タッグを組んでいて楽しいのは、いい意味での「裏切り」
──BLというジャンルは圧倒的に女性の読者が多いと思いますが、そのBLを男性作家さんと組んで描いているという意味で、「同棲ヤンキー」はほかにない作品だと思います。制作するうえで、男性作家さんと組んでいるからこそ生まれたエピソードがあれば教えてください。
SHOOWA ネームの段階では表情を描いてなかったコマの絵が、予想外の表情で上がってくることがあるのが面白いです。例えば……赤松が、同棲してからなかなかオナニーができていなくて悶々としている。そんなときにセブンが散歩に行って「帰りにコンビニ寄るけど何かいるか?」と聞いたら、その隙にオナニーしようと思った赤松が「いーーっ」と答えてプイっとして、セブンがパタンと戸を閉じたときにもなんだかツンとした顔をしている。この表情が意外でした。私の中ではこういうときって、高揚感を隠したポーカーフェイスのイメージだったんですが、男性が描くからなのか、先生の捉え方なのか、ちょっとすねた感じの表情というのが新鮮でしたね。私の想像とは違って、ここでの赤松は、「これから(オナニーを)するぞ」って思っているから、若干照れと意地っぱりの混ざったような表情になっているんです。こういった、予想外だけど素敵な表現がところどころありましたね。だから、キャラクターのかわいらしさに男の子っぽさが上乗せされて、作品の味になっているのではと思います。
──それを知って読み返すと一段とかわいく思えますね。
SHOOWA 赤松が、膝を抱えているときにお猿さんみたいな顔をしているところもすごく好きなんです。ふとしたときの仕草がかわいらしいです。
雲田 小ネタ部分がすごくかわいいですよね。
──いつものSHOOWAさんの作品で見るギャグっぽい小ネタを、奥嶋さんの絵で見るとまた雰囲気が変わって、面白いですね。
SHOOWA 比較して2度楽しんでいただくために、私のコミックスもぜひ買ってほしい(笑)。
雲田 このお父さんとのシーン、「よろしくお願いします」と言っている時の手がグーになっているんです。ヤンキーがやりがちな「ウス!」っていう手ですよね(笑)。こういうのも、すごく「たまらんなー」と思います。
SHOOWA ほんとに、仕草1つひとつの描写が、すごく丁寧なんですよね。
──2人でタッグを組んでいると、いい意味で仕上がりが予想を裏切っていくこともあるんですね。
SHOOWA そうなんです。もちろん、奥嶋先生のお気遣いでネームに合わせて描いてくださっているところもたくさんあって、そちらもいつも「すごい!」と思うのですが、いい意味での「おおっ、こう来る!?」というのがあって、ほかの人が描くと違う作風になることの面白さでは、毎回すごく楽しませていただいてます。
担当「マッサージ椅子に2人で乗せてみよう」
雲田 「赤松セブン」を読んでいて、ご自分で萌えてしまうこともありますか?
SHOOWA 自分で描くマンガはあんまり萌えないんです。だけど、1、2話目が上がってきたときにちょっと萌えみたいなものを感じたので、そこで「あ、かわいい。これは原作を続けられる」と思いました。
雲田 私も自作にはそんなに萌えられないんですよね。人が描いてくれるとその感情もちょっと変わるのでしょうか?
SHOOWA そうですね。そこが分業のありがたいところかなと。自作を描いているときって、はじめは萌えはなくても、キャラクターの関係性ができたときに、どちらかというと愛着みたいなものが沸きますよね。
雲田 そうですよね、親戚みたいな気持ちで(笑)。それから、通常のBLマンガより、すごくゆっくり丁寧に展開が進んでいるように感じますが、それは意識して描かれているのですか?
SHOOWA はい。1巻完結ではなく続刊があるという話だったので、せっかくならゆっくり関係を育んでいこうというのと、奥嶋先生がBLを初めて描かれるということはすごく念頭に入れていました。気を使った、というのとはまた違うのですが、読者さんも「はい、BLです!」とできあがった恋愛関係をポンと見せられるよりは、ジリジリじれったい感じで来るほうがいいんじゃないかなと思って。
雲田 なるほど。赤松がオナニーして寝ちゃって、そこをセブンに発見されるシーンなんかも、普通のBLだったらそのまま色っぽい展開になっちゃいそうですもんね。でも、すぐにはそうならないのがむしろいいです。
SHOOWA そこは担当さんとも、もともと「最後に土管で」というのがあったので(笑)、「焦らしていこう」という方向性ができていました。ショッピングモールで赤松とセブンが買い物しているシーンで、「デモ用のマッサージ椅子に2人で乗せよう」と言い出したのも担当さんなんです。言われた直後は「またこの人は、何を言ってるんだろう?」と思ったのですが(笑)、考えていくとそれも面白いなと思って、そこを目指してネームを描いて、会話を肉付けしていきました。もっとも、本当に土管でフィナーレを迎えるかについては未定なのですが。
──担当さんの性癖、もといアイデアが活きているのですね。
雲田 そういう個人のこだわりって、意外とマンガでも大切ですよね。
SHOOWA アイデアを出していただけているので、その楽しさはありますね。ネームも私の力だけで描けているわけではない作品です。
表紙の絵がなぜか「間男」に見えてしまった理由とは
──SHOOWAさんは、カチCOMIを1年やってみていかがでしたか?
