コミックナタリー PowerPush - 映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」

いがらしみきお×松尾スズキ

お金恐怖症男の不思議ストーリー、実写映画化 警戒しつつも相思相愛? 作者と監督が語り合う

ご飯粒の解釈にはすごく悩んだ(松尾)

松尾 けっこう現場で皆悩んだのが、ご飯を食べ終わったお茶碗にお湯を入れて、その中の米粒がかむろば村に似ている、っていうことの解釈で。

──物語の終盤、村長の演説の中に登場してくる部分ですね。マンガ・映画ともにいちばん盛り上がるシーンでした。

マンガ「かむろば村へ」より。

松尾 村の中のひとつの家という意味なのか、もっと抽象的な表現なのかって僕もすごく悩んで。もうしょうがないからそのままやっちゃえと思って撮ったんですが……まあでも、過疎の村が底に沈んでるみたいなイメージですかね。

いがらし 田舎の、特に昔の人はご飯を食べた後に、お茶じゃなくて白湯を入れるんですよね。昔の家にちょっと小さい天窓みたいなものがあって、そこから光が屈折してその真っ白い茶碗の中に当たってきて、するとご飯粒も真っ白になって……というのがずーっと綺麗なイメージとして、子供の頃から残ってるんですよ。

松尾 僕の嫁なんかは、あのシーンの何が美しいのか、わからなくて混乱したみたいに言うんですよ。そんな食べ方したことないんでしょうけど(笑)。僕はニュアンスとしてわかるんですけどね。ひとつのつましさみたいなものですよね、きっと。

いがらし そうですね。要するに貧乏性なんですが、それは尊いものなんじゃないかというメッセージというか、ニュアンスも含まれてる。

タケが超人になるという結末(いがらし)

いがらしみきお

いがらし しかし松尾さんどうですか。もう映画を撮り終えてだいぶ時間が経ちましたけども、あそこをこうすればよかったとか、そういう後悔みたいなものも出てくるんですか。

松尾 そうですねえ、あんまりネガティブなことは言いたくないんですけど(笑)。あそこは時間があんまりにもなかったなとか、あと1時間あれば、とかいう思いはありますね。

いがらし 私も後からこれはこうしたらよかった、というのはよく思う方で。実は「かむろば村へ」のエンディングは、最初に考えたものと全然違うんです。

──当初考えてらっしゃったのは、どのようなラストだったんですか?

映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」より。

いがらし タケが一人前の村人というか、農村の超人みたいなのになっちゃうという。作物でもなんでも育てられて、もうたったひとりで生きていけるようになる。もちろんお金も使わないで。

松尾 へええ。それはすごく映画的ですね。

──もはや全然違う話。そしたら松尾さんが撮られるかどうかもわからないですね。

松尾 いや、でもそれって、超人になったことで、また何か変なことが起きると思うんですよ。幸せでみんなハッピーっていう最後じゃないんだ、きっと。それはそれで見てみたかったですけどね。

実写とマンガの誤差を埋めるべく(いがらし)

──それでは最後に、映画を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。

左から松尾スズキ監督、いがらしみきお。

松尾 いろんなエピソードをはしょりましたけど(笑)、最善は尽くしましたので。新しいかむろば村の物語として、また観ていただければなと思います。

いがらし 原作を読んだ上で映画を観る方というのは、マンガのキャラクターと実際に映画で演じられる役者さんのキャラクターの誤差というものが、いちばん気になるわけですよ。当然顔も違いますから。そういうふうな中で、その誤差を埋めるべく、松尾さんがどういう演出を施したのか、そこを観ていただきたいと思います。

映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」2015年4月4日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」

監督・脚本・出演:松尾スズキ

原作:いがらしみきお「かむろば村へ」(小学館 ビッグコミックス スペシャル刊)

出演:松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、二階堂ふみ、片桐はいり、中村優子、村杉蝉之介、伊勢志摩、オクイシュージ、モロ師岡、荒川良々、皆川猿時、西田敏行

配給:キノフィルムズ

主題歌:OKAMOTO’S「ZEROMAN」(ソニー・ミュージックレーベルズ / アリオラジャパン)

日本総合悲劇協会vol.5「不倫探偵~最期の過ち~」
日本総合悲劇協会vol.5「不倫探偵~最期の過ち~」

作・演出:天久聖一、松尾スズキ

出演:松尾スズキ、片桐はいり、二階堂ふみ、伊勢志摩、皆川猿時、村杉蝉之介、近藤公園、平岩紙

日程:(東京公演)2015年5月29日(金)~6月28日(日)下北沢 本多劇場

(大阪公演)2015年7月1日(水)~7月5日(日) サンケイホールブリーゼ

企画・製作:大人計画

いがらしみきお
いがらしみきお

1955年1月13日生まれ。宮城県出身。1979年、漫画エロジェニカ(海潮社)に投稿した「'80 その状況」でデビュー。同年ギャグダ(竹書房)にて連載を始めた「ネ暗トピア」で支持を得る。1983年、漫画サンデー(実業之日本社)にて連載の「あんたが悪いっ」で第12回漫画家協会賞優秀賞を受賞。1986年より連載を開始した「ぼのぼの」で、1988年に第12回講談社漫画賞青年一般部門を受賞。同作はテレビアニメ、劇場アニメ化され、劇場版の監督は作者自身が務めている。1998年、月刊少年ガンガン(エニックス)にて連載された「忍ペンまん丸」で第43回小学館漫画賞を受賞。2010年からは月刊IKKI(小学館)にて「I【アイ】」を連載し、手塚治虫文化賞に3年連続でノミネートされた。

松尾スズキ(マツオスズキ)
松尾スズキ

1962年12月15日生まれ。福岡県出身。「大人計画」主宰。劇作家、演出家、俳優、コラムニスト、エッセイスト、小説家、映画監督、脚本家など様々な顔を持つクリエイター。1988年、「大人計画」を旗揚げ。1997年、舞台「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞、2001年、ミュージカル「キレイ-神様と待ち合わせした女-」で第38回ゴールデン・アロー賞演劇賞を受賞。2008年には「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。2004年、初監督映画「恋の門」がヴェネツィア国際映画祭に正式出品される。2005年に「クワイエットルームにようこそ」で、2010年に「老人賭博」でそれぞれ芥川賞にノミネート。「クワイエットルームにようこそ」は自らの脚本・監督により映画化もされた。