コミックナタリー Power Push - ジャンプスクエア
剣心の生き様を「本当にお疲れ様」に変える北海道編
ジャンプスクエア(集英社)の9周年を記念し発表された、和月伸宏の前後編読み切り「―るろうに剣心・異聞― 明日郎 前科アリ」。後編が掲載されている12月2日発売のジャンプスクエア2017年1月号では、同作が、以前から構想だけが和月より語られていた「るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―」北海道編の序幕であることが明らかになった。
コミックナタリーで展開している和月へのインタビューの後編では、このビッグニュースについて直撃。北海道編執筆の真意や、「明日郎 前科アリ」執筆の経緯、この9年間の「るろうに剣心」の展開について聞いた。
取材 / はるのおと 文 / 宮津友徳
剣心の人生の終わらせ方が見えた
──特集の後編では「明日郎 前科アリ」や「るろうに剣心」を中心にお話を伺っていければと思います。「明日郎」は「―るろうに剣心・異聞―」と謳われていますが、「るろうに剣心」には今後も新しい展開があるんでしょうか?
うーん、どこまで言っていいのかな……。実は来春くらいから「るろうに剣心」の北海道編を始めることになりまして。
──えっ……構想だけを考えて、お蔵入りにしたという?
ええ。当時「剣心」を終わりにした理由っていうのは、「これ以上描いたら結末が少年マンガじゃなくなっちゃう」っていうことがあったからなんです。剣心は、もともとは人斬りですから、幸せには終わらせられないだろうと。
──インタビューの前編でもおっしゃっていた「笑顔とハッピーエンド」から離れてしまうと。
当時はどうしても、これ以上描いていけば剣心は幸せにはなれないということと、「笑顔とハッピーエンド」で終わらせたいということに折り合いをつけられず、先の物語を提示することができなかったんです。でも「剣心」が実写映画化されるのに合わせて、原作のパラレルワールド的な「キネマ版」を描いたときに考えが深まりまして。もともと「キネマ版」を連載するときに「剣心」の最終章を描こうかというアイデアがあったんです(参照:「るろうに剣心」新シリーズ連載開始、8月にはジャンプ読切)。
──それはどういった内容だったんですか?
そのとき考えた話は、男が憧れる人生の完結としてはひとつのハッピーエンドではあったんですけど、読者が読んだときにハッピーエンドかと言われるとそうではなかったんです。そして映画の制作が進んでいく中で、どうすれば剣心の人生を少年マンガとして終えることができるかということを考えはじめて。で、映画第2弾の「京都大火編」が公開されたあたりで「パン」と描き方が見えてきたんです。そのあと宝塚で「剣心」がミュージカル化されて、それもかなりヒントになりましたね。あとマイナスな話になっちゃうんですけど自分が今40代半ばで、この先どこまで商業マンガ家としてやっていけるのかっていうことも大きな要因です。
──体力的な面で?
はい。アイデアはたくさんありますし、いろんな作品を描きたいっていう欲もあるんですが、10年先15年先、50歳60歳になったとき気力、体力の面で商業マンガ家としてやれている姿があまりイメージできなくて。だとしたら、たくさんアイデアがある中で、俺が描きたくて読者が読みたいと望んでいるものは何かと考えたら、それは「剣心」の北海道編だろうと。なので、編集部には「エンバーミング」を描き終わったら、「剣心」の北海道編をやりますと伝えていたんです。
「明日郎 前科アリ」で新キャラを好きになってほしい
──「―るろうに剣心・異聞―」と冠されている「明日郎 前科アリ」は、「るろうに剣心」とどういった関係性を持つ作品になるんでしょう。
北海道編の序幕になります。北海道編が始まれば、新キャラクターが出てくるわけですが、やっぱり読者は剣心たちの活躍が見たいわけですよ。その中で新キャラを話の中に打ち込んでいくのは、大変な作業になるでしょうし、「新キャラはいらない」と言われてしまうんじゃないかと感じて。ただ「北海道編」にも新キャラは絶対に必要だし、どうしようかと考えたとき、読み切りって形で彼らのお話を描こうと思い付いたんです。新キャラたちについてまずはしっかりと知ってもらって、好きになってもらえれば最高だと。
──ここまでのお話で、「『るろうに剣心』と同時代を描くことにした理由」や「あえて『るろうに剣心』の名前を冠した訳」など「明日郎」について用意していた質問の答えがすべて出てしまいました。
あはは(笑)。北海道編は「るろうに剣心」の最終回付近と同じ時代の話になるので、剣心たちも成長しちゃっているんですよね。もちろん愛嬌のある明るさは最初から出していきますが、やっぱり大人なのであまりにバカなことをやるわけにはいかないんですよ。そうなったときに愛嬌のあるバカなことをやれるキャラクターがほしいと。そのために描いたのが「明日郎」なんです。
──「明日郎」に出てくる悪太郎や阿爛は、年齢的には弥彦と近いですよね。
同い年ですね。で、ヒロインとして出てきた旭が1つ年上です。弥彦は前作で成長してしまっているので、別の成長していくキャラクターがほしかったというのもあります。
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- 和月伸宏とジャンプスクエアの9年
- 「るろ剣」北海道編に迫る
- 和月伸宏 「―るろうに剣心・異聞―明日郎 前科アリ」
- 「―るろうに剣心・異聞―明日郎 前科アリ」
- ジャンプスクエア12月号、2017年1月号に2カ月連続掲載!
時は明治、とある罪によって東京の集治監に収容されていた長谷川悪太郎は、出所当日に同い年の少年・井上阿爛と出会い、行動をともにすることになる。食い扶持に困った2人は、悪太郎が集治監収容前に「地獄に堕ちた“言禁の首魁”」のアジトから持ち出したという悪の宝刀・無限刃を売り払い、金を得ようと目論むが……。
- 「ジャンプスクエア1月号」 / 2016年12月2日発売 / 集英社
- 「ジャンプスクエア1月号」
- 「ジャンプスクエア1月号」 / 590円
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和月伸宏(ワツキノブヒロ)
1970年東京都生まれの新潟県長岡市(旧越路町)育ち。1987年に「ティーチャー・ポン」が、第33回手塚賞佳作を受賞。1994年に週刊少年ジャンプ(集英社)で「るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―」の連載を開始する。同作は1996年にテレビアニメ化され、連載終了後もOVA化、実写映画化、宝塚歌劇団によるミュージカルの制作など、さまざまなメディア展開が行われている。「るろうに剣心」の連載終了後は、週刊少年ジャンプで「GUN BLAZE WEST」「武装錬金」を、ジャンプスクエア(集英社)の創刊号より「エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-」を発表。2016年、ジャンプスクエアの創刊9周年に合わせ、「るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―」と同時代を描く「―るろうに剣心・異聞―明日郎 前科アリ」を、前後編の読み切りとして発表した。
2016年12月2日更新