TVアニメ「神之塔 -Tower of God-」は、大切な女の子を追いかけて“塔”に入り込んだ少年・夜が、仲間やライバルと出会い、過酷な試練を乗り越えながら、塔の頂上を目指していく冒険ファンタジーだ。TOKYO MXほかにて4月より放送されている。
ナタリーでは全3回にわたって、本アニメの特集を展開。第1回となる本稿では、アニメで主人公・夜役を演じる市川太一、夜が大切に思っている少女・ラヘル役の早見沙織、夜と仲間になる少年・クン役の岡本信彦に話を聞いた。新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、取材はオンラインでの実施となったが、3人はアフレコ時のエピソードやアニメの感想を、和気あいあいと語ってくれた。
取材・文 / はるのおと
チームの雰囲気とリンクした夜とクン、ラークの声優陣
──まず放送が始まって、完成した映像を観ての感想を教えてください。
市川太一 映像がすごくきれいですよね。絵のタッチを原作に寄せているのも独特な印象を受けました。それに4話のバトルシーンから、迫力がぐんと増した印象があります。
岡本信彦 4話って、この前放送したところ?(※取材は5月中旬に行われた)
市川 そうです、クラウンゲームの最初の戦闘です。4話は絵コンテ・演出・作画監督・原画をすべてむらた雅彦さんが1人でされたと知って驚きました。
早見沙織 すごい! 私も映像がきれいなのは印象に残っているし、シリアスとギャグのメリハリがあるのも好きです。私が演じるラヘルが出てくるシーンはどこか閉鎖的というか、危うさや怪しさを秘めているので、なおさらそう感じるのかもしれません。夜とクンとラークの3人による和やかなやり取りを観たあとに、夜とラヘルのシーンがあるとドキッとします。
──確かに全編通してラヘルのコメディシーンは思い出せないですね。
市川 チョコバーを盗んで食べてるところぐらいですかね?
早見 はい。食べ物に関するところだけ(笑)。
──岡本さんはいかがですか?
岡本 皆さんがおっしゃるように、映像はとてもきれいですよね。アフレコ前にいただくリハV(リハーサルVTR)の段階からきれいになりそうな雰囲気はありましたが、完成したものを観るとさらに磨きがかかっていると感じます。あと僕は、音楽も好きで。第1話で、“塔”の扉が開かれるシーンの音楽とかもすごく神がかっていてカッコよかったですし。
市川 カッコよかったですね!
岡本 普通のアニメだったらラスボスと戦うときに流れるようなBGMが1話からふんだんに使われていて、思わずワクワクしちゃいました。
──本作のアフレコは2019年10月頃に終わったそうですが、どんな現場の雰囲気だったか覚えてらっしゃいますか?
早見 けっこう和やかでしたよね。
岡本 そうですね。あと収録が速かった気がします。「この部分はどういう流れなんですか?」みたいな質問の時間がありつつも、収録自体はサクッと進みました。
早見 確かにテンポはよかったです。佐野(隆史)監督や山口(貴之)音響監督が物語の難しいところを、収録前に都度都度説明してくださったおかげで。
──なるほど。早見さんと岡本さんから見て市川さんの座長ぶりはいかがでしたか?
岡本 がんばってましたよ。だって、正直言うとけっこう難しかったと思うんですよ。若手声優としてどう現場を引っ張っていくかというのもあるし、市川くんが演じる夜は、この世界のことをよく知らないまま突き進むようなキャラクターだし。でもとてもがんばってらっしゃったので、僕も負けないようにしようと思いました。
早見 普段はすごく気さくで皆さんと和やかにお話されているけど、マイクの前に立つとすごく凛としていて。夜とリンクしているように見えました。
市川 そういうふうに見ていただけたのがわかってうれしいです!
