アニメ化はひとつのゴールだった
──「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」のテレビアニメ化、おめでとうございます。まずはアニメ化が決定した際のお気持ちから伺えますか。
もちろんうれしかったです。僕自身アニメが好きということもあって、アニメ化をひとつのゴールとしていました。
──じゃあ「かぐや様」は当初からアニメ化を意識して描かれていたと。
「かぐや様」だけじゃなく、デビュー作の「さよならピアノソナタ」もそうですし、「ib -インスタントバレット-」も、もちろん「アニメ化してほしいな」と思いながらやっていました。
──「さよならピアノソナタ」は杉井光さんのライトノベルのコミカライズ、「ib -インスタントバレット-」はオリジナル作品でしたが、赤坂さんは「ib -インスタントバレット-」の連載終盤に「かぐや様」の連載をスタートさせていますね。
「ib -インスタントバレット-」は1、2巻が同時発売だったんですが、「3巻で終わります」という話を当時の担当さんからされていたんですよ。連載が終わる前に何かしら動かないと無職になっちゃうので(笑)、どうにかして「連載が終わっても新しい作品をすぐに始められるように」と思い、今の担当さんに付いてもらうことになったんです。
──でも「ib -インスタントバレット-」の単行本は、結果的に5巻まで発売されていますよね。
そうなんですよ。「かぐや様」の準備を始めましょうってなったときに、「4巻までやっていいですよ」って言われたんです。それからしばらくしたら、「5巻まで出せます」という話になって。もちろんありがたい話ではあるので、「やります!」と言ったんですが、1巻分くらいは2作品の連載期間が被っているので大変でしたね。
──「ib -インスタントバレット-」は、世界を破壊できる力を持った少年少女を描くセカイ系の要素を持った作品でしたが、「かぐや様」は王道のラブコメディです。2作品を比べてみると創作の振り幅が広いなと感じました。
僕は中学2年生くらいのときに「新世紀エヴァンゲリオン」にハマって。当時「エヴァ」が10周年のちょっと前くらいで、盛り上がっていて。そのときから「いつかセカイ系の物語を作りたいな」と思っていて、「ib -インスタントバレット-」ができたんです。ただ自分で言うのもなんですが、僕はいろんなジャンルの作品を描けるタイプだとは思っていて。今回は打ち合わせをしていく中で、たまたまラブコメでいくと決まったという感じでした。
──では初期の打ち合わせの時点で、すんなり「かぐや様」の原形ができあがったんですね。
いや、最初は「人をいっぱい死なせるマンガを描きたいんですよ」「鬱な作品がやりたいです」って、地獄でデスゲームをする話とか、殺人鬼が出てくる話とかで3カ月くらいやり取りをしていましたね。で、担当さんが疲れていたのか「もうちょっと軽いのありませんか?」という話になって。「最近思いついたんですけど、『お互いに対して片想いの2人が、相手に告らせようとする』っていう話はどうですか」って言ったら、「いいじゃないですか! それ描いてきてください」って、今までで一番好感触な感じですぐにOKが出ました。
「かぐや様」のアイデアは燻製中に
──「お互いに片思いの2人が、相手に告らせようとする」というアイデアは、どうやって思いついたんですか?
家で燻製を作っていたときに浮かんできたんです。
──燻製ですか(笑)。
「なんで僕は今、家で燻製作ってるんだろう、ケムいな」と思いながら、ふと青春時代を思い返しちゃったんでしょうね(笑)。最初に浮かんだのは、互いに好き合っている男女が、学校の帰り道にアプローチをかけあって、相手から決定的な言葉を引き出そうとするっていう図なんです。そのときは普通のツンデレな男女2人っていう感じだったんですが、そこに生徒会などの要素を足して今の形になりました。
──サブタイトルに冠されている「天才」という要素も最初はなかったんですね。
そうですね。打ち合わせのときには、「お互いに片想いの2人が、相手に告らせようとする」という設定以外は、何も考えていなかったんですよ(笑)。そこから「相手から言葉を引き出す掛け合いをするなら、頭がいい感じのキャラがいいですよね」「頭がいいと言ったら舞台は名門校の生徒会とかですね」って、アドリブで担当さんに話したら、それがポンポン繋がっていったんです。ただ「頭脳戦」的な側面を大きなテーマにしていたのは、初期の頃だけだったんですよね。
──単行本4巻のおまけページでも「『天才たちの恋愛頭脳戦』という看板はそろそろ外すべきではないだろうか」とご自身でツッコんでいましたし、巻末のQ&Aでも「天才たち?」「頭脳戦?」という問いにそれぞれ「はい。すみません。」とお答えになっていましたね(笑)。具体的には「頭脳戦」からどういった方向にシフトチェンジしたんですか?
「キャラクターの感情を引き出す」っていう部分を中心に置いて、「その感情を引き出すためにはどうすればいいか」ということを考えるようになったんです。例えば4巻に書記の藤原さんがトランプでイカサマをする回があるんですけど、まず「イカサマがバレて恥ずかしい」という感情を自分のネタ帳の中から持ってきたんです。そして「イカサマと言えば一番スタンダードなのはトランプかな」「じゃあどんなイカサマが考えられるかな」と話を組み立てていきました。そうやって物語を作るようになってきたときに、今のコメディ重視の「かぐや様」が見えてきたんです。