SHOOWA 私は毎回表紙のイラストを描かせていただいていて、それも印象深いです。毎回テーマがあるんですよ。
雲田 (表紙イラスト一覧を見ながら)どれも素敵です。特に、vol.22がすごくいいですよね!
SHOOWA ありがとうございます。BLっぽいですよね。
雲田 これは毎回そのために考えるオリジナルのキャラなんですか?
SHOOWA そうです。vol.22のときはテーマがなく、これまでの表紙では制服やスーツが多く色味が単調になってしまっていたので、「ちょっと色味を変えたものを描いてみたい」とご相談して描かせていただきました。この絵では服装をヤカラっぽくして、ある程度色を使えるようにしました。普段は号ごとにテーマがあることのほうが多くて、新年(vol.18)はお正月らしいもの、vol.21は平成が終わるタイミングだったので、小渕(恵三)さんの「平成」オマージュですね(笑)。4月に出た号なので、新入生のやんちゃな子2人というイメージです。
雲田 vol.19は奥嶋先生と合作で描かれていますね。
SHOOWA 先生に先に上げていただいたものに合わせて描きました。奥嶋先生が赤松くんを描いて、私のほうでそれを見ながらセブンを描いていたんですが、参考に奥嶋先生の描かれたセブンをモニターに映して見ながら描いたら、なんだか自分の描いているセブンが間男みたいな気がしてきちゃって(笑)。モニターから、赤松くんのダンナである本物のセブンがすごい見てくるというか、視線を感じて……。
雲田 すごく面白いですね。同じキャラを描いてるはずなのに、違う人という認識になっちゃうんですね。
SHOOWA そんな感じです。「人の受けにちょっかい出してるぞ!」という間男の気分を味わえて、ちょっと楽しかったです。すごく楽しく描かせてもらいました。
10周年を迎えて、「ハイロー」にハマって
──雲田さんは昨年、2018年が商業デビュー10周年の記念イヤーでした。
SHOOWA おめでとうございます。
雲田 ありがとうございます。去年は総まとめみたいな感じで、10年分のまとめをしっかりやり切った気がしています。今は少しお休みしていて、また改めて次の作品を始めようかなというところです。作品の続編も全部やり切れたので、節目にはなりましたね。
SHOOWA いろんな作品の切れ目ということで、ちょっと“燃えカス”になりませんでした?
雲田 今、少しなりかかってますね(笑)。「新宿ラッキーホール」も2巻を出して、やれることを全部やっておこうという年でした。
──雲田さんといえば最近は「HiGH&LOW」にハマり、それをきっかけに三代目 J SOUL BROTHERSにはまっていらっしゃるという噂ですが。
雲田 はい、「ハイロー」大好きです! まだまだ推します(笑)。SHOOWAさんはご覧になっていますか?
SHOOWA 私は担当さんに言われて1、2本は。だからボンネットのシーン(注:「ハイロー」で林遣都演じる日向紀久が車のボンネットに乗って登場する無茶なシーンが話題となった)は見ました(笑)。あんなところに乗られたらドライバーが前見えねえじゃん、って(笑)。
雲田 運転する人が困りますよね(笑)。
SHOOWA でもみんな、そういうネタ要素込みで楽しむ作品ですよね。ちなみに雲田さんは、「ハイロー」で好きなカップリングはあるんですか?
雲田 カップリングと言うほど二次創作を読んだり描いたりはしてないですけど、(岩田剛典演じる)コブラちゃんと(山田裕貴演じる)村山さんの、2人の微妙な関係が好きですね。「ハイロー」のストーリーの中で2人組に萌えるといったらその2人なんです。あの2人はぜひともSHOOWAさんの絵で見たい(笑)。
SHOOWA そうですか?(笑) 雲田さんの描いた黒目がちな村山はすごく想像できますよ。
雲田 いえいえ、私の中ではSHOOWAさんが、あの2人のコミカライズを見たいマンガ家さんナンバーワンですよ! 特にバンダナ(村山)は……SHOOWAさんのマンガにすごく出てきそう(笑)。これまでの私のマンガには、実はああいうドヤ感のある感じのイケメン設定のキャラっていなかったんで、より良い男子を描けるよう、研究も兼ねて今後は色々挑戦してみたいですね。私、男子を描くのがすごく好きなんで(笑)。
──今後、雲田さんの作風がどのように変わるのか、すごく楽しみです。
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ケンカと濡れ場は似ている「2人が一番輝く瞬間」