TVアニメ「カミエラビ GOD.app」は、原案をゲーム「NieR:Automata」ディレクターのヨコオタロウ、シリーズ構成・脚本を「カゲロウプロジェクト」のじん、キャラクターデザインを「炎炎ノ消防隊」の大久保篤が手がけ、「シドニアの騎士」の瀬下寛之が監督を務めるオリジナルアニメ。神様を決める殺し合い“カミエラビ”での戦いを描く物語で、2023年10月よりシーズン1が放送され、現在は完結編となるシーズン2がオンエアされている。
物語もクライマックスに突入する中、シーズン2のメインキャラクター・エコの正体が明らかになった。コミックナタリーではエコの正体やカミエラビの儀式の真相について、物語を振り返りながらたっぷりと解説していく。なお本特集には21話までのネタバレが含まれるため、未視聴の人はぜひアニメを視聴してから読んでいただきたい。
文 / 伊藤舞衣
ヨコオタロウ節効きまくり、陰鬱で残酷な物語
ヨコオタロウと言えば「ドラッグオンドラグーン」「NieR」シリーズなどのゲームを生み出したクリエイターだ。彼が手がけた作品を知っている人の中には「原案・ヨコオタロウ」というクレジットを見て、「カミエラビ GOD.app」を視聴する前に絶望に直面する覚悟を決めた人も少なくはないだろう。ヨコオの作品は物語の陰鬱さや残酷さが特徴の1つとなっており、数多のゲームプレイヤーを絶望の底に突き落としてきた。複数のゲームに触れてきた筆者も、「神様、世界は今日も健やかに狂っています。」という「カミエラビ GOD.app」のキャッチに頭を抱え、不穏なあらすじを読み天を仰いだ。同作では、そんなヨコオタロウ節が効きまくった、期待通りのダークな展開が待ち受けている。
シーズン1の主人公は一見平凡に見える男子高校生・小野護郎(ゴロー)。複雑な家庭環境により心に暗い影を落とすゴローは、カミエラビに巻き込まれたことで憧れの女子や親友との殺し合いなど、より過酷な運命に直面していく。ゴローはカミエラビでこの世の因果を自在に操り、死んだ人間をも生き返らせることができるチート級の能力“愚者の聖典”を手に入れるが、その代償はゴロー自身に降りかかる不幸。戦いの中で因果を書き換え続けたゴローは、体にダメージを負うなどの代償を受けていく。生き延びるために力を使うほど代償を受けるなんて、あんまりである。ついには存在すら世界から忘れ去られ、その姿も消失。愚者の聖典は、もともと「誰かに願いを託されたかった」というゴローの願いから生まれた力だった。純粋で切実な思いを持つゴローが迎えた結末は、多くの人に衝撃を与えたことだろう。
そんなゴローを取り巻くカミサマ候補たちは、クセ強なキャラばかり。佐和穂花(ホノカ)は、表面的にはゴローが憧れるかわいらしい女子だったが、目的のためなら殺人も厭わない凶暴な一面も持つ。シーズン1では巨大な刃物を手に真っ先にゴローを襲撃してきただけでなく、ゴローと同盟を組んだ後も意識不明のゴローを殺害しようとした。驚きの豹変っぷりだが、ゴローに心を許し、本性をあらわにするさまはかわいらしくもある。ほかにも、白衣を着て何かしらの研究に没頭している少女、コワモテながらも心優しい生徒会長、自殺したアイドルに擬態しているファン、とにかく明るいセクシー女優、事故で視力を失った車椅子の少女といったカミサマ候補が登場。洪水のように押し寄せるキャラクターの個性が、陰鬱な物語にコミカルさと狂気を加えていく。
エコは黒幕だった!? “物語の作者”から衝撃のメタ発言が飛び出す第21話
物語も終盤に向かう第21話では、心優しい少女……に見えていた佐々木依怙(エコ)の正体が明らかになった。いるはずのない場所に突然現れたエコは、驚くカミサマ候補の1人に向かいこう言ってのける。「当たり前じゃん、この物語の作者なんだから」と。彼女の真の姿は、世界の創造主……つまるところの“神様”だったのだ。
純粋な少女というこれまでのエコのあり方は、自身が書いたこの物語の中でのキャラ設定。エコからは“神様らしい”慈愛が一切感じられないどころか、狂ってしまった物語を修正するべく、躊躇いなく人の運命を書き換えていく。バグった機械のように不自然な動きを見せ、軽いノリで「書き直すから」「雑ーに君のこと、加筆しちゃいまーす」と運命に手を加えていくさまが恐ろしい。そして最後には「放送枠的にここまでだから。また来週」とメタ発言をして衝撃の第21話を締めくってしまった。画面の前の視聴者に投げかけるようなエコのセリフは、アニメと現実の境界線を溶かすようで不気味だ。
エコが正体を明かしたことから、シーズン2各話の冒頭に黒い影の姿で登場していた神もエコと同一の存在だとわかる。“命が持つ意味”にこだわる神は、自身の命に意味を見出そうとする人間を気に入っていた。しかし人間は何度書き直しても醜い感情や争いを生んでしまい、神はついに人間に絶望してしまう。そんなときに見つけたのが、神である自分も知らない人間・ゴローだ。自身が生み出した存在とは異なるゴローに興味を持ったことから、神はエコとして物語に干渉する。
ゴローが消えた世界で再び始まるカミエラビ
ここからはシーズン2の物語を振り返りながらエコの動きを追っていく。シーズン2の舞台はゴロー消滅から12年後。ゴローが暴走した一連の出来事が“828事件”として語られ、現場にいた人間は歳を取らなくなる“セミパーマネント”となっていた。828事件を調べていたエコは、その理由を“夢の中で見た神様”を探しているからだと明かす。エコの正体を知った後にこのセリフを聞くと、それが明確な目標として聞こえてくる。
