「カラオケ行こ!」特集|「夢中さ、きみに。」和山やまと「鬼灯の冷徹」江口夏実が初対談!「“奇人変人が真面目に一生懸命やってる”のが面白い」

「本人は真面目にやってるんだけど、他人から見たら変」が大事(江口)

──おふたりの作品にはコメディという共通点がありますよね。笑いの方向性としては少し違うとは思うんですが、お互いの作品について通じるものってありますか?

江口 和山さんの心情はわからないので合ってるかわからないですけど、キャラクター自身が「俺、面白いでしょ。はいどうぞ笑ってください」みたいなのは嫌いなんじゃないかなと。

和山 あ、はい。すごくわかります。

江口 私も個人的にそれが透けてしまうのは嫌なんですよ。キャラクター本人は真面目にやってるんだけど、他人から見たら「あれ? こいつ変だな」っていうところをなるべく大事にしたいので。和山さんの描くキャラクターって、みんな真面目じゃないですか。だから共通するところがあるとすれば、奇人変人が真面目に一生懸命やってるというか、そういう姿を描くことを大事にしてるところかなって。

和山 おっしゃるとおりだと思います。私、ギャグマンガとしては描いてるつもりはなくて。日常の中で起こる人間のちょっとしたユーモアとか、こういう人いるよねっていうのが伝わればいいなと思って、ゆるく描いているつもりなんです。でもけっこうメディアとかで紹介していただくときは「ギャグマンガ」とかハードルを上げられてしまって……(笑)。それに、人によってお笑いのツボって違うじゃないですか。私は面白いけど、一緒に見てた友達はそうでもないってこともけっこうあるし。私のマンガを全然おもしろくないっていう意見も理解できますし。だから笑わそうっていうより、人間を描こうっていうのを意識してます。

「カラオケ行こ!」より、ヤクザたちの歌に意見を求められた聡実。的確にテンポよく意見を述べる聡実だが、徐々に辛辣になっていく。

──笑いといっても面白がってるというよりは、「愛せるなあ」みたいな感じの面白さですもんね。バカにしてる感じはないというか。

江口 嫌な人が出てこないっていうのはありますよね。コメディってむしろ嫌な人が出てきちゃうと笑えなくなっちゃうから。もちろん読者さんにとってどう見えるかはまた別ですが、作者が誰かを貶めてやろうみたいな気持ちで描くと笑えなくなっちゃう。

和山 そうですね。私としては奥底に「かわいい」っていうテーマがあるので、面白さというよりは人間のかわいらしさを描いているつもりなんです。

眼鏡で文系で黒髪……好きなものだけを描いてる(和山)

──キャラクターを考えるときは、身近な人を参考にされるんですか? おふたりともかなり個性的なキャラクターを考えられますよね。インパクトがあるというか……。

江口 端的に変態と言っていいと思う(笑)。

和山 (笑)。私の場合、モデルは特にいなくて想像です。日常で生まれた面白い会話とか町中で見かけた変な風景とかをネタにすることはあるんですけど。キャラクターに関しては、現実が嫌な人間ばっかりなので……(笑)、せめてマンガではいい人間を描こうっていう気持ちで描いてます。

江口 私は想像と誇張と両方入ってる感じかなあ……。知り合いにちょっと変わった経歴の方がいたらそれを参考にしたり、面白い友人の言動を部分的に誇張して描いたり。

──ビジュアルについてはどうですか?

和山 ビジュアルはもう完全に好きなものだけを描いてます。全部眼鏡で文系で黒髪で……(笑)。特に私は眼鏡の文系タイプと体育会系タイプのセットがすごく好きで。狂児と聡実とか、星先生と小林先生みたいな。自分でもわかりやすいなと思います。でもそこはブレずに好きなものを貫いたほうがいいのかなって思って。

江口 私は男性の見た目の好みではあんまりこれというのはないかもしれません。好きな見た目の芸能人を聞かれても出てこないので……。でも描きやすいのは木霊かな? 「男性」と言っていいのかわからないですけど(笑)。どちらかというと女の子のほうが好みの見た目を描いてます。見た目だけで考えると好きなバランスがあって、それが顕著に出ているのはチュンみたいなビジュアル。ちょっと童顔気味で目がアーモンド型の猫みたいな顔の女の子を描くのがすごく好きで、それは固執してるなと。ミキとかもそうですね。あとは座敷童子とか、子供の姿のキャラクターと動物はすごく好き。

和山 私は逆に、女の子のキャラでこういうのを描きがち、みたいなのはないですね。でも描きやすいのは断然女の子です。基本的に丸みを帯びた線を描くのが好きなのですが、それを活かせるのは女の子だと思うので。男女共通して言えるのは黒髪が好きなのと、あんまり派手な顔は好きじゃないかもしれないです。

各々で好きなポイントを見つけてくださるとうれしいです(和山)

──「カラオケ行こ!」の表紙イラストには何かテーマがあるんですか?

「カラオケ行こ!」表紙

和山 出会いが雨の日だったのもあって、雨のシーンにしました。あと、もともと「女の園の星」と同時発売の予定だったので、対照的な色にしようということで、夜のネオン街のようなイメージで。

江口 彩色はデジタルですか?

和山 はい、フルデジタルです。

江口 私、カラーリングは全部アナログなので、デジタルで描かれてる方に聞いてみたかったんですけど、印刷されたときって原稿どおりに出力ってされますか?

和山 あ、それほど差はないと思います。

江口 やっぱりそうなんだ。アナログってかなり変わってしまうこともあるので、その調整が大変で。それがよさでもあるんですけど。イメージしたとおりに出力できるのはデジタルのいいところですよね。まあ私はアナログが好きで絵を描き始めたので、変えないんだろうなと思いながら言うんですけど……(笑)。

和山 「鬼灯」の表紙の絵って周りの縁にめちゃくちゃキャラクターがいたり、花や植物もありますよね。どれぐらいの時間をかけて描いてるんですか?

江口 アナログはレイヤーがないので、人物と枠と背景の素材と後ろに入れるちびキャラと、カバー外した表紙のところを全部別の紙に描いてます。単行本作業だとそれにプラスして限定版用のイラストも描いたり。だから原稿の合間合間にちょっとずつ時間をかけていて、トータル1週間から10日ぐらいですかね。

「鬼灯の冷徹」31巻

和山 やっぱりかなり時間がかかるんですね……。

江口 デジタルのほうが早いですよね。

和山 そうですね。失敗もすぐに訂正できるので。

──では最後に、和山さん江口先生に何か聞きたいこととかがあれば。

和山 えっと……普段何を食べてますか?

一同 (笑)。

江口 普段は自炊してますけど、仕事で忙しいときはアシスタントさんが出前で頼んだものを自動的に食べてることが多いですね。適当にあるものをそのまま食べてます。あんまり食べる時間がないので、基本1日1食なんですよね。あとは合間合間に牛乳飲んだり。

──お好きな食べ物とかないんですか?

江口 寿司かな? まあめったに食べないですけど……自分で作って好きなのは唐揚げかなあ……。

和山 変な質問してすみません……。普段何を食べてあんなマンガを描いてるのかなって、原動力が気になって。ありがとうございます。

──では最後に、和山さんから読者の方に「カラオケ行こ!」で注目して欲しいポイントを教えて頂けないでしょうか。

和山 一番はキャラクターを見てほしいです。江口先生もおっしゃってくださったんですが、表情などを……。あとは心の些細な変化ですかね。でも一番は、各々で好きなポイントを見つけてくださることが私としてはうれしいです。