女子校出身で両親が教師なので、「女の園の星」に共感(江口)
──2冊目の「女の園の星」は「夢中さ、きみに。」とは対象的に女子校が舞台のお話ですよね。
和山 先程お話したモーニングでヤクザが教師になる話のネームを描いていた名残で、教師に未練があって(笑)。担当さんに教師ものを描きたいという話をして、お互いの高校時代のことを話していくうちに、担当さんが女子校っておっしゃって。「夢中さ、きみに。」は男子校だったので、女の子いっぱい描きたいなっていう気持ちで描きました。
江口 和山さんが女子校に通っていたわけじゃないんですね。
和山 ではないです。
江口 私、女子校出身で両親が教師なんですよ。だから「女の園の星」はどっちの気持ちもわかるなと思って共感しながら読みました。女子校の女の子たちって本当にこんな感じで平和で。私は星先生の日記をつけてる女の子が好きなんですけど、たまにいますよね、ああいうちょっと変わった子。お前、勉強しろよっていう(笑)。あとマンガ描いてた子とか、ああいう天然な子もいたなと思って。ただ先生は、こんなにいい先生はいない(笑)。
和山 (笑)。
江口 これはマンガのいいところですよね。リアルに女子校に若くてカッコいい先生が来たら、たいてい1年はもたなかったりします。不祥事を起こしたという噂を残していなくなっちゃう。
和山 えっ!
江口 実際、私の高校の先生は、教え子と結婚したという人が数人います。もちろん合法な歳ですけど。教育実習で戻ってきて、たぶん女の子側が実は好きでしたって。でも絶対好きの期間被ってますよね(笑)。まあ女子高生側にはタガがないから、やっぱり先生のこと好きってなっちゃう子はいます。
和山 確かに、顔がいい人は採用しないって話を聞いたことがあります。本当かどうかわからないですけど。
江口 男子校に若くてか弱そうな女性の先生が来るのに対して少し懸念するとか。間違いが起こりやすい、とかは教育委員会?も考えるんじゃないかな……いや、これはまったくの想像なのでそんなことはないのかもしれないですけれども。だから読んでて思ったのは、小林先生は教え子と結婚しそうだなって(笑)。教育実習で戻ってきた女の子たちに言い寄られてそう。で、軽口を叩いて本気にさせるタイプ。
和山 なるほど……参考にしよう(笑)。
──「カラオケ行こ!」の聡実は中学生ですが、思春期ならでは描写など意識したことはありますか?
和山 狂児と並んだときに、子どもっぽさを出すようにはしてました。この場合でいう「子ども」は、かわいくないという意味の。思春期特有のかわいげのない子と言いますか。口も悪い、愛想も悪い、世間知らずで卑屈な。ヤクザに絡まれたらみんなそうなるとは思いますが、笑顔をあまり描かないように意識しました。
描いてるうちに狂児に愛着が湧いてきて……(和山)
──「夢中さ、きみに。」「女の園の星」とは異なり、「カラオケ行こ!」は1話完結ではなく、単行本1冊でまとまっています。
和山 これは珍しいですね。長めの1話という感じで、ちょうどいい感じにまとまったのがこのページ数だったんです。ネームにしてみたら100ページを超えてて、〆切まで1カ月もなかったので、冷や汗をかきながら描きました。
──単行本でかなり修正されてますよね。
和山 一応全ページ手を付けてて、顔はほとんど描き直してます。あとセリフもけっこう直していて。最初のカラオケのシーンで狂児が「紅だー!」って叫んでるところに、聡実が「ポーズはボヘミアン・ラプソディ……」ってツッコミを入れるシーンもあるんですけど、単行本ではセリフを変えてます。当時は映画が流行ってたからよかったですけど、今さらこのネタかよってなるので(笑)。
──確かにそういう旬のネタは扱いが難しそうですね。
和山 流行りのものを入れたくなるときもあるんですけど、できれば時事ネタは入れないようにしてます。
江口 私も旬のネタは浮かんでもメインではなるべく入れないようにしてます。単行本は長い目で見たら30年は残るって思って描かないと、というルールが自分の中にあります。なんなら単行本になった時点ですでに古いみたいな場合もありますから。
和山 特に高校生って流行のサイクルが早いじゃないですか。だからあまり流行ってる言葉とか、髪型とかはあんまり使わないようにしてます。あ、でもタピオカって単語は出しましたけど(笑)。
江口 大丈夫、タピオカは15年ぐらい前にも流行ったから(笑)。
──描き下ろしは狂児の過去のお話ですよね。これを描こうと思ったのはなぜですか?