──夜とクン、あと三宅健太さん演じるラークが前半のチームですが、その3人の声のバランスも絶妙だなと観ていて感じました。
市川 キャラクターの声色とチームの一体感がリンクしている印象はあります。僕としても、夜としても、2人には引っ張ってもらいました。
岡本 三宅さんは随所にアドリブを入れてくるので、そこで笑っちゃいそうになるんですよ。1話で「ぽーい」というセリフがあるんですけど、それをその後の話でも入れていましたし。「ぽーい、ぽぽーい」って歌ったり。
早見 (笑)。
岡本 あと夜やクンがしゃべっているうしろでラークが叫んだりするんですけど、賑やか過ぎて僕らの声がかき消されるんですよね。
市川 だから三宅さんは別収録になることが多かった(笑)。
──そんなのけ者扱いも、ラークらしいですね。
岡本 マイクの前以外では、とても優しいお兄さんなんですけどね。
ラヘルは夜にとって“毒”
──この記事の公開時点で、テレビでは第9話までが放送されていますが、現時点でのキャラクターの関係性について伺います。まず夜とクンはお互いに特別な存在となっていますが、その結びつきが強くなったと感じるシーンを1つ教えてください。
岡本 僕は第3話でユハンに諭されたときでしょうか。
──多数の扉から5分以内に正解の扉を開けるという第3の試験を、夜とクン、ラークの3人でクリアした場面ですね。
岡本 そこで「(夜が持つ)疑う心を知らぬその瞳を、守りたくはないか」みたいなことを言われるんですが、クンは「これまで親しい人に裏切られてきたけど、夜はそういう人間じゃないかもしれない」とスイッチが入って、彼に興味が出てきたんだと思います。その時点では信頼できる人がいることを信じたい気持ちと、そんな人間はいないだろうという疑いの半々だったでしょうけどね。
市川 その後の第6話で、クンが「(夜を)俺のような目には遭わせたくない」「そのためなら、何度でも俺は嘘を重ねる」って言いますよね。自分が汚れ役になってもいいという覚悟を感じるその言葉から、クンにとって夜が特別な存在になっていると感じました。
──そんな2人とは違うルートで塔を登っていたラヘルですが、夜にとっては崇拝の対象です。一方でクンから見たラヘルは、現時点でどんな存在でしょうか?
岡本 とても危険な存在だと肌で感じているんじゃないでしょうか。詳しいことはわからないけど、ラヘルのことになると夜が冷静さを失う姿を見て、「これは夜にとって毒なのでは……」と推測してしまう(笑)。だから近寄ってほしくないし、会話すらしてほしくない。でも僕、ラヘルってどことなく悪運が強いイメージがあるんですよ。
早見 そんな(笑)。
岡本 ラヘルってたぶん計算高いけど、それに少しの優しさがあるんですよね。策略家のクンにも計算できないその不確定要素があるおかげで、最終的にはいろいろと持っていきそうな人というイメージがあります。
──ラヘルは現時点では掴みどころがないキャラクターです。早見さんは演じるのが大変だったのでは?
早見 “彼女が何を考えているか”をどれくらいセリフに乗せるか、監督とよくお話しさせていただきました。ただ夜の記憶の中のラヘルを演じる場面も多いのが難しかったですね。そこでラヘルの本音の部分を乗せすぎないように、とはいえ夜の行いで心を動かされることもあるので、その境界線的なところをグレーにし続けるよう試行錯誤しました。
──自分は最初にキービジュアルを拝見したときに、ラヘルがいわゆるかわいいメインヒロインになるのかなと感じたのですが、全然そんな雰囲気がないですよね。早見さんはオーディションの段階でこんなキャラクターだとご存知だったんですか?
早見 私もそのキービジュアルや序盤の雰囲気から、かわいらしいキャラクターなのかなと想像してオーディションに行ったんです。でもオーディションで「もっと生々しい感じで」みたいなディレクションをいただきましたね。
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「神之塔」は“男の子が好きなもの”ばかり