コミックナタリー PowerPush - カヅホ「カガクチョップ」×犬犬「深海魚のアンコさん」
「キルミーベイベー」のカヅホ最新作 カヅホの過去を知る犬犬とのマンガ談議
執筆時、手元に広げておきたいマンガってありません?
犬犬 今日ぜひお聞きしたかったんですけど、僕は作業時に手元に広げておきたいマンガっていうのが幾つかあるんですが、カヅホ先生はそういう作品ってありますか? 僕の中では「カガクチョップ」はその筆頭なんです。
カヅホ マジですか、すごい嬉しいです。ネームを作るときですか?
犬犬 ネームのときも作画のときもありますね。直接的に何かを抜き出すわけではないし、何を参考にしているのか自分でもちょっとわかんないんですが。傍らで見守っててほしい、じゃないですけど。
カヅホ 確かにそういうマンガってありますよね。そのマンガと同じことをしたいわけではないんですけど、その中に何かヒントが入ってるような。
犬犬 そう、そうなんです。カヅホ先生はどんな作品を手元に置かれてますか。
カヅホ うーん、TOBIさんの「眼鏡なカノジョ」ですかね。同じレーベルのタイトルなので、作風は違うけどレーベルのカラーを意識しながら作品が作れるというか。あと「カガクチョップ」もメインキャラが2人ともメガネですし(笑)。
犬犬 何かしら開いておくことで、「この作家さんだったら、このシチュエーションをどう描くだろう」みたいなイメージがしやすいんですよね。
カヅホ 「深海魚のアンコさん」もよく作業中に読ませてもらってますよ。学園ものなので、「犬犬さんは制服のヒジのシワをどう描いてるのかな」とか気にしたりして(笑)。
犬犬 いや恐れ多いです。でも学園ものと言えば、教室描くのって難しくありませんか。
カヅホ わかります、机たくさん描くのとか地獄ですからね。
犬犬 背景を描く作業が最後まで残ったりするんですよ。
カヅホ 「カガクチョップ」は教室じゃなくて科学準備室が舞台なので、その辺りは助かってますが……(笑)。
犬犬 あっそうか、羨ましい……。僕は「SketchUp」という3Dの描画ソフトを使ったりしてますよ。教室を3D化したデータがあるので、それをぐりぐり動かして参考にしています。
「ネタが思い浮かばないのは、こいつらが横でチュッチュしてるからだ」
──両作品とも1話完結ものですが、ネタ出しに詰まったときはどうされてるんですか?
犬犬 僕は散歩に出るようにしてます。ずーっと歩いて、ただただ待つ。待つ以外の方法を教えていただきたいです。
カヅホ 僕も昔はよく歩いてたんですけど、やっぱり思い浮かばないときは結構な距離を歩いちゃって大変ですよね。夜中の1時とか2時に近所の公園を、ネタが出るまでぐるぐる周り続けたりして。カップルが居たりすると「思い浮かばないのは、こいつらが横でチュッチュしてるからだ」って八つ当たりしてました(笑)。
犬犬 はははは。たぶんカップルも「早くどっか行ってくれ」って思ってますよね(笑)。
カヅホ で、昔はそうやってネタが出るまで考え続けてたんですけど、最近は満足できるものじゃなくても、とりあえずアウトプットするようにしてますね。「これは論外」と思うネタでも、とりあえず形にしようとしてみる。そうするとなぜ論外にしていたのかが見えてきたりして、意外とそこから発展させられることがあるんです。「いくら考えても出てこない」というのはいいものを出そうとするあまり、伸びしろのあるネタも頭の中で勝手にボツにしていることがあるんじゃないかなと。
犬犬 ああ、それ、すっごく納得できます。
カヅホ 自分に対して「何も出ないなんて甘ったれたこと言うな。とりあえずなんでもいいから出しなさい」って思いながら。そこから考えていくうちに、満足できるネタが思いつく場合があったりするんです。
犬犬 それ早速実践してみます。ちょっとはネタ出しが早くなるといいんですけど(笑)。
正直、自分のギャグは好きじゃない
──ギャグについてはいかがですか。何かルールなど設けていらっしゃることはあります?