和山 最初は聡実が大学生になった後のエピソードを考えてたんですけど、描いてるうちに狂児に愛着が湧いてきて、生い立ちとか両親のことまで考えるようになって。「狂」って漢字を自分の子供にはつけないよな、とか、狂児がヤクザになる前に何をやってたのかとか、どういう人間だったのかっていうところを描きたいなと思って。
──名前を決めたときは、そこまで考えてなかったんですね。
和山 はい。杉狂児っていう昔の俳優さんから付けたんですけど、響きと漢字のバランスだけ決めたので。
江口 追加のエピソード読んで、確かに狂児さんはヒモになれそうだなって思いました。
和山 (笑)。
4巻の表紙の白澤を写メって待受にしてました(和山)
──では和山先生に「鬼灯」の話を伺えればと思うんですが、いつ頃からお好きなんですか?
和山 高校生の頃、単行本の2巻が出たぐらいですかね。その当時、Twitterをフォローしてた方がずっと「鬼灯」の話をしてて。面白そうだから読んでみようと思って読み始めたら一気にハマりました。単行本の4巻の表紙が白澤だったんですが、その絵がめっちゃ良くて、写メって待受にしてました(笑)。
江口 (笑)。ありがとうございます。
──一番好きなキャラクターはやはり白澤?
和山 そうですね、一番と言われると白澤かな。でもたくさんキャラクターがいるので、選びきれないですけど。
江口 白澤は女性に圧倒的に好かれるんですよ。たまに男性で好きと言ってくださる方もいますけど。「僕も女の子大好きなんです」っていう……。
和山 白澤に共感する方が……(笑)。
江口 でも男性と女性で白澤に対する認識が違うんですよ。女性が考える白澤像と、男性が考える白澤像がかなり乖離しているようで。女性からすると「優しい」というイメージが先行するみたいで、あれだけ浮気性で世の中はこんなに不倫で騒がれているのに(笑)、「優しいから好きです」っておっしゃってくださる方が多くて。
和山 そうですね、優しいイメージがあります。
江口 でも男性は「結婚しないだけえらい」みたいにおっしゃる(笑)。遊ぶってことを生々しくご想像できてしまうからかもしれませんが、その乖離がすごくて面白いです。しかもふたつとも私の認識とも少しずつ違うので。
──和山さんがイメージする白澤ってどんな感じですか?
和山 実際にいたら多分近づきたくないタイプだとは思うんですけど……(笑)。でもキャラクターとして見ると、奥底に優しさとか愛とかを持ってるんだろうなと思います。何千年と生きてきたキャラなので、それ故の達観した感じとか、すごい大人だなって思います。
──ちなみに「カラオケ行こ!」というタイトルにちなんで、「鬼灯」のキャラにカラオケで歌ってほしい曲ってありますか?
和山 私が答えてもいいのかな……。逆に江口先生にお聞きしたいです。
江口 まあそもそもカラオケには行かなそうですよね、鬼灯は。
和山 確かに。カラオケのエピソードありましたけど、無理やりでしたもんね。
江口 歌いそうなのは比較的女の子のほうかな。まきみきとか。あとシロは多分死ぬほど歌う(笑)。
和山 (笑)。
──白澤も歌うのは好きそうですけど。
和山 白澤は女性受けが良い曲を選びそうですよね。偏見ですけどミスチルとか……。
一同 (笑)。
江口 でも音痴ですからね(笑)。