奥浩哉原作によるアニメ「いぬやしき」が、10月よりフジテレビ「ノイタミナ」枠にて放映される。総監督を務めるのは、「TIGER&BUNNY」「神撃のバハムート VIRGIN SOUL」などで知られる、さとうけいいち。不慮の事故に巻き込まれ、スーパーパワーを手に入れた主人公たちが求めるのは、世界の破滅か、魂の救済か──。
「GANTZ:O」以来となる“奥浩哉×さとうけいいち”タッグの実現を記念し、コミックナタリーでは両者による対談をセッティング。7月にイブニング(講談社)での連載を完結させたばかりの奥と、今まさにアニメ制作が佳境を迎えているさとう。プライベートでも親交があるという2人が、「いぬやしき」に込めたメッセージと、作品の真髄を語り尽くしていく。
取材・文 / ツクイヨシヒサ 撮影 / 佐藤友昭
テレビ局や映画会社からの反響は「GANTZ」以上だった
──まずは奥先生、「いぬやしき」の約3年半に渡る連載、お疲れさまでした。無事に完走された、現在の心境を教えてください。
奥浩哉 そうですね、今回の「いぬやしき」に関しては、最初から「自由に描いていいよ」とイブニングさんのほうから言ってもらっていたので、本当に最後まで自分の好きなように描かせてもらった感じです。主役がおじいちゃんなのであんまりコミックスも売れないだろうし、「GANTZ」のようなアニメ化や映画化はないだろうなと思っていたんですけど、1巻の終わりから2巻の初めあたりで、もうテレビ局や映画会社からの企画書が結構な束で送られてきていたので驚きました。「GANTZ」のときも、そこまでの大きな反響はなかったので。
さとうけいいち 僕が最初にアニメ化の話を聞いたのは、一昨年(2015年)ぐらいだったかなぁ。「GANTZ:O」の仕上げをやる前だったという記憶があります。その後、顔合わせのときに奥先生が「10巻ぐらいで終わります」とおっしゃったので、スタッフ間にざわざわが起きたことも覚えています(笑)。
奥 10巻で終わらせることは、もう1話目の段階から決めてあったんです。大まかなエピソードもだいたいできあがっていて、その間をアドリブで埋めていくという作業でした。
さとう 僕たちアニメを作る側としては「先生が終わらせるって言うんだから、終わるんだろうな」と、待ち構えている感じでしたね。中には「本当に終わるの?」という空気感を出しているスタッフもいましたけど。僕が先生に直接、「終わるんですか?」と聞いたときも、「終わります!」とはっきり返答されていました。ただ当時、掲載されていた流れとは「ちょっと違う方向に行きますよ」とはおっしゃっていましたね。
奥 結果的に当初の予定通り、10巻でまとめることができてよかったです。たくさんのメディアから声をかけてもらえたのは幸運でしたし、僕としては「いぬやしき」という作品は、とても恵まれたものになったなと思っています。
「GANTZ:O」以来、プライベートで食事へ行く仲に
──奥先生とさとう監督の出会いは、やはり「GANTZ:O」がきっかけですか?
さとう そうです。シナリオの決定稿が出る手前ぐらいの段階で、初めてご挨拶させてもらいました。事前に奥先生はとても真面目な方だと聞かされていたので固い人をイメージしていたんですが、実際にお会いしたら物腰の柔らかな方でした。
奥 僕はさとう監督のアニメをずっと観ていてとても尊敬していたので、初めて会ったときは記念に握手をしてもらいました。監督の印象は……まあ、「明るそうな方だな」と(笑)。
さとう 僕はね、ずっとそう言われてます。小学校の頃から、通信簿に書かれるぐらい(笑)。
奥 監督に手がけてもらった「GANTZ:O」は、僕にとって宝物のような作品になっています。映像化された「GANTZ」作品の中で一番気に入っていますし、観直している回数も多い。僕はTwitterをやっているんですけど、ファンの方たちの間でも評判がよく、喜んでもらえている雰囲気がダイレクトに伝わってきました。
さとう いやあ、光栄です。僕たちも、どれが正解かはわからないですからね。とにかく原作者の先生に「この先がもっと見たい」と言ってもらえるものを作ろう、と思いながらやっているので。
奥 世の中にマンガを原作にしたCGアニメ映画はたくさんあるけど、ここまで原作の絵柄やキャラクター、エピソードなどをリスペクトしてもらった作品はほかになかったんじゃないかと。僕の作品を好きでいてくれる人たちも、みんな同じ気持ちだったと思います。
さとう 「GANTZ」は過去にアニメ化も実写化もされている、いわゆるメジャーな作品です。当然僕らが同じことをしても意味がないので、「GANTZ:O」は現代の日本で可能なCGアニメーションの頂点を目指し、「今、表現できる最高の『GANTZ』」を意識しながら作らせてもらいました。
──以来、おふたりの間で親交は続いてきた感じですか?
奥 食事は何度もご一緒させてもらってますね。
さとう 「GANTZ:O」について軽くディスカッションしたとき、お互いに映画が大好きなことがわかって盛り上がったんですよ。それがきっかけで、個人的に食事をご一緒する機会が増えました。
奥 ほとんど映画の話しかしませんけどね。
さとう 映画に登場する小道具だったり立体物だったり、ストーリー全体の構成だったり。そんな話ばっかりです。同世代なので、観てきた映画が似ているんですよ。
奥 映画の好みもお互いに遠くないなという印象です。
さとう 2人ともアメリカ映画が輝いていた、80年代後半~90年代の“ザ・ハリウッド”が好きなんですよ(笑)。
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「いぬやしき」を初めて読んだ感想は「僕の好きな世界だな」
- テレビアニメ「いぬやしき」
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放送情報
- フジテレビ「ノイタミナ」にて2017年10月12日(木)24:55から放送開始
ほか各局でも放送 - Amazon プライム・ビデオにて日本・海外独占配信
スタッフ
- 原作:奥浩哉 (講談社「イブニング」)
- 総監督:さとうけいいち
- 監督:籔田修平
- シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
- キャラクターデザイン:恩田尚之
- アニメーション制作:MAPPA
- フジテレビ「ノイタミナ」にて2017年10月12日(木)24:55から放送開始
©奥浩哉・講談社/アニメ「いぬやしき」製作委員会
- 奥浩哉「いぬやしき⑩」
- 2017年9月22日発売 / 講談社
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コミック 637円
- 奥浩哉(オクヒロヤ)
- 1967年9月16日福岡県出身。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはテレビドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載中の「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」を連載。イブニング2017年16号にて完結した。
- さとうけいいち
- 1965年12月18日香川県出身。Karasfilms株式会社所属。2005年、OVA「鴉-KARAS-」で監督デビューしたのち、「TIGER & BUNNY」「アシュラ」「神撃のバハムート GENESIS」など数々のアニメ作品を手がける。また2014年には実写映画「黒執事」の監督も務める。