、メイクさんに全部落とされたり(笑)。何もわかってなかったです。
──当時の庵野さんといえば、「新世紀エヴァンゲリオン」のTVシリーズと劇場版が終わり、次はどんな作品を作るのかと、かなり注目されていた頃です。
私も「エヴァ」は大好きで、観ていた頃から声優になりたかったんです。当時は志望者も多くて、目立たないとなれないんだろうなと。でも運良く高校卒業直前にデビューすることができて、文化放送のラジオ番組でパーソナリティをしていたんですけど、ゲストで庵野さんが来たことがあったんです。もしかしたらご縁があったのかなあと、後から思いました。
庵野さんがいつも「もう1回ちゃぶ台」って
──「エヴァ」を観ていたならば庵野節は馴染みがあったのではと思いますが、アフレコに入ってからはいかがでしたか。
アフレコ自体が初めてなもので、台本のト書きをどうしたらいいかとか、全然わからなくて。目が慣れず、何が起きてるかわかってませんでした。オンエア観てから「あ、ここは『エヴァ』のオマージュだったんだ」ってわかったり(笑)。
──第1話から、雪野が初号機のように発進したり、綾波レイのようなポーズをとる描写がありましたね(笑)。でも榎本さんだけではなく、周りのキャストも新人の方ばかりでしたよね。
みんな初めてで。同い年くらいの子が多くて、学校みたい。舞台畑の子が多かったから、稽古場の延長という雰囲気もありましたね。(雪野の父役の)草尾(毅)さんとかは「やべえとこ来たな」って思ってたかもしれないです(笑)。録り方も、今思えばすごく特殊でした。ワンシーンずつしか録ってなかったんです。
──TVアニメのアフレコというと、普通はAパート、Bパートをそれぞれ通しで録り、その後修正するところを部分的に録り直す、という流れが通常ですよね。
庵野さんの意向か、そうはしなかったですね。線画が流れていって、「雪野」ってボードが出るのに合わせてセリフを言うんですけど、「それきっかけでしゃべってくれたら絵に合わせなくていい」と言われていました。
──声に絵を後から合わせていたと。いわゆるプレスコですね。
なのでキャラの口の動きとか、ガン無視してやってました(笑)。慣れた声優さんだと、無視するほうが逆に難しいみたいでしたけど。
──音響監督も庵野さんがされていたんですよね。
「もう1回ちょうだい」を「もう1回ちゃぶ台」ってよく言ってたなあ(笑)。「エヴァ」のイメージで、繊細で気難しいクリエイターというイメージだったんですが、全然そんなことはなく、ほんわりとしたおじさん、という感じでした。
──では怒られることもあまりなく?
そうですね。でもアフレコに時間はかかって。1話はテッペン(深夜0時)超えて、最後はちいちゃんと私だけ居残りで、7時間半。今だったらショックですけど、初めてだし、そういうふうに作るもんなんだって思っていました。庵野さんは生の会話っぽさを目指していたみたいで。私の中で良い・悪いの判断は、噛まないで言えたかどうか、っていうところくらいになってた(笑)。1話のしゃべりのテンポ感は、当時の私のテンポ感。すごく私っぽいなと思います。
──あの頃の榎本さんそのもの?
そうですね。ちょっと恥ずかしい(笑)。
──1話から雪野はセリフが多いですよね。早口でまくしたてたり叫んだり。
よくやったなと思います。今あの台本をもらったら、「ワーー!」ってなると思う(笑)。1話はホント無我夢中だったんですけど、当時1話のダビングを見に行ったときに、「私の演技、絵に負けてるな」って思って。
──絵に負けてる?
表現が小さい。特にギャグとか、絵のほうが大きく動いているように感じました。もっとやらないと絵に追いつかないというか、差みたいなものを感じて。2話からはがらりと変えた気がします。でもあんまりプロっぽくなっちゃうのも、この作品にとっては違ったのかなあという気がしますね。
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ああ、だからみんな、ちょっと顔色悪かったんだ……