カヅホ 気をつけているのは、自分が面白いと思ったことは描かないようにすることですかね。自分が好きなギャグは、他人にとっては面白くないってことがわかってるんで。
犬犬 え、そうなんですか。
カヅホ 例えばアニメ観てると、自分にとって面白くないところで他の人が笑ってることが多くて。で、ある日、自分がギャグだと思っていないことが世の中ではギャグとされていることに気付いたんですよ。
犬犬 ははは(笑)。
カヅホ あと同人誌を読んだ人からよく「作風がブラックだね」って言われてたので、それで自分のマンガの方向性が固まった感じですかね。僕はすごくシュールなギャグが好きなんで、自分がウケるものだけ描いてたらきっと誰も笑えないと思います。だから正直「自分はこのネタ好きじゃないけど、周りは面白いと思うんじゃないかな」という感覚でマンガを描いてますね。
犬犬 それは知らなかったです、驚きました。
カヅホ 犬犬さんはなにかギャグに対して気をつけているところはありますか。
犬犬 僕は自分でギャグを作ってるっていう意識はあんまりしないようにしています。意識し始めると、何が面白いのかを考えて泥沼にハマっちゃうと思うんで。なのでスベったとしても、「別にギャグのつもりで描いてないし」みたいな気持ちで予防線を張ってますね。
カヅホ ははは(笑)。
犬犬 あんまり思い詰めると、何もできなくなると思うんですよね。煮詰めすぎはよくないです。
──まだまだお話をお聞きしたいのですが、お時間が迫ってきてしまいました。最後は「深海魚のアンコさん」と「カガクチョップ」をお題にした、おふた方の描き下ろしイラストをお披露目して、特集の締めくくりにしたいと思います。今日はありがとうございました。
カヅホ ありがとうございました。じゃあここからは犬犬さんに趣味の質問しても大丈夫ですか? 1月期のアニメ何観てたかとか……(笑)
犬犬 ぜひぜひ。
- カヅホ「カガクチョップ」1巻 / 2014年4月12日発売 / 616円 / ほるぷ出版
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作品紹介
科学部部長の鈴園沙衣(すずぞの・さい)は、周囲の迷惑を顧みず、好奇心の赴くままに日々変な実験や発明をしているちょっとマッドサイエンティスト気質な女の子。そんな沙衣を注意できるのは、クラス委員長である長倉蓮(ながくら・れん)だけ。だが蓮は、委員長キャラでありながら人と少しズレている(要するに「バカ」)ため、事態はいつも変な方向に行ってしまい……。
- 犬犬「深海魚のアンコさん」2巻 / 2014年3月12日発売 / 617円 / ほるぷ出版
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作品紹介
人魚の受け入れが盛んな町で暮らす、人魚好きの女子高生・若狭乙見(わかさ・おとみ)。そんな乙見がご執心なのは、チョウチンアンコウの人魚・アンコさん。誘引突起を光らせ、猫やツンデレ熱帯魚の人魚・ベタ子ちゃんを撃退するアンコさんが気になって仕方がない乙見は、 ひょんなことからアンコさんの秘密を知ってしまう。果たしてその秘密とは!?
個性豊かな人魚達が贈る新鮮ぴちぴち異文化交流コメディ!
カヅホ
2008年、まんがタイムきららキャラット(芳文社)にて「キルミーベイベー」でデビュー。2011年にはTVアニメ化を果たした。現在は「キルミーベイベー」のほか、WEBマンガサイト・COMICメテオにて「カガクチョップ」を連載中。
4月19日にSHIBUYA TSUTAYAでサイン会を開催!
犬犬(いぬいぬ)
フレックスコミックスのマンガ新人賞にて「深海魚のアンコさん」で佳作を受賞。2012年、WEBマンガサイト・COMICメテオで「深海魚のアンコさん」の連載が開始され、マンガ家デビューを果たす。またプロの原型師としても活躍中。