映画好きの諫山・高畑が最近観たのはこの作品
──ちょっとだけ横道にそれますが、諫山先生と高畑先生はともに映画好きということで、最近観て面白かったドラマや映画の話もお聞きしたいです。
諫山 俺はNetflixで「ミッチェル家とマシンの反乱」を観ました。食べ物が襲ってくる「くもりときどきミートボール」とか、「スパイダーマン:スパイダーバース」、あと「レゴバットマン ザ・ムービー」っていうレゴムービーを作ってる監督(フィル・ロード&クリストファー・ミラー)の作品。「ミッチェル家〜」は、ミートボールじゃなくて、ロボットが襲ってくるというアニメなんだけど、めちゃくちゃ面白かった。
蒲 観てみます。「スパイダーバース」面白いですよね。
諫山 そこからまた絵が進化していて。手描きの質感を立体に落とし込んでいて、観ていても、そこに感動し続けている感じがあります。とんでもないですよ! こういうのが出てきたら、ピクサーとかディズニーのCGでさえも古臭く思っちゃう。
──そんなに進化しているとは……! 絵を描く人ならではの視点ですね。
高畑 僕が最近見て面白かったのは「メランコリック」っていう邦画です。ちょっとネタバレになりますが、営業終了後の銭湯を“人を殺す場所”として貸し出している話で。死体が出たら、お風呂は薪で沸かしているからそこで燃やして、血は水で流せばいいや、と。風呂屋って死体の処理に便利なんだなと(笑)。面白かったですね。
──殺人理髪店が出てくる「スウィーニー・トッド」や、台湾映画の「八仙飯店之人肉饅頭」を彷彿とさせますね。
高畑 でも、グロかったりホラーっぽい作品と思いきや、基本は青春映画なんですよ。インディーズ映画のようですが、日常と非日常の混ざり具合が面白かったです。
諫山 面白そう。最近、邦画は観られてないので観てみます。
「高畑さん、お子さんはいないんですよね?」リアリティの秘密
──では「人類を滅亡させてはいけません」のお話を聞かせてください。先ほど、「舞台は現代だけど、キャラクターは宇宙人というフィクション。それなのにリアリティがあるから面白い」とおっしゃっていましたが、まずは諫山先生の感想をお聞かせください。
諫山 高畑さん、お子さんはいないんですよね?
高畑 あ、はい。いないです!
諫山 いやあ、リアリティというか、子育てにまつわる苦悩をなぜここまで描けるのだろうとびっくりしました。僕も子供がいるわけじゃないので、実感というわけではないんですけど、姪や甥と一緒にいるときの「わーっ!」というカオスを思い出すと、本当にマンガのとおりだなと。
──私も最初に作品を読んだとき、子育てにともなう面倒臭さや、リリンのいたずらにリアリティがあるので「子育て真っ最中のお母さんが描かれているのかな?」と思い、かえって「子育て=母親がするもの」という自分の固定観念に気付かされました。高畑先生がこうした男性の子育てものを描こうと思った経緯を教えてください。
高畑 一番初めにあったのは、「血のつながっていない家族の物語を描きたい」ということでした。血縁って、僕はあんまり重要だとは思っていなくて、それよりもっと強いものがあるんじゃないかと。だから血ではなく、違うところでつながっている家族みたいなものを描きたいなと思って。最初はそんな動機でした。
──血のつながらない家族が絆を育んでいく“疑似家族”というテーマは、マンガや邦画でも王道テーマの1つでもあると思いますが、そこにリリンという「宇宙から来た王女」が入ることで、ぐっとファンタジーの方向に振れます。そのあたりの現実感とSFのさじ加減は、どのように決めていったのでしょうか?
高畑 実はリリンは、最初は宇宙人じゃなくて悪魔だったんです。だけど連載前、設定などをまとめたものを編集部に持っていったとき、編集長から「宇宙人のほうが面白いんじゃないか?」ってアドバイスされたんです。確かに自分でもそのほうがいいと思ったので、そこから描き直しました。
──そうだったんですね。編集長の一言は、「実際の子供は悪魔よりも宇宙人のほうが実感に近いぞ」という感覚に基づいていたのかもしれないですね。
高畑 編集長には実際にリリンくらいの年のお子さんがいるので、「本当の子供はもっとこうだよ」と指摘されますね。僕は子供がいないので、実際に子育てしている方の意見を聴いて、その感覚は外さないように気を付けています。
──リリンがラップを家中至るところにかけて遊んだり、普通の食事ではなくうまい棒ばかり食べたりなど、わがままのリアリティも真に迫っています。そのあたりは取材をされているんですか?
