コミックナタリー Power Push - 奥浩哉「いぬやしき」
ANIMAREALが愛を持って実写化! リアル犬屋敷&獅子神の誕生秘話
写真に勝るリアリティはない
──背景もかなりこだわって作ってらっしゃる印象です。
獅子神くんのほうの背景は渋谷ですね。広告は全部イブニングの作品にしてみました。「よんでますよ、アザゼルさん。」に「累 ―かさね―」に「いとしのムーコ」「海賊とよばれた男」……。
──これは探すのが楽しいですね。なぜ渋谷を選んだんでしょうか?
獅子神はゴジラみたいに、災害のようにどんどん街を破壊しているビジュアルにしたいということを打ち合わせで話してまして。それで渋谷にしました。
──背景は、写真を取り込んで加工しているんでしょうか。
基本的には写真をもとにしていますね。絶対無理そうなのはCGで作ったりしますけど、この渋谷は100%写真を使っています。さっきのモデルの話もそうですけど、できるだけ写真を使いたいというのがあるんですよ。写真に勝るリアリティは、CGではなかなか出せないので。この獅子神の傷や汚れも、CGではなくメイクで付けて撮影してます。獅子神に汚れを付けているのにも理由があって、例えば「FAIRY TAIL」のナツとかはムキムキだから上半身裸でも寂しくないんですけど、獅子神くんは普通の高校生なので、腹筋とか筋肉で陰影を出せない分、のっぺりしちゃうんですよ。背景がごちゃごちゃしてて迫力があるので、のっぺりしないように汚しを入れたり、あと煙とかも効果的に入れたりしています。
──いろいろと理由があるんですね。リアルに見える要因は、オールCGではなくできるだけ手を動かして実際に撮影しているからだ、と。
僕らはCG技術があるほうだと思いますけど、それでも写真に勝るものは出せないです。
愛があるかどうか、それだけ
──作品の内容についてもお伺いしたいのですが、市さんが思う「いぬやしき」の面白いところってどういう部分でしょうか。
僕、マンガはめちゃくちゃ読むんですけど、大体4巻、5巻くらいからエンジンがかかってくる作品が多いんですよね。でも「いぬやしき」は1話から面白いんですよ。設定が面白いので。サイボーグのおじいちゃんって何度かやられてるネタだと思いますが、こういうギャグっぽくなりがちな題材を、哀愁漂わせる感じにしているのも面白いですね。後半は獅子神くんの話にもなっていきますけど、彼のストーリーも悲しくて、深みがありますよね。
──コラボのオファーがあってから、手に取ったんでしょうか?
いや、もともと読んでましたね。1巻発売時から読んでました。基本的に少年・青年マンガが多くて、毎月引くくらいの量のマンガを読みますね(笑)。僕はもう電子書籍で買うんですけど、新刊のお知らせとかがメールやプッシュで来るじゃないですか。そこにある作品を全部一旦カゴに入れて、週末くらいにまとめて買っちゃいます。
──「いぬやしき」や「FAIRY TAIL」のほかにも、「銀魂」「ジョジョの奇妙な冒険」「ドラゴンボール」など本当にいろいろなマンガの“リアル化”をされてきていますけど、やはりファンタジーがやりがいのあるものなんでしょうか?
そうですね。マンガ原作の実写化っていっぱいありますけど、僕から見ればファンタジーってアウトなものが多かったんですよね。僕はやっぱりそこをやりたいし、静止画だからできることって多いんで。これを動かそうと思ったらものすごくお金がかかるけど、動かさないからできるわけなので。
──市さんはANIMAREALを始めたきっかけを「愛なき実写化への憤り」からだともおっしゃっていましたね。
ええ、それはもうハリウッドの「ドラゴンボール」からですよね。まあ時代もあると思いますけど。ちょっと前はファンの実写化に対するアレルギーがすごかったですから。今ってとにかくミュージカルや舞台をはじめ実写化が増えてきたんで、その辺りは受け入れられてきてますね。「ONE PIECE」なんて、歌舞伎までやってるじゃないですか。USJでもショーやってますけど、あの衣装は実はうちのメンバーが作ってるんですよ。ビジュアルもやらせてほしいくらいです。「FAIRY TAIL」も舞台化されますけど、俺にビジュアルやらせてよって思いましたね(笑)。
──市さんは実写化、コスプレ、ANIMAREALのリアル化の違いをどう考えますか?
実写化というのはビジネスかな。映画であってもドラマであっても商売なので、お金を払って見てもらうわけで。もちろんそれはそうあるべきだと思いますし。一方でコスプレっていうのは商売じゃなくて、個人の表現。いちファンの行動ですよね。で、僕らがやっている活動はそれをよりアートに近づけようとしていることなんです。だから撮影する段階ではコスプレイヤーさんと一緒なんですよ。モチベーションも見た目も。だけどみんなで力を合わせてアートにしていこうっていう意識があるので、こういう作品が生まれているんだと思います。
──ではマンガファンに認められるような実写化とはどういうものだと思いますか?
それはもう、愛があるかどうか、それだけでしょ。簡単なことですけど、商売になるとそこが忘れがちになるんでしょうね。逆にファンムービーってあんまり否定されることってないじゃないですか。僕たちも今でこそオファーが増えたりしていますけど、それでもやっぱり「いぬやしき」にしても、そこらのファン以上にファンであると思ってます。愛があるかどうかって、思った以上に伝わるものなんですよ。
渡辺しおんとの出会いが獅子神に人の痛みを思い出させた。だが、平穏な日々に暗い影が忍び寄る……。獅子神の脅威を前に人は武力の力を持って挑む。その行為は、果たしてどんな結果をもたらすのか。奥浩哉が圧倒的クオリティを持って贈る、衝撃作最新刊!!
奥浩哉(オクヒロヤ)
1967年9月16日福岡県福岡市生まれ。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはTVドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載中の「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。 2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」の連載を開始する。
市(イチ)
2012年にマンガ、アニメ、ゲームといったカルチャーから、新しい文化を生み出す「ANIMAREAL」を発足。写真や3DCGのほか、手描きや特殊メイクなどさまざまな手法を用いてマンガ・アニメの「リアル化」の表現を追求する。「劇場版銀魂完結篇 万事屋よ永遠なれ」のリアル銀時ビジュアルを皮切りに、「いくさの子」「テンプリズム」「いぬやしき」などの公式作品を制作。「月刊 FAIRY TAIL」では13カ月連続でピンナップを掲載。また、ももいろクローバーZの3rdアルバム「AMARANTHUS」を始め「Zの誓い」などCDジャケットのアートワークも手がける。