奥浩哉「いぬやしき」×久慈進之介「PACT」
日常SFとハードSF、異なる作風の作家が対談
映画を見まくれば、物語の美しいパターンは見えてくる
──「いぬやしき」には、女の子がほとんど出てきませんね。
奥 そうですね。「いぬやしき」に関しては、エッチな描写や内臓が出てきたりするグロい表現はなしにしようと思ってます。おじいさんの落ち着いた雰囲気に合ってないので、全部排除していこうかなと。「GANTZ」がアメリカ映画であるスプラッタホラーを目指していたとするならば、「いぬやしき」はもう少しサスペンス的なノリを目指そうかと。
──作品のストーリー展開も、実写の映画をイメージしているんですね。
奥 今までずっと1日に1本は映画を見てるせいか、物語の美しいパターンというか、シナリオがこう進めばこうひっくり返したり、脇道にそれたりといったチャートが頭の中にあるんです。ネームができなくてつらかったみたいなのは、デビューしてから1回もないかもしれない。
久慈 ネームにはどれぐらいの時間をかけられてますか?
奥 ネームには……2~3時間くらい。久慈さんは?
久慈 僕は2~3日かけています(笑)。
奥 いやいや、ベテランの方でも4~5日かける人がザラにいるみたいですし。僕は特別ネームに時間を割かない作家みたいです。
久慈 ネームの前、お話を作る段階はどうなんですか?
奥 それは結構時間をかけて。特に何かに描くわけではないけど、日常的に頭の中で考えてます。だいたいお話が固まったらネームを描くって感じで。
久慈 奥先生のマンガを読んでて感じるのはテンポの良さなんです。視線がスムーズに流れるというか。ネームって練れば練るほどわかりやすくはなるんですけど、勢いは最初より落ちてしまって。「GANTZ」も「いぬやしき」もすごくテンポよく読めるので、ネームをどうやって描かれてるのか気になってて……。
奥 コツとか教えられたらいいんでしょうけど、感覚の問題なので……。僕にとって糧になったのは、とにかく映画をいっぱい見ていたことかな。僕の場合は映画を見るのが息抜きというかストレス解消なんですよ。じゃないとストレスが溜まっちゃうんだよね。面白いものに飢えてるというか、世界のどっかこっかで新しい発想の面白いものが生まれてないかっていうのを見張ってる感覚。映画とか、お話作りがすごく好きだから、勝手に頭の中で整理されていくのかもしれません。
──久慈さんは普段どんなタイプの映画をご覧になられてますか?
久慈 SFは全般好きですね。少しでも無機質なものが出てくると目が行ってしまうというか。最近だと「ダークナイト」に出てきたバットマンとか、叩くとコンコンって音がしそうな格好がたまりませんでした。
──やっぱり惹かれるのは、無機物なんですね。
久慈 そうですね。自分の作品でも、背景や武器などは難しくても悩み通して描こうと思えるので、今後はキャラクターにも、より力を入れて描いていこうと思っています。
奥 でも「PACT」はストーリーとかもそうですが、ちゃんと読者をびっくりさせようとしていますよね。積極的に心を掴んでいこうみたいな姿勢がすごく見えるので、エンターテイメント精神が欠けているということはないと思います。画面へのこだわりも、久慈さんにとって武器になるはず。
久慈 ありがとうございます! 僕も「いぬやしき」を読んで、おじいちゃんってこんなにも愛嬌と哀愁があるのかと驚きました。「GANTZ」のときは主人公に自己投影していたんですけど、今回は主人公のおじいちゃんの境遇とかに感情移入してます。僕も無機物だけでなく、こんな応援したくなる主人公を描けるように頑張ります!
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奥浩哉(オクヒロヤ)
1967年9月16日福岡県福岡市生まれ。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはTVドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載中の「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。 2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」の連載を開始する。
久慈進之介(クジシンノスケ)
1986年8月15日生まれ。東京都出身。2013年、第68回ちばてつや賞ヤング部門において「ロストマン」で大賞受賞。2014年、ヤングマガジン11号(講談社)にて、初連載作品となる「PACT」をスタートさせる。