コミックナタリー Power Push - やまさき拓味「犬と歩く」
犬はなんでも覚えてるんです──。信念に根ざした感動の人間×犬マンガ
どうやって感動的な話にするか、それしかできない
──しかし朝の散歩取材だけで、これだけのお話が聞けるもんですか。
いや、話は話で、別口でも取材してるんです。僕の知り合いで犬のトレーナーさんがいて、もともとは警察犬のトレーナーやってた人なんだけど、いまはいろんな学校で教えている。彼がいま、災害救助犬のチームで先生をやってるんですよ。警察犬はシェパードって決まってるでしょ、災害救助犬もたいがい決まってるんだけど、先生はいろんな犬種で災害救助犬ができるんじゃないかと考えて、チームを結成してるんです。
──面白いですね。チワワでもいいんですか。
チワワもいます。たとえばミニチュアダックスなら、シェパードが入っていけない狭い穴に入っていける、といったそれぞれの利用価値があるわけですよ。そのチームの集まりに行って、たとえば消防車のサイレンに反応する犬がいますよ、とかネタを仕入れてくる。
──火事の記憶を背負った犬の話ですね。
そう。これは見かけはうちの紋次郎で、エピソードはその災害救助のところで聞いた話。そういったコンビネーションが多いですね。結構ここのチームで仕入れたネタが多いかもな、お話のほうは。夫婦のかすがいになる犬の話もそうだし。「雷を嫌う犬」は、僕が行ってる歯医者のところの犬。雷を怖がってソファを破っちゃうんだって。
──ソファ破るだけのエピソードを、老人と昭和の記憶の人間ドラマに仕立てるのだから、素晴らしい手腕です。
まあ考えてたら出てきただけですけどね。雷といえば昔から蚊帳でやり過ごすもんだと。そうすると昭和の田園風景が出てくるし、そこで暮らしてるおじいちゃんが思い浮かんで、とかいろいろ足していって、どういう風に感動的な話にしてくかなーって。
──感動的な話にしていこうっていうのは、割と狙いとして?
そうです。僕がそういうお話が好きですから、そこは迷いなく。コミカルな話とか、そういうの苦手なんですよ。ギャグものっていうのが。僕がやったって描けないし。
スムースなときは文章、難産のときは絵から始まる
──やまさきさんの画風ともマッチしていると思います。冒頭におっしゃった、写実的なんだけど表情で感情を語らせるという。お話づくりはいつもどんなスタイルで?
これがね、スラスラいくときと詰まったときとで、まったく違うんですよ。
──スラスラのときは?
スラスラのときは、文章なんです。箇条書きだけど、どんどん出てくるストーリーを、自分にしか読めないような字で書き付けて。3時間もあれば形になって、あとはコマに割り付けていくんですけど、難産のときはね、大変なんですよ。
──文章が出てこないわけですね。
そう。仕方ないから、とりあえず描く犬を決めて、かわいい仕草でも描いてみるんですよ。なんならもうコマ割りもしちゃって、犬の絵を埋めていったりする。
──ビジュアルから発想するわけですか。割とそういうことはあるんですか。
スラスラのほうが少ないかも(笑)。でもそうやって描いてるうちに、集中していくのかもわからないですね。あとは延々悩んでもできなくて、夜中の2時、3時、もう4時になって明るくなってきても出てこなくて、「ああもう今回こそダメだーっ」って嘆きながらウトウト眠っちゃう。そしたら「あれ、できた!」って目が覚めるんですよ。
──それは、夢の中でお話ができたということですか?
わからない。夢を見てたのかも覚えてない。ただパッと目が覚めて、15分くらいでできてしまったりすることがあります。あれ、寝て起きたらできるとわかってるなら、もっと早く寝ればいいんだけど(笑)。
──やまさきさんほどのベテランになっても、やっぱり産みの苦しみは変わらないんですね。不安と長年よく付き合ってらっしゃると思うのですが。
そうは言ってもネームで潰すのは1日ですよ。ネームに2日潰れたら次出ないからね、週刊は。
作品紹介
ダックスフンド、ワイヤーフォックステリア、キャバリア、パピヨン、ゴールデンレトリバー、チワワ、シーズー、7種類7匹の犬と7組の飼い主。動物マンガの第一人者・やまさき拓味が、実際に出逢った犬と飼い主をモデルに描き出す深い絆のストーリー。
やまさき拓味(やまさきひろみ)
1949年和歌山県生まれ。1972年に小池一夫原作「鬼輪番」でデビュー。多数の競馬マンガを執筆しており、代表作は「優駿の門」シリーズ。感動的な話作りに定評があり「涙の巨匠」の異名を持つ。