コミックナタリー PowerPush - 映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」
いがらしみきお×松尾スズキ
お金恐怖症男の不思議ストーリー、実写映画化 警戒しつつも相思相愛? 作者と監督が語り合う
撮影前の打ち合わせは一切なかった(いがらし)
いがらし 松尾さんの絵コンテっていうか、絵をちょっと見せてもらったんですけど、うまいんですよ。あれは松尾さんが描かれてるんですか?
松尾 絵コンテは専門のライターの方に描いてもらってます。
いがらし お芝居のチラシかなんかで、ご自分で絵を描かれたりしたことないですか?
松尾 ああ、それはありますね。
いがらし あったでしょ? 私も覚えているんですが、完全にマンガ家の絵なんですよ。
松尾 マンガ家、目指してましたからね。
いがらし 山上たつひこ系の絵ですよね。私もその系列のマンガ家なんで、我々は“山上チルドレン”ですよ(笑)。
松尾 絵柄的にはそうかもしれないです。
──絵柄だけでなく、思想やストーリーにも山上先生の影響がありますか?
いがらし うん。やっぱりどっかありましたよね。お話を作る面で、とにかくヒューマニズムみたいなものに寄りかかってしまうのを、なんとなく警戒するというか。
松尾 そうですね。
いがらし 今回の映画も、松尾さんが作られるならヒューマニズムに流れてしまうことはないだろうという感じがあったんです。だから松尾さんと、映画を作る前に打ち合わせをするということは一切なかった。
──不安などはなかったんでしょうか。
いがらし ええ。松尾さんがこの原作を面白がるとこはどこなのかと考えると、やはり人間ドラマの部分なのかと。いろいろな人が出てきてあたかも群像劇みたいになるんですけども、そういうところを松尾さんは十分料理してこられるだろうなと思ってましたんで、何も心配することはなかったです。
松尾 確かに群像劇であることは最初から意識していました。全体のキャラが濃くて、ひとりひとりに起承転結が一応ちょっとずつあって。出た意味がちゃんと感じられるキャラにしたいなと思って。
原作は種みたいなもの(いがらし)
──マンガを映画化する際には、どうしてもいろいろなシーンを省く必要が出てくるかと思うんですが。
松尾 ええ。僕の好きな雪かきの話とか、熊が出てきた話とか、お母さんが来てタケに会いに来る話とかね。一応台本の初稿には書いてみたんですけど、やはり長いということで削らざるを得なかった。
──その判断はどのように?
松尾 やはり話の流れですね。オープニングからエンディングまでの展開をストップさせてしまうエピソードは、どんどん省こうかということに結局なりました。でもそのへんはプロデューサーとかなり話し合いもしたし、結構悩んだところですね。
いがらし でも私は映画を拝見して、とても原作を尊重してもらえたと思ったんですよ。もっと松尾さん流に取捨選択して、オリジナルのエピソードを入れてもらっても全然構わなかったし。「かむろば村へ」という作品として、全然違和感のないものになると予想してましたので。むしろ、もっと違ってもよかったかなぁと思いました。
──へええ。
いがらし 原作は種みたいなものですから。それを松尾さんという畑に撒いてみて、結果として生えてきたものが予想よりも大きかったとか、こんなに花が咲く木だったのか、とか。そういう驚きみたいなものも、別に問題なく受け止めようと思ってましたので。
──なるほど。原作との違いもポジティブに受け止めるという。
いがらし もちろんです。例えば阿部サダヲさんが演じられた与三郎ですが、マンガの与三郎はもっと体がデカくてがっしりしている。
──確かに。阿部さんは詰め物をされて演技されていましたね。
いがらし ええ。ですから「おりゃー!」とか叫びながら、豆タンクみたいにどんどん物をぶん投げるような行動をさせて、結構荒っぽいキャラクターにアレンジしていただいたりね。それで十分だと思いました。
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- 映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」2015年4月4日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
- 映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」
監督・脚本・出演:松尾スズキ
原作:いがらしみきお「かむろば村へ」(小学館 ビッグコミックス スペシャル刊)
出演:松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、二階堂ふみ、片桐はいり、中村優子、村杉蝉之介、伊勢志摩、オクイシュージ、モロ師岡、荒川良々、皆川猿時、西田敏行
配給:キノフィルムズ
主題歌:OKAMOTO’S「ZEROMAN」(ソニー・ミュージックレーベルズ / アリオラジャパン)
- いがらしみきお新刊情報 発売中 / 小学館 /「かむろば村へ」上・下巻 / 「今日を歩く」
- 「かむろば村へ」上巻 / 860円
- 「かむろば村へ」下巻 / 860円
- 「今日を歩く」580円
- 日本総合悲劇協会vol.5「不倫探偵~最期の過ち~」
- 日本総合悲劇協会vol.5「不倫探偵~最期の過ち~」
作・演出:天久聖一、松尾スズキ
出演:松尾スズキ、片桐はいり、二階堂ふみ、伊勢志摩、皆川猿時、村杉蝉之介、近藤公園、平岩紙
日程:(東京公演)2015年5月29日(金)~6月28日(日)下北沢 本多劇場
(大阪公演)2015年7月1日(水)~7月5日(日) サンケイホールブリーゼ
企画・製作:大人計画
いがらしみきお
1955年1月13日生まれ。宮城県出身。1979年、漫画エロジェニカ(海潮社)に投稿した「'80 その状況」でデビュー。同年ギャグダ(竹書房)にて連載を始めた「ネ暗トピア」で支持を得る。1983年、漫画サンデー(実業之日本社)にて連載の「あんたが悪いっ」で第12回漫画家協会賞優秀賞を受賞。1986年より連載を開始した「ぼのぼの」で、1988年に第12回講談社漫画賞青年一般部門を受賞。同作はテレビアニメ、劇場アニメ化され、劇場版の監督は作者自身が務めている。1998年、月刊少年ガンガン(エニックス)にて連載された「忍ペンまん丸」で第43回小学館漫画賞を受賞。2010年からは月刊IKKI(小学館)にて「I【アイ】」を連載し、手塚治虫文化賞に3年連続でノミネートされた。
松尾スズキ(マツオスズキ)
1962年12月15日生まれ。福岡県出身。「大人計画」主宰。劇作家、演出家、俳優、コラムニスト、エッセイスト、小説家、映画監督、脚本家など様々な顔を持つクリエイター。1988年、「大人計画」を旗揚げ。1997年、舞台「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞、2001年、ミュージカル「キレイ-神様と待ち合わせした女-」で第38回ゴールデン・アロー賞演劇賞を受賞。2008年には「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。2004年、初監督映画「恋の門」がヴェネツィア国際映画祭に正式出品される。2005年に「クワイエットルームにようこそ」で、2010年に「老人賭博」でそれぞれ芥川賞にノミネート。「クワイエットルームにようこそ」は自らの脚本・監督により映画化もされた。