事件を追う中でエコが出会うのが小野螺流(ラル)だ。シーズン1でのラルは、ゴローの能力・愚者の聖典とともに現れた謎の存在として登場。その正体は堕胎されたゴローの妹の魂で、ゴローの力により因果が変更されたため無事に生まれ、11歳の少女となっていた。人々からゴローの記憶が消えた中、唯一ゴローを覚えていたラルは自らカミエラビに参加してゴローを復活させようと考える。ラルがゴローのスマホを手に入れたことでカミエラビが再開され、その場に居合わせたエコはラルの戦いに協力することに。エコは偶然戦いに巻き込まれたように描かれていたが、ゴローを探し出すためにラルに協力したのかもしれない。
一方、カミサマ候補たちには828事件を境にそれぞれ変化が訪れていた。ゴローの力により視力を取り戻した狭手井綾(リョウ)は、大人になりカミエラビの真相解明と、その影響による世界の破滅を防ぐため奔走。ホノカを含む5人のカミサマ候補はセミパーマネントとなり、当時の姿そのままそれぞれの道を歩んでいた。穏やかに暮らすことを望んでいたホノカは、カミエラビの再開でラルと戦うことに。ホノカは封じ込めていた“願い”を呼び起こされ再び本気の殺し合いに挑むが、ラルに敗れ命を落とす。死にゆくホノカを悲しげな顔で見つめるエコは、彼女を憐れんでいたのだろうか、それとも“失敗作”であることを悲しんでいたのだろうか。
ゴローを復活させるため、カミサマ候補の1人に協力を仰ぐ中で、ラルたちは不気味なマスクを被った新手のカミサマ候補“死をばらまく者”と遭遇。その場にいた者は血を吐いて次々と倒れていく。すると突然、12年前のカミエラビで死んだはずの秋津豊(アキツ)が現れ、時間を巻き戻してラルたちを救出。12年前に未来視により世界の破滅にいち早く勘づいたアキツは、それを防ぐため未来へやってきたのだ。うれしい再会ではあるものの、もとの時間軸に帰ればアキツには死が待っているという事実が悲しい。
そんな中、死をばらまく者の正体がエコの父親だと明らかに。エコは動揺する様子を見せつつも、その襲撃からラルを庇って倒れる。これも神であるエコの筋書き通りなのだが、庇った理由を問うラルにエコは「誰かの力になりたい」という思いを明かした。それは人間を改善しようとした神の思いにも聞こえるセリフだ。
ラルはカミサマ候補たちと共闘。犠牲を出しながらも死をばらまく者から逃げ延びるが、圧倒的な力の前に再び窮地に陥る。しかし瀕死状態となったリョウが最後の力を振り絞ってパラレルワールドを生み出し、死をばらまく者を封じ込めることに成功。死をばらまく者を追いパラレルワールドに飛び込んだラルは、そこでカミエラビの真相を知ることになる。
カミエラビの始まりと、この世界の真実
そもそもカミエラビはなぜ始まったのか。リョウたちが恐れていた世界の破滅とはいったいなんなのか。その真実は、死をばらまく者の正体・恵比須檜垣(ヒガキ)から語られる。
ヒガキがラルに見せたのは、自身の記憶であり、カミエラビの発端でもある狭手井柊(セマテイ)との過去のエピソード。セマテイはスマホを世に普及させた開発者でヒガキの親友だった。そんなセマテイは、妻と2人の子どもと幸せな家庭を築いていたが、ある日妻と息子を病気で失い、娘であるリョウは交通事故で昏睡状態になってしまう。現実に絶望したセマテイは、自身が開発したAIを使い世界中の大量破壊兵器の発射スイッチを起動。そして兵器が着弾するまでの数分間の間、すべてのスマホに仕込んだあるAIアプリで世界中の人々に永い夢を見せようとする。セマテイに人類の滅亡か、幻覚の世界への逃避かの選択を迫られたヒガキは、それが間違いだと理解しつつも、為す術もなくAIアプリを起動させた。そのAIアプリの名前こそが「カミエラビ」。つまり世界はとっくに終わることが決定づけられていて、この世界はスマホが見せている幻覚だったのだ。
しかし、本作の衝撃展開はそれだけでは終わらない。さらにその一部始終を観測していたのが現実世界を創った“本物の神”であるエコだった。というわけだ。エコは人類がスマホという身に余る叡智を手にしたこと、それを使い自分が創った世界を壊して幻覚の中に引きこもったことに怒り、人類を粛清するため幻覚の世界を終わらせようとする。それを察知したAIが、本物の神に対抗し得る“新たな神”を生み出すため行なった儀式……それがカミエラビだ。ヒガキは自身が新たな神になることで、幻覚の世界を消し去ろうとするエコに対抗しようとしていた。真実を明かしたヒガキは、ラルたちにその意志を託して戦いの舞台を降りる。
ゴローは復活するのか、予測不可能な物語はフィナーレへ
正体を明かしたエコはカミサマ候補たちに何を語り、絶対的な存在であるエコにカミサマ候補たちはどう立ち向かうのか。そして重要なポイントとなってくるのが、エコにとって唯一理外の存在であるゴローだ。ラルはリョウから、ゴローの復活について「手札はもう揃っているはず」と告げられていたが、ゴローの復活は果たされるのだろうか。そして新たな神となり、この幻覚の世界を守ることができるのか、今後の展開が見逃せない。ヨコオタロウが生み出した残酷な物語の最後に待つのは、希望か絶望か。最後まで予想ができない「カミエラビ GOD.app」の物語の運命を、ぜひその目で見届けてほしい。