高畑 そこは誰かの話を聞くというより、自分が幼児化してみて考えるというか(笑)。リリンになり切って描こうとすると自分の思考が5歳ぐらいに戻っていくんですよね……。最近、自分でも精神年齢が下がっている気がします(笑)。
──リリンとシンクロして描いているんですね(笑)。
高畑 はい。描いていると、直感的にものを考えたり、子供の思考に返っていっちゃっていますね。
アナログ or デジタル!? 諫山「機械に膝蹴りしたくなる」
──作画について蒲先生にお聞きします。初登場時のリリンは“パンイチでうさ耳の幼女”という大変なインパクトで、ほかの宇宙人たちのビジュアルもそれぞれエッジが効いています。キャラクターをどう作っていったか教えてください。
蒲 キャラデザは、逐一担当さんや高畑さんにチェックしていただいいていますが、まずリリンがパンイチで登場するところで、どれくらい肉付きをよくするか悩みました。自分がけっこうぽちゃぽちゃっとした体つきを好むのですが、最初に出したときにそれで反応がよかったので、そこからは「つるつるでふにふに」の方向に舵を切りました。リリンは架空の子供ですが、手触りを感じられるような絵になるよう心がけています。
諫山 蒲さんの絵は、やっぱりパワーがすごいですよね。グラフィックアートとかの下地を感じます。たしか、ヒップホップのグラフィティとかを書いたことがあるんですよね?
蒲 場所を借りて、ライブペイントをやっていた時期がありました。それくらいでおこがましいのですが、勢いを大事にして描くのは好きですね。
諫山 リリンが物を壊すシーンの躍動感とか、枠に収まらないというか、飛び出してくる感じがよく伝わりますよね。今、原稿は全部デジタルなんですか?
蒲 2巻の真ん中ぐらいで完全デジタルになったんですけど、それまでは線画は全部アナログで描いていました。諫山さんは現状アナログで描かれていますが、デジタル化は考えてるんですか?
諫山 いや、世間的にもうアナログは許されないのかなというくらいの雰囲気があるので、デジタル化も考えてはいますが、どうでしょうね……。
蒲 諫山さん、以前何かの機械がうまく動かなくて「憤死する!」って言ってましたよね(笑)。
諫山 そう、その問題があって。機械って、急に「やっぱりできません!」って言ってくるじゃないですか。僕、人に対しては怒ったりしないんですけど、機械とかに対しては自分でも信じられないくらいの憎しみが湧いてきて、抑えられなくてしょうがないんですよ。怒りで死んじゃうんじゃないかなって。
──ええ……! 家電とかパソコンとかですか?
諫山 そうですね。パソコンって、壊れていきなり電源が入らない、なんてことがあるわけで。アナログだと「ペンにインクがつかない」ってことないですから。アナログなら一瞬で描けるところが、機械でできなかったりしたらもう……。
蒲 「なんで!?」ってなっちゃいますよね……。
諫山 はい。膝蹴り……。
一同 !?
諫山 膝蹴りしちゃうかもしれない。まあ、それでデジタルからアナログにまた戻る人もいますしね。
蒲 PCに膝蹴り(笑)。諫山さんって、原稿で最後トーンを貼り終わった後に、もう1回原稿全体を見回して、見にくいところがないかと「最後のひと押し」をされるじゃないですか。私はその工程がすごいと思っているんですけど、もしトーンとか、仕上げの段階で原稿を取り込んでそこからデジタル作業にしたら、今みたいな最終確認の仕方は難しくなるかもしれないですね。
諫山 確かにそうですね。
蒲 もし今後デジタル化をすることになったら、カスタマーサービスを引き受けるので(笑)、なにかあったら言ってください。
諫山 それはありがたい。
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