奥浩哉「いぬやしき」
「GANTZ」作者がイブニングで新連載 山本直樹×奥浩哉の師弟対談
山本先生の仕事を見ていたので、週刊連載だけはやりたくなかった(奥)
──アシスタントに入っていた期間はどれくらいだったんですか?
山本 確か「あさってDance」の最初の頃までだから、89年の春ぐらいまでやってたんじゃないかなあ。その年の春にはヤンジャンでデビュー決まって、すぐ連載が始まったんだよね?
奥 賞に入った「変」という作品が掲載されて、そのままヤンジャンでの連載が決まって。
──忙しくなったのを期にアシスタントを辞めて。
奥 そうですね。アシスタントの仕事も楽しかったし、なんとなく山本先生に呼ばれたら行くのが当たり前、みたいに思ってたんだけど、山本先生から「早くデビューしたほうがいいよ」って言われて。
山本 それは言ったね。常に言ってるかも。
奥 そういえばデビューするんだった、と思って。じゃあ描かなきゃなと思って描いて送ったのが、そのときちょうど賞の締切があったヤンジャンで。
山本 でも週刊連載だけはやりたくないって言ってたよね? 僕の仕事を見てて「こんな大変なのはまっぴら」だって(笑)。
奥 うん……ずっと言ってましたね。
──でも結構長いこと週刊連載されてましたよね?
奥 やらされましたね、無理矢理。
山本 ははは(笑)。
奥 僕はちゃんとヤンジャンの編集長を説得したんですよ。3時間くらいかけて、「こういう理由で(週刊連載は)できないんですよ」ってずっと説明して、「うん、そうかそうか」って言って。分かってくれたのかな、と思ったら、次に送られてきたヤンジャンに告知で「奥浩哉、◯号から連載!」って書いてあって。
山本 それが集英社のやり口(笑)。
奥 「ええええ!?」って(笑)。まあ、なんとかなったので今に至るんですけど。
おっぱいの大きさは師匠と全然違うね(山本)
──師弟関係とは言っても、現在のおふたりの作品の方向性はだいぶ違いますよね。
山本 まあ作風がまったく違うからねえ。特におっぱいの大きさは師匠と全然違うね(笑)。
奥 描く女の子の質は全然違いますよね。僕はわりとグラマーでデフォルメされた体型を描きますし。山本先生は独特のスリムな感じで。
山本 細いのばっかり描いてるね。
──やっぱり描くのはお好きなタイプの体なんですか?
山本 好きだねー。
奥 そうですね、好き以外にないですね(笑)。好きじゃなかったら描く理由がないですから。
山本 好きなものを描いてないと保たないからね、体力的にも精神的にも。
──女の子描くのが楽しいんですね。
山本 楽しい!
奥 僕も楽しいですよ。
山本 できればそれだけ描いていたい。
奥 最高ですよね。女の子だけ描いていられたら。
山本 僕、最近は服も考えるのが面倒くさいから、エロ連載のほうは裸か制服しか出てこなかったり(笑)。
パソコンの使い方はホントに対照的(山本)
──逆におふたりに共通している部分と言うと、やっぱりデジタル作画というところになるのかなと思うのですが。
山本 奥くんがアシスタントに来てた頃は、まだまだアナログ作業だったからね。会わなくなってから、奥くんもパソコンでやってるって知って。でもパソコンの使い方はホントに対照的だよね。
奥 まるで違います。
山本 僕はまだ1994年のMac用のソフトで描いてるよ。
奥 すごい! まだ対応しているんですか? 20年前のMacって。
山本 もちろん対応してないよ(笑)。だから中古のMacを探すんだけどさ、それがもう売ってないんだよ。
奥 え、この先どうするんですか……?
山本 どうしよう……。
奥 ええー(笑)。
山本 いや一応ね、1、2台中古は押さえてあるんだけど。でもMac本体よりも付属品のほうが調達できなさそうで。いま、モニターが結構やばいことになっててね。まだブラウン管なの。
奥 すごいなあ、保つんだなあ……。
山本 結構もう死にそうなの。1回つけるとね、一瞬画面が真っ赤になってプツンってキレて。
奥 うわっそれヤバくないですか。よくやってるなー。
山本 それを5、6、7、8回くらい繰り返すとプツンしなくなるの。
奥 騙し騙しですね(笑)。コミックスタジオとか、最近のソフトに切り替えるとかしないんですか?
山本 コミスタは一応買ったけど、使ったことないんだよね。やっぱり今の作業に慣れちゃってさ。二値画像は90年代初めで完成しちゃってるから。僕、原稿1枚500KBとか800KBとかだからね。
奥 めちゃくちゃ軽い(笑)。
山本 奥くんの原稿は1枚どれくらい?
奥 何十MBとかですね……100MB近いこともあるかな……。
山本 同じデジタル原稿なのに全然重さが違う(笑)。
「いぬやしき」連載開始直前企画!トリビュートイラスト「わたしのいぬやしき」収録
参加作家
雨隠ギド、上条明峰、木多康昭、久保保久、鈴木央、濱田浩輔、Boichi、真島ヒロ、山本直樹、山本英夫、よしながふみ
「イブニング 2014年4号」 2014年1月28日発売 / 講談社 / 350円
奥浩哉(おくひろや)
1967年9月16日福岡県福岡市生まれ。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはTVドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載中の「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。 2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」の連載を開始する。
山本直樹(やまもとなおき)
1960年2月北海道生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。大学4年生の時に小池一夫主宰の劇画村塾に3期生として入門しマンガ家を志す。1984年に森山塔の名義で自販機本ピンクハウス(日本出版社)にて「ほらこんなに赤くなってる」でデビュー。同年、山本直樹名義でもジャストコミック(光文社)にて「私の青空」でデビューした。森山塔のほか塔山森の名義でも成人向け雑誌や青年誌などで活躍。1991年には山本直樹名義で発表した「Blue」の過激な性描写が問題となり、東京都条例で有害コミック指定され論争になった。1992年、石ノ森章太郎が発起人となり結成された「コミック表現の自由を守る会」の中核として活発な言論活動を行いマンガの表現をめぐる規制に反対。その後も作風を変えることなく「YOUNG&FINE」「ありがとう」「フラグメンツ」など数々の問題作を発表した。早くから作画にコンピュータを取り入れ、生々しさをともなわない硬質な筆致から女性ファンも多い。その他の代表作にカルト教団の心理を題材にした「ビリーバーズ」、連合赤軍の革命ドラマ「レッド」など。またマンガ・エロティクス・エフ(太田出版)のスーパーバイザーを務めている。